第35話:すごいぞ、想像以上だ

 そこから2階層降りて洞窟のような場所を歩いていたら、突然小さな魔物に遭遇した。 少し大きめのコウモリ型魔物「バットン」だ。


「フウマ。ちゃちゃっと倒してみようか」

「待てよララティ。落ちこぼれ魔術師の俺だぞ。ちゃちゃっと倒せるわけないだろ」

「自分で自分をディスるな。今のキミなら、あのレベルはちゃちゃっといける」

「マジかよ。まあやってみるけど」


 天井にぶら下がっていた5、6匹はいるバットンが「ぎゃぅぅっ」と奇声を発しながら、突然こちらに向かって飛んできた。


 ヤバっ! バットンは動きが早いししかも複数。

 そんなの想定してなかった。


 慌てて手を挙げて呪文を詠唱した。


火による攻撃魔法バッケン・グリフ!」


 手のひらから大きくて勢いのある火の玉が飛び出す。

 素早いスピードで飛行するバットンよりも早いスピードで、火の玉が獲物をバッチリ捕らえた。

 すべてのバットンをまとめて火だるまにし、灰にしてしまった。


 一網打尽ってやつだ。すげぇ。

 自分でやったとは信じられない。


「すごいぞフウマ! 想像以上だ!」

「お、おう。ま、任せとけ」


 ちょっと強がりを言いながら振り向くと、ララティはキラキラと輝く瞳で俺を見つめている。


「カッコいいぞフウマ」

「あ、ありがとう」


 いやいや、ララティの方が圧倒的に強いはずなのに、なぜそんなキラキラした目で見つめるんだ? 恥ずかしいだろ。

 でも強くて可愛い女の子にこんな目で見てもらうのは嬉しいな、あはは。


 ──なんて調子に乗っていたのだけれども。

 もう少し下層に進むと、魔物のレベルが急に上がって強いヤツに遭遇したのだった。


 それは8階層目の奥まで進んだ場所に居た。


 そこに行くまでにも、徐々に大きくて強い魔物がいるように変わって行った。

 だけどそれまでは、人間くらいの大きさだったし、あまり苦労なく倒すことができた。


 だけどここで出会ったヤツは──


「でかっ!」


 そいつを目にした瞬間、無意識に口から言葉が飛び出していた。


「ふむ。あれはトロルだね」


 緑色の肌。禿げ上がった頭。人の3倍はある大きさ。

 筋肉隆々でいかにも力が強そうだ。


 ララティは何げない顔してるけど、俺は正直言って怖い。


「まあここからが本番って感じかな。がんばれフウマ」


 そんな軽く言われても!?

 ──と思ったけど。

 ララティのためにがんばろうと決めたんだ。やらなきゃ。


 俺たちの会話が聞こえたのか、トロルがこちらを見た。そしてドスドスと地響きを立てて、こちらに向かって走ってくる。


 こっちをすっげぇ睨んでるんだけど?


「うわっ、ヤベ! どうしよう?」

「落ち着けフウマ。あいつはキミが一番得意な炎の魔法で充分倒せる」

「わ、わかった」

「だけどあれくらい大きなモノになると、一発ではなかなか倒れない。だから先に痺れさせる魔法でヤツの動きを封じてから……」

火による攻撃魔法バッケン・グリフ!」

「いや、最後まで話を聞きなよフウマ!」

「え?」


 テンパって、ララティの話をちゃんと聞いてなかった。とにかく早く攻撃しなきゃと焦って、火の玉魔法を撃っちゃったよ。


 俺の手から飛び出した炎の玉が、トロルを直撃した。激しい炎が魔物を包む。


「ぐがぁぁぁおおーっ!」


 トロルが悲鳴を上げる。そしてあっという間にトロルは完全に灰となった。

 俺のたった一発の火の玉で。


「おおっ、すごいぞフウマ! 秒殺だ!」

「……え? なんで? あのトロル、思ったよりも弱かったってこと?」

「何言ってるのだ。思ったよりもフウマが強かったってことだよ」

「ホントに?」

「うん、ホントに!」

「信じられない」

「ボク何かやっちゃいましたか? ……的な顔すんな。フウマの実力が上がってるってことだよ」


 マジか。


「どうだフウマ。身体の中に何か変化を感じないか?」

「そう言えば……体内の魔力が大きくなっているって言うか、練られているって言うか……どっちにしても、力が強くなっているのは間違いない」

「よし、いい感じだ。この調子でどんどん魔物を倒して行こう! これなら想定以上のペースで、経験値を積めそうだ」


 ララティはホッとした表情を見せた。

 ここまで不安を口にはしてなかったけど、やっぱりホントは、上手くいくかどうか心配だったのだろうな。

 だけど俺のために不安にさせないようにしていたに違いない。


「ふむ。苦労して、魔物が豊富なここを見つけ出した甲斐があったな」


 したり顔のララティ。得意げな感じが子供みたいで可愛い。


「どうしたフウマ? なんでニヤニヤしてる?」

「いや別に。何もないよ」

「何もないってことはあるまい」


 ララティが睨むせいで、言うのも恥ずかしい本音をつい漏らしてしまう。


「いや……ララティ可愛いなと思って」

「ぶわっ……なっ、なにを言ってるんだ? あたしなんてガサツで気が強くて可愛いなんてことは全然なくって……」

「いや可愛いぞ」

「そ、そっか……」


 ララティは真っ赤になってうつむいた。

 そんな姿もまた可愛い。


「と、とにかくだフウマ。まだまだ実戦を積まないといけない。進むぞ」

「わかった。がんばろう」


 俺たちはどんどん先を進むことにした。

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