第28話:魔族との初対決
ララティが「禍々しい魔力の発生源」だと指差した相手は、なんとツバルの腰巾着の一人、ゴブリだった。
他の生徒たちはみんな会場から立ち去ったのに、なぜかブゴリだけが残って、俺たちに近づいてきていた。
平民を小ばかにする典型的な嫌な貴族。だらしなく太った身体。
確かに好感度は学校でもかなり低い男だ。だけど、だからと言って彼が魔族だなんて、すぐには信じられない。
「何を言い出すかと思ったら、俺が魔族だって? あははバカらしい」
「そうかな? 全然バカらしくなんかないけど」
「いったい何を根拠に、お前はそんなことを言うんだい?」
「とぼけても無駄だよ。あたしが魔族の魔力を感知できないとでも思ってるのか? 貴様があたしに攻撃する気満々で近寄って来たのは丸わかりなのだよ」
「いやいや、何を言ってるかわからないなぁ」
ブゴリは立ち止まり、首を傾げた。
「とぼけるな。化けの皮を剥がしてやる」
ララティが突然手のひらをブゴリに向けた。あっという間に手の周りに魔力が集積する。
なにか攻撃魔法を放とうとしてるのは明らかだ。
ヤバい! もしも相手が魔族じゃなくて普通の人間だったら、ドえらいことになる!
「待てララティ! やめろ!」
「はい、やめます」
──え?
ララティは素直に攻撃をやめて、手を下ろした。
自分で止めたものの、彼女があまりに素直に従ったからびっくりした。
でもまあよかった……と思ったのも束の間。とんでもないことが目に飛び込んできた。
「……え? 危ないララティ!」
俺が叫んだ時にはもう遅かった。ニヤリと笑ったブゴリが指をパチンと鳴らすと、指先から鋭い光線が放たれた。
「くっ」
身体をよじって避けたララティだが、光線は太ももをかすった。
白い太ももからじんわりと赤い血が滲む。
「さすが魔王の娘だ。よくぞ避けたものだ」
ララティは手で足の傷を押さえ、痛そうに顔を歪めた。
攻撃してきたうえにララティが魔王の娘だと知ってる。
それはつまり、ブゴリが魔族だということにほかならない。
──くそっ、俺のせいだ。
俺が止めたせいで、ララティの動きに一瞬のスキができた。
だからヤツの攻撃を喰らってしまったんだ。
俺の判断が間違ったせいで、彼女を傷つけた。
なにやってんだよ俺!
俺は自分で自分にムカついた。
頭に血が昇って、無意識のうちに片手をブゴリに向けてかざしていた。
そして怒りをぶつける。
「
さっきの対戦でツバルに向けて発動した時よりも、何倍も大きな念が込められた魔法。そのせいか、さっきよりも威力が強い爆風が飛び出した。
「ふん。人間ごときの魔法なんて大したこと……」
ニヤニヤ笑ったままのブゴリに、爆風が襲いかかる。
──ドンっ!!
言葉の途中で爆風を受けたブゴリは顔を苦しそうに歪め、けれども倒れまいと足を踏ん張る。しかし耐え切れずに大きくのけぞって、ドサッと仰向けに倒れた。
「うぐぅ……なんだ? 弱そうな人間ごときの魔法が、なぜこんな威力を持つんだ?」
呆気にとられた表情で、ブゴリは即座に立ち上がった。
「くそっ、やってくれたな。ララティが攻撃の目的だったが、フウマ、お前を先に殺してやる」
俺の魔法は残念ながら、さすがに魔族を倒すほどの威力は持ち合わせていなかったようだ。
──ってことでヤバいぞ。コイツの怒りを買ってしまった俺、殺されるかも。
「すごいぞフウマ!」
「え?」
なんだかララティが、キラキラと輝く目で俺を見ている。
相手を倒せなかったのになんで?
「あのクラスの魔族を倒せる所まで、キミの魔力が向上したということだ」
いや、それは確かに嬉しい。
倒すって言っても本当に倒れただけで、やっつけるという意味では全然ないけど。
まあそれでも嬉しい。
「おいフウマ! なによそ見をしてる? 本当にお前から殺してやるからなっ!」
ブゴリはまだ攻撃をしようとするし、つまり俺はまだピンチだ。
今まさに俺は魔族に殺されようかって時なのに。
「しかも身体を張ってあたしを守ろうとしてくれた。ありがとうフウマ!」
ララティに思いっきりの笑顔で笑いかけられた。
えっと……緊迫したシチュエーションなんですけど?
なんでそんなに能天気なんだよ?
「いえ、どういたしまして……ところでララティ、ケガは?」
「もう大丈夫だ。フウマが時間を稼いでくれてるうちに治癒魔法で治った。あの程度の軽いケガなら速攻回復だ」
「そっかよかった」
「おおっ、フウマ……あたしを心配してくれるんだな?」
「当たり前だろ」
「そうか。あたしは嬉しいよ……」
そこで突然ブゴリが会話に割って入った。
「おいおい、こらこらお前らいい加減にしろ! 黙って聞いてたらいつまでやってるんだ? 俺を無視して、なにをイチャイチャすんなっ!」
魔族の男が突然キレた! キレてるぞっ!
やっぱ大ピンチだ!
「うるさいぞお前。せっかくフウマと話をしてるのに邪魔すんな」
あれ? ララティの方がキレてる? なんで?
「くそっ舐めやがって……冗談じゃないってことを見せてやる。魔王の娘だからって偉そうにするな。お前なんて所詮、親の七光りで偉そうにしてるだけだろ。覚悟しろ、お前の命もここまでだ。二人まとめてぶっ殺してやる!」
堪忍袋の緒が切れたブゴリは、両手を大きく広げて、何やら魔法の詠唱を始めた。邪悪な魔力がどんどん大きくなっていく。
さっきのデカい邪悪な魔力が、さらに信じられないくらい大きくなっている。
やっぱコイツ、めっちゃ強い!
こりゃ本格的にマズいぞ!
「早く逃げようララティ!」
俺はララティを促したけど、なぜか彼女は動こうとしない。
どうしたんだ?
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