第27話 初恋の味見





(・・・っ)


 心臓の音がうるさい。


 先生の声もBGMにしか聞こえなくて、こうたくんとのメッセージのやり取りの画面を開いたまま半ば放心状態でスマホを机の中にしまった。


 手が汗をかきすぎているのに加えて、頭が回らないから返し方が分からずじまいで返信はしていない。


 (・・・・シャーペン)


 

 授業なんか集中できなくてただ黒板の先生の字を自分のノートにまた書き殴っていた。

 そしてあっけなくチャイムの音とともに1限目が終わって、次は移動教室。


 


 「・・・・はぁ」


 こうたくんの方を向けなくて動きがぎこちなくなりながらも必要な教科書とノートを持ってぞろぞろと教室を出ていくみんなの後に1人でポツンと続いた。





 1限目は何もしてないのに異常に疲れてしまった。月曜日の初っ端がこれって、今日最後の授業まで体力が持つか不安すぎる。

 


 (・・・スマホ机の中に入れたままだ)



 そんな中友達と歩いているこうたくんの背中を見ながら少し距離を取ってゆっくり歩いていると、楽しそうな話し声が聞こえてきた。


「あぁ~彼女欲しい、もうちょっとしたら12月に入るじゃんか~」

「なにそれ」

「12月に入るから彼女欲しいの?」

「いや~、クリスマスだろ~」

「意味わかんね」


 3人でケラケラ笑いながら話している彼等は、僕とはまるで違う世界の人。自己紹介がなかったらこうたくんとは多分ここまでの仲になってない。


(僕のことなんて覚えてるわけないのに・・・)



「そういえばさ、こうたはあの女の子とどうなってんの?」

「女の子?」

「うん。他校の子」

「他校の子なのは当たり前じゃん、何言ってんの」

「え~?」

「誰だっけ?」

「え、何、こうた覚えてないの?こうたと連絡取り合いたいからって言われて、俺からその子に教えたんだけど」

「・・・・あ~」

「前に学校帰りに皆で合流しただろ」

「あれは知らねえよ、俺ただ流されてただけだし」



 (・・・・女の子?)


 火照った頭と体にボーッとしながら3人の会話を聞いていた僕はそれを聞いてすぐに、あの女の子が思い浮かんだ。こうたくんの腕にすり寄ってくっつきながら腕を絡めていた子だ。


(連絡取り合ってるんだ・・・)


 実際に聞くとショックを受ける。でもこんなことこれからたくさん起こってくるんだろうなっていうのも無理矢理にでも理解しないといけない。



「で、どうなの?」

「いや、知らね」

「知らねってなに?連絡来てないの?」

「来てるけど無視してる」

「は!?なんで?」

「なんで?って何が?」

「え・・・・いや、質問に質問で返すなよ」

「それな」


(・・・・なんで無視)


 僕は無意識に凄い耳を大きくして聞いてしまっていることに罪悪感を感じながらも気になりすぎてこうたくんの言葉を一言一句逃さないようにしていた。


(ごめんなさい・・・・けど、・・)


「いや、興味ないのになんでデートの誘いに乗らなきゃいけねえの?」

「え、あ~そういうこと?」

「うん。それに俺気になるやついるから」

「「え~!?」」

「誰?」

「どこの子?他校?」

「他校なのは当たり前だろ!うちは男ばっかじゃん!な、こうた?!」

「なんで俺に聞くんだよ」


 

 こうたくんの発言に、他の2人の空気が一瞬止まって、そして一緒に大きな声でリアクションをとったと思ったら笑いながら興味津々に質問しだした。



「歳上?歳下?」

「可愛い?きれいめ?」

「いや、言わないけど」

「何だよ、それ~、言えよ。面白くないな~」

「お前ら黙れ。ほら教室ついたから、もうこの話は終わりな」

「え~」

「連絡取り合ってるの?」

「言わない」



(・・・気になってる子って誰・・・・適当に言ってる?)



 そんなの聞いたことない。この前帰る時も友達といるほうが楽しいって言っていたはず。少しだけ嘘をついてるのかなと思ったのは、こうたくんがした返事の声色がかなり適当でだるそうだったからだ。



 ぐるぐると頭の中で余計な情報と削ぎ落としたくない情報が交差して整理がつかない。



 結局2限も終わって、お昼まではなるべくこうたくんのことを考えないようにした。それでもスマホは気になってちょくちょくチラ見。僕が返事をしてないからこうたくんから来てないのは分かりきってるのに。



(・・・・こうたくんの気になる子も気になるけど)


 あの女の子のほうがなぜか気になった。こうたの連絡先を知っているわけで、こうたくんの気が変わればいつでもデートのお誘いに乗ることがあり得るということだ。




 ◇◇◇

 




 やっとお昼になっていつもどおりお弁当を持って一人で定位置の場所に向かった。



「あぁ・・・・聞きたい・・・けどタイムリーすぎる」


 

 盗み聞きしてましたなんて言わないけど確実にバレる。

 こうたくんとのやり取りの最後にある彼からのメッセージを眺めながらお弁当を食べていたけど、落ち着かなくて早々に全部食べきってすぐに教室に戻った。



 ガラッとドアを開けてこっそり後ろから入ると生徒達はまばらにいる。好きなように席をくっつけてご飯を食べたり、音楽を聞いていたりほんとに自由だ。



 (こうたくんは・・・まだ帰ってきてない)


 席に座ってお弁当を片付けた僕は、スマホを取り出した。


 まだ返していないこうたくんからのメッセージにそろそろ返さなきゃいけないと焦りを感じ始めて、色々考えたけど、どうしても女の子が気になる。


 (正直に聞いてしまおうかな・・・)


 だいたい僕はこうたくんにとってなんでもない存在だから聞くこと自体がもう不愉快に思われるかもしれない。


「そういえば、特別な日とか言ってたけどなんの日なんだろう・・・・」


 スマホに軽く触れて、なんて返そうか考えながらボソッと呟いた時、後ろのドアが開いてお昼ご飯から戻ってきたこうたくん達がおしゃべりをする声が聞こえてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る