第29話:怒るララティ
ブゴリの強力な魔力を見ても、ビビることもなく、逃げようともしないララティ。
いったいどうしたんだ?
「だからブゴリ! あたしらの会話を邪魔するなと言っておろうが!」
あれ? こっちも堪忍袋の緒が切れた?
激怒したララティが、ブゴリに向けて手をぐりんとひと振りした。
無詠唱で発動したバカでかい雷が、ララティの手からブゴリに向かって飛び出した。
「くっ……」
ブゴリは横っ飛びで雷を避ける。
ドカンと大きな音を鳴らして、さっきまでヤツがいた場所に雷が落ち、地面にバカでかい穴が開いた。
なんだこのすごい威力は!?
信じられないくらい強大な魔力だ!
「さすが魔王の娘だ。なかなかやるじゃないか。ふふふ、俺の見込んだ通りだな」
──あれっ?
ララティのアホみたいに強力な魔法を目にした途端、突然ブゴリの態度が変わった。
冷や汗をかいたような焦った顔。
さっきは親の七光りで偉そうにしてるだけだって言ってたよね?
なにが俺の見込んだ通りなんだよ?
自分の見立てが間違ってたって、素直に認めたらどうなんだよ。
「仕方ない。今日のところは見逃してやる。だがしかし、その男、フウマへの怒りも忘れないからな。お前も殺される覚悟をしとけよ。フッフッフッ……」
笑ってるけど顔が真っ青。余裕かましてふりをしてるけど、ホントはララティの凄さにビビってるのが丸わかりだ。
「見逃してもらわなくて結構だ。貴様ムカつくから、今ここで勝負をつけよう」
「いや、見逃してやるって言ってんだから、人の厚意は素直に受け取れよ魔王の娘!」
「別に厚意なんて要らぬ」
「頑固だなお前。とにかくさらばだ!」
焦り口調でそこまで言って、ブゴリが急いで何かの呪文を唱えた。
「あ、お前! 逃げるな!」
ララティが手を伸ばして捕まえようとするのを、あと少しの所でヤツの身体が霧のようい消え去った。瞬間移動魔法だ。
ブゴリのヤツ、口ほどにもなく、無様に逃げて行ったな。
……というか、ララティが強すぎたんだ。
実際にはヤツの魔力は相当強力なものだった。もしも今後、ララティのいない時に襲われたら、きっと俺も学院の生徒達もひとたまりもない。
えらいことになったぞ。これからどうしたらいいんだよ。
「フー君、大丈夫?」
心配そうな顔でマリンが駆け寄ってきた。
心配をかけるわけにはいかない。だから平気なフリをする。
「ああ、ララティのおかげで大丈夫だ」
「そう言えばさっきブゴリが、ララティのことを魔王の娘って言ってたわよね? あれ、どういうこと? 本当の話なの?」
マリンが俺とララティの顔を交互に見ながら訊いてきた。
ああ、やっぱりさっきの話はマリンに聞かれていたか。
──背筋を冷や汗が流れた。
ララティが魔王の娘だってことがバレてしまう。マズい。
うまく誤魔化さなきゃ。
……いや待て。
今後も魔族がララティを襲って来るとしたら、周りの人間も警戒を高めた方がいい。そのためには本当の情報を伝えた方がいいよな。
マリンは人格者だ。ララティは魔王の娘だけど、悪いヤツじゃないってわかってくれると思う。
つまりマリンには、本当のことを打ち明けた方がいい、ということだ。
俺はララティに「本当のことを喋ってもいいか」とアイコンタクトをした。
うんとうなづくララティ。
「えっと……聞いてくれマリン。さっきの話は事実だ。ララティは魔族で、魔王の娘だ。今まで黙っていてごめん」
「え?」
元々大きなマリンの目が、クリンとひときわ大きく見開いた。
俺はララティとの出会いから、これまでの経緯をザッと説明した。
「そうなのね」
マリンは一切疑わず、俺の言うことを信じてくれた。
やっぱりいい人だ。
「ああ。だけどララティは本当に良いヤツだから、無視したり怖がったりしないでほしい」
「ええ、わかったわ。あなたが言うなら信じる」
マリンがわかってくれたことは嬉しいし、今後の対策を取る意味でも助かる。
「ありがとうマリン」
「どういたしまして。フウマ、あなただから信じれるのよ」
そう言ってジッと俺を見つめるマリンの青い瞳が、透き通ってとても綺麗だった。
あなただから信じれるって……なんて嬉しいことを言ってくれるんだろうか。
俺も思わずマリンの瞳をじっと見つめ返していた。
「コホンコホン! 貴様ら、見つめ合いすぎだぞ。いい加減にしろ」
「あ、ごめんララティ」
ララティが腕組みをして、頬をプクリと膨らませている。
うむ。ララティの言う通りだ。確かにこの一大事に、のんびりしていてはダメだよな。
「それにしてもブゴリって、元々魔族だったのかしら?」
「いや、たぶん違うだろう。以前からブゴリは意地悪なヤツだったけど、それでも今みたいなどす黒い魔力を感じることは一度もなかった。きっと彼は最近誘拐されて、魔族がヤツとすり替わったに違いない」
「確かにそうね。だとすると、本物のブゴリは無事なのかしら……?」
マリンの質問に、ララティが無慈悲に答えた。
「それはわからん」
俺とマリンは言葉を失った。
嫌なヤツだからと言って、魔族に捕らえられて命まで取られるのを想像したら、背筋に冷たいものが走る。
ララティは関わりが少ないからそんなに心配じゃないのかもしれない。だけど俺やマリンにとっては、嫌なヤツであっても長年一緒に学んでる仲間だ。
「だからできるだけ早く、さっきの男を探し出そう」
ララティもブゴリを心配してくれてるんだ。
「でもどうやって?」
「それは……後で話すよフウマ」
ララティは少し難しい顔でそう言った。
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