第33話:やっと見つけたぞ

 次の日から、ララティは魔法学院には通わないことになった。

 万が一学院でララティを襲う魔物が現れたら、みんなに迷惑をかけるから、という彼女の判断だ。


 それに一日も早く、ブゴリに化けた魔族の潜む場所を見つけないといけない。

 そのためには一時いっときたりとも時間を無駄にはできない。


 なんらかの理由を付けて、長期で学校を休む手続きをしたらしい。

 その辺り、どういう手段を使ったのかよくわからないけど、ララティいわく、協力者がいるそうだ。

 まあ入学だってできたんだし、魔王の娘にとっちゃ、休学くらい造作ぞうさもないことなのかもしれない。


 俺が学校に通っている間も、毎日ララティはあちこちを飛び回って、魔族の隠れ家を探した。


「ねえフー君。次の休みに、またどこか遊びに行かない?」


 学校でマリンが誘ってくれた。だけど魔族が潜む場所をララティが見つけたら、一緒に実戦に出ないといけない。

 ララティが自我亡失してしまうまで、もうあまり時間がないんだ。

 遊びに行ってる場合じゃない。


「ごめんマーちゃん。最近色々と忙しくてさ。なかなか遊びに出られないんだ」

「それは残念だわ。もしかしてそれってララティさんのせい?」

「あ、いや……えっと……」

「やっぱりそうなのね。妬けちゃうわ」

「うぐっ……でもごめん」

「冗談で言ったのだけれども……ごめんってことは、本当にララティさんになにかあったってことかしら?」

「うん。でも詳しくは言えないんだ」

「わかったわ。フー君の真剣な顏を見たら何も言えない。きっと何か大切な要件なのね。わかったわ。がんばってね」


 深い詮索はせずに、俺を信じてくれてる。

 マリンの優しさがとてもありがたい。


「その要件が落ち着いたら、また一緒に遊びに行ってね」

「あ、うん」


 明るい笑顔を見せるマリン。

 見た目も美人で性格も美人。そんなの最強だ。


 ***


 俺が学院でそんな日々を過ごすうちに、どんどん日は少なくなっていく。

 ララティは毎日、朝から晩まで魔族の潜伏先の探索を続けた。

 毎日夜遅くになって彼女が帰宅するたびに、俺は尋ねた。


「魔族の潜伏先は見つかった?」

「いや。今日も見つからなかった」


 ララティが心当たりがある潜伏先を探しまくっている。かなり広い範囲にわたって飛び回っている。だけど、なかなか見つからない。


 ──このままだと、自我亡失まで日がなくなってしまう。


 焦る俺を抑えるようにララティは言った。


「フウマ。焦るっても仕方ない。コツコツやるしかないんだ」


 ララティの方が怖いだろうに。

 なんでこんなに落ち着いていられるんだ。


 俺が疑問に思っているとララティは穏やかに笑った。


「キミがそばにいてくれるからだよ」


***


 さらに日が過ぎ、ララティが言っていた「自我が亡失する日」まであと3日となった日の夜。


 帰宅したララティが言った。


「やっと見つけたぞフウマ。かなりの高確率で、魔族が潜んでいそうな場所だ」


 良かった。もうあまり猶予はないが、それでも何日か余裕があるうちに見つかって良かった。


「やったなララティ! どこだ?」

「明日の朝に出発しよう。詳しい場所は出発する時に言うよ」

「わかった」


 そんな会話をしてたら、カナとレムンが不安そうな顔で俺たちを見ていた。


「心配するなカナ。お兄ちゃんは大丈夫だ」

「ホントに……?」


 なかなか信用してもらえない。

 それは仕方ない。俺が決して強くないことをカナは知っているんだ。


「心配しないでいいよカナちゃん。フウマは強くなってる。だから大丈夫だ。あたしを信じてよ」

「うん、わかった。ララお姉ちゃんが言うなら大丈夫だね」


 俺は妹に信頼ないな……


「あははフウマ。そんな情けない顔すんな」

「だって……」


 ララティの言葉ならすぐに信用するなんて、悔しいじゃないか。


「フウマさま。レムンはフウマさまを信頼申し上げておりますわ」

「ありがとうレムン!」


 ケモ耳も尻尾もぴょこぴょこと動かしながら、ニコニコ笑顔のレムン。

 可愛く俺を励ましてくれるなんて、やっぱいい子だな。


「コホン!」

「イテっ!」


 なぜかララティが咳ばらいをしながら、俺のすねを蹴った。


「なにすんだよララティ!」

「咳のせいで、条件反射で足が出た」

「んな条件反射があるかよ?」

「あるんだから仕方ないだろ」


 なんか腑に落ちない。

 ララティは俺に冷たくないか?


「まあとにかくだフウマ。明日に備えて今夜はゆっくり休もう」

「あ……うん。そうだな」


 ララティの言うとおりだ。

 今は拗ねてる場合じゃない。

 明日になったら魔族との実戦があるんだ。気力体力を充実させておかなくちゃならない。


 そう思って、俺達は夕食を済まし、その夜は早めに寝床に着いた。




= 魔王の娘、ララティ・アインハルト・ルードリヒ。自我じが亡失ぼうしつまであと3日 =

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