第18話:あっという間に休日が来た
あっという間に休日が来た。マリンとお出かけをする日だ。
街に出かけることになっている。
今日はさすがに学院の制服はマズいよな、と考えながら服を選ぶ。
はっきり言って大した服は持っていない。だけどその中でも一番マシな服を選んで着た。
今日は昼食をマリンと共にする。だからカナとララティのために昼ご飯を作り置きをして、そろそろ出かけようかと思った時。
「フウマ。お洒落をしてどこへ行くのだ?」
「ああ、マリンと出かける約束をしてるんだ」
「休みの日に? マリンと? どこへ? なんのために?」
「えらい早口だな。どうしたんだよ」
「あ、いや……そんなことはいい。あたしの質問に答えろ」
「マリンがどうしてもこの前のお礼をしたいって言ってくれてさ。食事をご馳走になることになった」
「前に断わったんじゃないのか?」
「何度も断わってるけどね。どうしてもお礼をしたいって言ってくれてさ。……マリンってホント誠実でいい人だ」
「フン。そうか。そんなに言うなら勝手に行けばいい」
え? いや、勝手に行くも何も、初めから行くつもりだけど?
でもララティがなぜだか不機嫌な顔をしてるから、怖くてそんな喧嘩売るようなことは言えなかった。
「じゃあ行ってくるよ」
「お兄ちゃん、気をつけてね〜」
カナは手を振って、可愛い笑顔で見送ってくれた。
うん、やっぱ妹は可愛い。癒される。
***
クバル領はわが王国の中でも、大きめの領地だ。
領主であるクバル公爵の邸宅を中心に、街の範囲もかなり広い。邸宅の周りには商店が集積した繁華街や、貴族の住宅街が広がっている。
俺が通うクバル魔法学院も街の中心近くにあって、レンガ作りの
そしてそんな街から離れた郊外には、職人が集まる工場街があったり、農村が点在している。
俺の住む村は街から遠く離れてはいるが、この地方は全体的に草原など平坦なエリアが多く、比較的整備された道が通っている。
だから充分歩いて街まで通えるのだ。
俺は学校へのいつもの道を歩き、お昼前に街に着いた。
マリンとは街の中心地にある広場で待ち合わせをしている。
広場に入ってぐるりと見回したが、マリンはまだ来ていないようだ。ベンチに座って待つとしよう。
「フウマ、お待たせ」
しばらく待っているとマリンの声が聞こえた。
顔を上げると、すぐ目の前に女の子の姿があった。
袖をまくった白いシャツに、膝丈の紺色のスカート。派手さはなく、普通にそこらにいそうな服装。
だから充分平民に見える。
だけどさすがはマリン・モンテカルロ。
女性にしては背が高いし、立ち姿はキリッとしている。
そしていつもはツインテールにしている赤いロングヘアを今日は下ろしている。
さらに黒くて丸いツバの帽子を
さすがにマリンだと気づく人はほとんどいないだろう。
──にしても。
メガネをかけても、簡素な服を着ても、やっぱ可愛い! そしてカッコいい!
俺みたいなぱっとしない男が、一緒に歩いていいのだろうか。
「ねえ、フウマ。どこ行く? 行きたいところはある?」
「いや別に。普段外で食事なんて滅多にしないし、全然わからないよ」
「そう。じゃあ適当に良さそうなお店に入りましょう」
マリンは普段からよく外食をするそうだ。だけど行き慣れたお店では身バレするリスクが高い。
だからあえて、彼女が行ったことのない店に行くことにした。
メイン通りから一本入った裏通りを二人並んで歩く。マリンが言うには、この辺りは隠れ家的なお店が多いらしい。
「ここにしましょうか」
洒落たカフェを見つけた。扉を開けると、こぢんまりとした店内だった。
木製の丸いテーブル先に、向かい合って座った。
「いらっしゃいませ。何になさいますか?」
ウェイトレスがメニューを持ってきてくれた。しかし俺は、隣の席の客が食べているものが気になってる。
鉄板にハンバーグや野菜が乗っている。
店員がブラウンソースをかけると、ジューッと音が鳴って、香ばしいソースの香りが漂う。
──めっちゃ旨そう!
隣の客は立派な髭を生やした、痩せた中年男性。
服装も高級そうだし、見るからに貴族だ。
とても旨そうに食べている。
「ねえフウマ。気になってるみたいね。同じものを頼む?」
「あ、うん!」
「わかった。私も同じものを頼むわ」
マリンが二人分、ハンバーグステーキを注文してくれた。
「かしこまりました。しばらくお待ちくださいませ」
ウェイトレスが去った後、なぜか隣の男性客がフォークとナイフをテーブルに置いて、「ふぅー」と大きくため息をついた。
まだ料理は残ってるのに、どうしたんだろ。
「平民が俺と同じモノを食うだと? はぁ……食う気が
聞こえよがしの独り言に、マリンの表情がピクリと引きつる。俺を見る彼女の目が、俺に気を使ってるように見えた。
「ここは誰でも入れる店よ。何を言ってるのかしら、この男は。そんなこと言うなら、この店に来なきゃいいのに」
マリンもまっすぐ前を向いたまま、男に目線を向けるでもなく、独り言のように話す。
「平民風情が俺に意見をするだと? お前らこそ、今すぐこの店から出て行け」
「私たちはあなたの指図は受けないわ」
貴族の男もマリンも、お互いに視線を合わせることはなく、独り言として応酬している。
マリンはこの地の三大貴族の一つ、モンテカルロ伯爵家の一人娘だ。たぶんこの男よりもだいぶ身分が高い。
コイツがマリンの正体を知ったら、ひっくり返るに違いない。
だけど今日は身分を隠すって約束で、俺と一緒に出かけてる。その約束をマリンは律儀に守ってくれてるんだ。
「平民が同じモノを食うのが不愉快なのだよ」
この言葉に、さすがに堪忍袋の緒が切れたのか、マリンがガタッと椅子の音を鳴らして立ち上がった。
メガネと帽子でイマイチ表情がわかりにくいけど、肩が震えてるし、相当ムカついてるように見えた。
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