第27話:勝負がついた30秒
***
「え? なにが起こった?」
俺が先手必勝で放った
彼は慌てて防御魔法を張ったが爆風の勢いが強すぎて気絶した。
結果、開始30秒で俺の勝ち。
フラワ先生は慌ててツバルの元にすっ飛んで行って、治癒魔法をかけている。
腰巾着のノビーもツバルのところに駆け寄った。
いや待って。俺の
上手くいけばツバルに膝をつかせるくらいはできるかも、とは思ったけど……なんでこんなに強力なんだ?
見学に来ている人々はみんな呆気に取られてる。
そして一瞬ののち、観客からはどよめきが起きた。
「アイツすげーっ!」
「見たか今の魔法!?」
「おう、見た見た! 超強力だったな!」
みんな驚いてる。
そりゃそうだ。俺みたいな落ちこぼれが、一瞬で勝ったんだから。
俺自身が一番驚いてる。
「よしよし、いいぞフウマ! よくやったよ。予想どおりだ」
大きく拍手しながらララティが近づいてきた。
なぜかすごく得意げな顔をしてる。
「すごいわねフー君! 勝利おめでとう!」
今度はマリンが祝福を述べながら近づいてきた。こちらはすごく感心した表情。
美人にこんな顔で祝福してもらえる日が俺にやって来るなんて、今まで想像できただろうか。
いやできない。
「二人ともありがとう。……でもいったい何が起きたのやら、自分でもさっぱりわからないよ」
もしかしたら俺は、人生の全部の幸運を、今日使い果たしてるのかもしれない。
だったら嫌だな。
「まああたしのおかげだな」
「ララティのおかげだって? どういうこと?」
「まあいい。気にするな。ククク」
なんだよそれ。単に俺に恩を売りたかっただけなのかな?
でもまあいいや。勝つってのはやっぱ気持ちいい。しかも相手は魔法の実力がそこそこ優秀なツバルだからな。
うん、よかった。嬉しい。
──なんて能天気に喜んでたら。
その時、一瞬背筋がゾクっとした。
「なんだこれ!?」
なにか邪悪な力が近づいて来たような感覚。
もしくは何か良くないものに見つめられたような感覚。
これは……邪悪な魔力の気配か?
もしかして魔族が近くにいるのか?
俺の魔力感知能力は、はっきり言って弱い。
そんな俺でも充分感知できるくらい、強大で邪悪な魔力。こんなのを持つのは、かなり強い魔族しかあり得ない。
周りを見回した。
フラワ先生はツバルを連れて医務室に行ったようだ。
俺たちの対戦を見物に来た多くの生徒は、三々五々、帰宅の途についている。
おかしな気配に気づいている者はいないようだ。
と言うことは俺の勘違いかな?
「フウマ。気をつけろ。魔族だ」
ララティが腰を低くして周りをキョロキョロと見回している。
何かを警戒するような態度だ。
「そうね。それもかなり強力な」
マリンも同じく周りを警戒している。
つまり俺が感じた邪悪な気配は、やはり本物だということか。
あ、でもララティは魔王の娘だ。
ということは魔族は彼女の部下たち。何も恐れる必要はないはずでは?
マリンには聞えないように、ララティに話しかけた。
「なあララティ。なぜ魔族が近くにいるからって、そんなに警戒してるんだ? 仲間だろ?」
「いや、まあちょっと色々あってな。あたしは魔族の幹部連中から、快く思われてないんだよね。だから今までも追われたり襲われたりしてたんだけど……こりゃ本格的にマズいかもね。あたしの居場所が特定されちゃったね」
いやちょっと待ってよ!
されちゃった、じゃなくてっ!!
これ相当ヤバくない!?
どうしよう?
あ、そうだ! 先生に助けてもらおう。
ブラック先生は……どこだ? 姿が見当たらない。
あの先生は数か月前にこの学院に赴任してきたばかりだし、前から怪しい雰囲気だったし。もしかしたら──
「なあララティ。ブラック先生が魔族なのか?」
「なぜそう思う?」
「だって見るからに怪しいし、めちゃくちゃ陰気だし」
「ちょっと待てフウマ。確かに魔族には陰気なキャラも多い。だけど陰気だから魔族と決めつけられたらあたしはちょっと悲しいぞ」
いや待って。なんで涙目なんだ?
そんなにショックを受けた顔をされたら困ってしまう。
俺も決めつけて悪かったけどさ。
確かにララティはあっけらかんと明るいタイプだし、魔族だからみんな陰気だってことはないんだな。
だからと言って、そんなに悲しそうな顔をしなくても……
「すまんララティ。キミみたいに明るくて素敵な笑顔の魔族もいるのに、決めつけて悪かった」
「ブフォッ……」
「え? どうしたのララティ? なんで吹き出してるの?」
「いや、キミみたいな素敵な笑顔って……そっか、フウマはあたしのことを、そんな目で見てたのだな。素敵な女の子だと思ってたのだな」
「あ、いや……」
しまった。女子にキモいと思われるようなことを、つい口にしてしまった。
ララティがあまりに悲しそうな顔をするから、そうじゃないと伝えたくて、つい歯が浮くようなことを言ってしまった。
悪気はなかったし、そう思ってることは事実だけど、もう少し言い方に配慮が必要だった。
「フウマがそう思ってくれてるなら、すべて許す。ムフ」
──え? 許してくれた? マジか?
よかった。やっぱいいヤツだなララティ。
「ありがとうララティ」
「まあよい、まあよい」
俺とララティの間に、優しくて暖かな風が流れた──ような気がした。
「ねえフー君。さっきからララティさんと、コソコソなにを話してるの?」
「え? いや別に。ちょっとした世間話だよ」
ララティが魔王の娘だってことは、マリンに言うわけにはいかない。
まあ言ったところで冗談としか受け取らないだろうけど。
「今、正体不明の邪悪な魔力が漂っているのよ? そんなラブラブな空気を醸し出している場合じゃないと思うけど?」
「いや、別にラブラブなんかじゃないし」
「周りから見たら、そう見えるのよ」
マリンに思いっきり睨まれたし言い方に棘がある。
頬がぷくっと膨らんでるのは可愛いけど、真剣に怒ってるんだからちゃんと謝ろう。
「はい、すみません」
「いいわ。許してあげる。私の方こそ、嫉妬してごめんなさい」
嫉妬? 人気者のマリンが? 俺に?
まさかな。冗談に決まってるよな。
「コホン。ところでフウマ。さっきの話だが」
なぜかわざとらしく咳ばらいをしたララティ。
「え? なに?」
「この禍々しい魔力の発生源はブラック先生じゃない。それはアイツだ」
ララティが指差した先には、ツバルの腰巾着の一人、丸々と太ったブゴリの姿があった。
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