第22話:逃げるから追いかけて来た

 なんでララティがここにいるんだ!?

 ──という驚きのせいで、俺が放った「火による攻撃魔法バッケン・グリフ」が大木を真っ二つにしたことは、すっかり頭から抜けた。


「フウマが逃げるから追いかけて来たんだよ」


 完璧に撒いたはずなのに──


「なぜ俺たちがいる場所がわかったんだ?」

「それは……」


 ララティは固い表情でなにか言いづらそうにしている。

 なんだろ?


「あたしはフウマの存在を感知できるんだよ」

「……え? マジ? なんで?」


 スキルが高い魔法使いなら、強力な魔力を持ってる人物であれば居場所を感知できる。

 だけど優秀な魔法使いであっても、普通は俺みたいな雑魚魔力は感知できない。


「なぜなのかは……そんなことどうでもいいじゃないか」


 でもララティは魔王の娘だ。

 俺なんかには想像もつかない魔法を持っているのかもしれない。

 だけど今はマリンがいるから、自分の素性を明かすようなことは言いたくないのだろう。


「わかったよララティ。これ以上訊かない」


 ララティはホッとした表情を見せた。


「ちょっと待って。なぜララティさんがフー君の存在を感知できるのか。私は気になるわ」


 うわマリン。そこ追及する?

 しかも、なぜかちょっと棘のある口調。


「もういいじゃないかマリン。勉強熱心だから、魔法のことを知りたいんだろうけどさ」

「いえ私は、魔法への興味じゃなくて……」

「え? じゃあなんで?」

「あ、いえ。別に……」


 ありゃ。マリンが気まずそうに視線をそらしてしまった。

 俺、なんかマズいこと言ったかな? しくったか?


 ちょっと焦ってたら、今度はララティが棘のある口調でマリンに問いかけた。


「フー君……だと? 、いつの間にそんな親しげな呼び方になったんだ?」

「私の質問にまだ答えてもらってないから、私もお答えできません」

「くっ……」


 いやちょっと待ってララティ!

 俺とマリンを交互に睨むのはやめてくれ!

 キミの突き刺すような視線がめっちゃ怖いんですけど!?


「まあまあマリン。ララティは言いたくないみたいだし、もういいじゃないか」

「……そうね。わかったわ」

「ララティも、マリンが答えたくないって言ってるから、もういいよな?」

「うん、まあ。フウマがそう言うなら」


 ああこれで収まった……と思ったのに。


「私は別に答えたくないわけではないわ。さっきは、まだ私の質問にお答えいただいてないから、ああ言っただけ。ちゃんとお答えしますわよララティさん」

「え? マリン?」

「さっきカフェでフー君が私のために色々と親切にしてくれてね。仲良くなったからお互いに『フー君』『マーちゃん』と呼び合うようになったのよ。ふふ」

「色々と親切にってなんだ?」


 だからララティ! そんな怖い目で睨むのはやめてくれ!


「そこまでは別にいいでしょ。ララティさんが妬いているのはわかるけど」

「……は? なんの話だ? あたしは別に妬いてなんかないけど?」

「じゃあそこまで詮索しなくてよくない?」

「あたしの勝手だろ」


 ──バチバチっ!


 うっわ!

 またララティの赤い瞳とマリンの青い瞳の間に、バチバチと火花が散ってる!

 比喩じゃなくて、物理的に!


 二人とも黒魔術の魔力がバカ高いせいで、睨み合ってるだけでバチバチと魔力がぶつかり合うんだ。


「まあまあ二人とも落ち着いて」


 睨み合う二人の間に入って、手のひらを下に向けて気持ちを抑えるジェスチャーをした。


「そうね。ごめんねフー君」


 申し訳なさげな顔をするマリン。

 一方のララティは気が収まらないようで、フーフーと鼻息が荒いままマリンを睨んでいる。


「こらララティ。そもそもはキミが俺達の後をつけてくるのが悪いんだぞ。見張られるようなことをされたら、誰だって気分は良くない」

「うぐぅっ……だって気になって仕方がなかったのだ」

「気になるって? なんで?」

「あ、いや……べ、別に。だから妬いてるとかじゃなくってだな。えっと……」


 ララティの赤い瞳が宙をさまよっている。


「あたしも美味しいものを食べたかったからだよ。フウマとマリンだけズルい」


 ──は? そんな理由か。子供かよっ!?


 と思ったけど。

 ララティは真っ赤な顔をして、照れ臭そうに横を向いた。すごく可愛い。


「そっか。じゃあまた今度美味しいものを食べに行こう」

「おっ、いいのか?」

「もちろんだ」

「むふふ……」


 今度は一転、だらしなく嬉しそうな顔。

 ララティって、やっぱ子供っぽいな。


「そういうことだから、今はマリンに謝ってから、帰ってくれ」

「……は? マリンに謝って、帰るとな?」

「そうだ。そうしてくれ」


 一瞬ララティは不満げな顔をしたから、言うことを聞かないのかと思ったけど。


「はいわかりました」


 急に素直な態度になった。


「マリン、申し訳なかった。今日はもう邪魔せずに帰る」

「あ、ララティさん。そこまでしなくても……」

「いいんだよマリン。せっかくララティもわかってくれたみたいだし」

「でも、せっかくここまで追いかけて来たのに、帰ってもらうなんて悪くて……」


 マリンはやっぱりいい人だ。

 でもやっぱり後をつけるなんてことをしたララティが悪いだから仕方がない。

 ララティには後日美味しいものを食べさせてあげたら納得するだろ。


「大丈夫だよ。なあララティ……って、あれっ?」


 マリンと喋っているうちに、ララティは素早い身のこなしであっという間に走り去って行った。

 すげえなララティの身体能力。さすが魔王の娘だ。




 それから俺とマリンは再び街中に戻って、いろんなお店を二人で覗いた。

 いつもと違って自由に振る舞えるから、マリンはホントに嬉しそうだった。

 普段は決して見れないマリンの可愛い一面を見れて、俺も楽しかった。


 こうして俺とマリンの休日はとても楽しい一日となった。


= 魔王の娘、ララティ・アインハルト・ルードリヒ。自我じが亡失ぼうしつまで15日 =

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