第16話:レムンのお迎え
「ところでフウマ。マリンがキミを怪我させたとか、あたしがいない間にいったい何が起きたんだ?」
カーテンの向こう側で、さっきまで「むふふ」と気持ち悪い笑いを漏らしていたララティが、突然真剣な声を出した。
「授業中にみんなの魔法が暴走したんだよ」
「魔法が暴走? なんだそれは?」
授業中に起きたできごとを、詳しくララティに説明した。
「そんなこと、今まであったのか?」
「いやまさか。あんな奇妙なことが起きたのは初めてだよ」
「それで原因はわかったのか?」
「いや。俺も途中で気絶してここに運ばれたらからな。どうなんだろ」
「なるほど。そうか」
その言葉を最後に、ララティは黙り込んだ。
カーテンが閉まっているせいで、彼女の表情はわからない。
しばらくして俺は体調が回復したので、ララティに「そろそろ戻るよ」と声をかけた。
するとララティが「じゃああたしも」と言って、二人で授業に戻った。
***
あとでマリンに聞いたら、結局魔法暴走の原因はわからないらしい。
ブラック先生が、このことは後は自分が調べるから、みんなはあまり気にするなといったそうだ。
そして一日の授業が終わり、俺はいつも通り歩いて帰宅した。
「ただいまぁ~」
玄関扉を開けると、家の奥から、ぴょこぴょこと尻尾を振りながらレムンが駆け寄ってきた。
「はふはふはふっ!」
声にならない声。嬉しそうな表情。
かわいいケモ耳。愛らしい顔。
「お帰りなさいませっ、フウマさま!」
「うぉっ!」
いきなり首に抱きついて来ないでくれ。
犬かよ!?
いや、動物だったらいいんだ。なんの問題もない。
元々この子は狐の魔獣だけど、獣人化していて、しかもこんなに可愛い。
抱きつかれると女の子独特のいい匂いもする。
それが問題なんだ!
男子の理性を崩壊させるという意味で。
「あ、申し訳ありません! 驚かせてしまいましたね。私ってなんてドジなの……」
「待ってレムン。そんな泣きそうな顔をしないでくれ。キミはドジなんかじゃない」
「いいえ、ドジです。こんな私はダメな子です。しっかり叱っておきますわ」
「え?」
言ってる意味が一瞬わからなかった。だけどレムンが次にした行動でわかった。
「こら、レムン! フウマさまを驚かせたらダメでしょっ!」
レムンが自分で自分を叱り、拳で自分の頭を
ゴツンと、割とガチ目な音が鳴った。
「ふぎゃん! いったぁ……」
「大丈夫か!?」
涙目になって、両手で頭をさすってる。
あんだけの音がしたんだ。そりゃ痛かったろう。
うん、今気がついた。
この子、ドジっ子だ。
さっきは否定してたけど、どっから見ても、全身ドジっ子だ。
「はい大丈夫です。しっかり叱っておいたので、次からはこんな失敗はしません。ご安心を」
「あ、そ、そうだね。安心しとくよ。あはは」
「はい!」
嬉しそうに笑いながらも、でもやっぱ頭が痛いようで、さっき小突いた部分を片手でさすっている。
「レムン。強がってるけど、ホントはまだ痛いんだろ?」
「ふぎゅぅ……実はそうですわ」
レムンは情けない顔になって、頭をさすってる。
かわいそうに。少しでも早く痛みが治まるために、俺ができることは──
「
治癒魔法をかけながら、右手を伸ばしてレムンの頭を撫でた。
俺の弱い魔法じゃ効き目は期待できなから、せめて撫でることで痛みを緩和してあげたい。
「ふわぅっっ!」
「あ、ごめん! 痛かった?」
「いえ、そうじゃないです……」
レムンは上目遣いに俺を睨む。
耳まで赤い。
恥ずかしい思いをさせてしまったようで申し訳ない。
「フウマさまはズルいです。そんな風に頭を撫でられたら、きゅんきゅんするじゃないですか」
「え? あ、ごめん。頭が痛いのが少しでもマシになればと思って」
「はい! フウマさまの魔法のおかげで痛みは治りました」
「いや、魔法のおかげじゃないと思うぞ」
「いいえ、治りましたよ。フウマさまの治癒魔法、イケてます!!」
えっ? そうなの?
──って、一瞬レムンの言葉を信じかけた。
だけどすぐに気づいた。これはお世辞だ。レムンは俺に気を遣ってくれているんだ。
ホント優しい子だな。
***
しばらくするとカナが帰ってきて、そこからさらに時間が経ってから、ようやくララティが帰宅した。
「ただいま」
彼女は俺と違って、瞬間移動魔法を使った学院から家まで帰る。
だからかなり早く帰宅できるはずなのに、なんで俺よりも遅く帰ってくるんだ?
「お帰りララティ。遅かったな。なにやってたんだ?」
「ん……まあ、色々とな」
何をしようとララティの自由だ。あまり詮索するのもよくないな。
彼女なりに、早く学院に馴染めるように色々と行動してるんだろう。
「そっか」
「ところでフウマ。キミこそレムンとなにをやってたんだ?」
「別になにも。なんで?」
「いや、なにもないなら別にいいのだが。レムンがなぜかフウマの周りをウロウロとついて回ってる気がするから」
確かに。レムンはさっきからずっと、俺の周りをウロウロしてる。
まるで小さな子供みたいだ。
「どうしたのレムン?」
「気にしないでくださいませ。フウマさまの近くにいると、ほっこり落ち着くのです」
「そっか。じゃあいいや」
「ありがとうございますぅ」
ケモ耳がぴょこんと動いた。可愛い。
「ふん。かわい子ぶるのは、あたしは気に食わないけどな」
「まあ、いいじゃないかララティ。レムンはこういうキャラなんだよ」
俺がそう言っても、ララティはまだ不機嫌な感じだ。
仕方ない。
「今夜はララティの好物を作るよ。いっぱい食べて機嫌を直してくれ」
「別にあたしは食べ物に釣られたりしないからな。あたしをそんなチョロイ女だと勘違いしないでくれ」
腕を組んで、ぷいと横を向くララティ。
「あ、ごめん」
それからしばらくララティはツンツンしたままだったが……
実際に夕食を食べ始めると、途端に機嫌よくなった。
「うん、旨いぞフウマ」
ララティは自分で思ってるより、だいぶんチョロイタイプのようだった。
= 魔王の娘、ララティ・アインハルト・ルードリヒ。
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