第28話 初恋の味見2





「お前めっちゃ食ったな」

「あぁ、ありがとうな。美味かった~得したわ」

「まぁ、今日は誕生日だしな、それくらいいいってことよ。今度は俺の時に奢ってくれたら」

「え~、何だよそれ。絶対に奢らないとダメなやつじゃん。まぁ別にいいけど・・・いつだっけ?」

「なにが?」

「え?お前の誕生日」



 (・・・今なんか聞こえたような)



「あれ、言ってなかったっけ?」

「いや、多分聞いた。けど忘れた」

「え~、メッセでも教えただろ、後で見ろよ」

「めんどくさい、何月だっけ?11月?」

「そうそう、11月。覚えてんじゃん」

「あ、そうなの?だいぶ適当に言ったんだけど」

「そこは嘘ついとけよこうたくん。忘れんなよ。じゃあな、また後で」

「おう」



(・・・・た、誕生日?・・・誰の?)



 会話が終わって隣に戻ってきたこうたくんはため息をつきながらスマホを出して席に座った。僕が見つめていた画面にはこうたくんの文字がたくさん刻まれていて、連絡先を交換してからそんなに経ってないけど、下にスクロールしないと全部読めなくなってきている。



 (・・・返事)



【もし良かったらまた作ってもいいですか】


 戻ってきたタイミングで送るのもなんか、はかってる気がするけどこれ以上返事を引き延ばすのも無理がある。


 ただでさえ病み上がりで、しかも月曜日でまだ週が始まったばかり。そんな月曜日から集中できずに過ごすと今週は金曜日までぐだぐだになりそうだと思った。



 隣を盗み見るとこうたくんは僕からの返事をすぐに確認してくれたのか、僕の画面には既読のマークがついた。そしてなんでか分からないけど机に肘をついたまま顔を下に向けて少し肩を震わせている。


(・・・・わ、笑ってる?・・・・・なんで)




 こうたくんが僕を見てないのをいいことに、思いっきり彼の方を見ると、タイミングが合い過ぎたのかすぐに顔を上げてこっちを見た彼と視線がバチッと絡んでしまった。


「・・・・・」

「・・・・」

「なに?」

「・・・・た、誕生日・・・だったんですか」


 咄嗟に口をついて出てきた言葉は、目が合って真っ白になっても頭の中に残っていたさっき聞こえた言葉。


「そうですよ」

「・・・・・えっ・・・あ」


 僕の口調に合わせて同じように敬語で返してきたこうたくんは薄笑いを浮かべて口角を少し上げている。

 彼のそんな顔をみた僕は思わず生唾を飲み込んだ。


 音が思ったよりも自分の中で響いてしまい呼吸を一瞬止めてからゆっくり吐き出す。



「なんでしょうか、かずきくん」 

「・・・・・お、おめでとうございます・・・お誕生日」

「どうも」


 少し雰囲気の違うこうたくんに声が震えて戸惑いが隠せない。さっきも笑ってたし僕のことをからかっているのだろうか。



「・・・すいません」

「何が?」

「知りませんでした・・・あのお誕生日だって・・・こと」


 もちろんそんなこと本人に聞けるわけもなく必死に繋いだ言葉は何処に向かうのか。


 だけどこうたくんはそんな心配を他所に僕から視線をそらさず口を動かして笑った。



「言ってませんから」



 小さな男の子のように悪気もなく楽しそうに、にぃーと笑うその顔は僕のことを悪意があってからかっているという感じはしない。



 その顔から目が離せなくて思わず見入っていると、お昼休憩の終わりを告げるチャイムに、反射的にこうたくんから目を離しドアのほうに視線が向いた。



「・・・・あ~昼が終わった」

「・・・・・」


 

 隣でボヤいたこうたくんを見ると僕の方からはもう視線を外していて、午後に使う教科書とノートを取り出し準備していた。


 その彼の姿を見て、僕も慌ててスマホを机にしまい同じように必要なものを机から引っ張り出す。



 その瞬間、土曜日にこうたくんとやり取りしたメッセージがなぜか突然頭によみがえってきた。



(・・・・え・・・あれって・・・もしかしてそういうこと?)


 

 スマホをまた取り出して画面に親指を急いで滑らせてみる。特に何がきっかけでということはないけど、ただ胸が少しざわつく。



【あぁ~そういうことか。迷惑じゃない。っていうか俺かずきに言ってないよね?】


【言ってないならいいや】




(・・・・・どうしよう・・・お菓子のタイミング・・・間違えた)



 やっぱり今日はもうずっとこの気持ちが落ち着くことはないらしい。それに左右に振っている首が痛くなってきた。


 そして僕の左にいるこうたくんはスマホに何か打ち込んでいて、先生が教室に入ってきて教壇に立ち口を開いても、こうたくんはまだ机の下のスマホを見ていた。


 

 気になってスマホの画面に触れ一番下の最後のメッセージまで指を動かすと、僕が送った返事の返しにしては明らかに不自然するぎるメッセージがそこに。



 【かずきは?】


 (・・・・)


「教科書開け~、15ページ誰か読みたいって奴いるか~」



 【何がですか?】


 先生の間延びした眠そうな声がするけど、顔をあげず下を向いていた僕はまさか先生に当てられるなんて思ってない。



 【誕生日】


(・・・・え)



「もと、しもと・・・橋本、お前読め」

「へ?」


 変な声を出して突然呼ばれた自分の名前に反応した僕は慌てて立ち上がり教科書を開こうとして動きを止めた。ページが分からない。


(聞いてなかった・・・)


「15ページ」

「へ?」


 一瞬パニックを起こしそうになったけど助け舟を出してくれたのは隣のこうたくんで、横から聞こえた小さい声に教科書を指さして指でトントンとジェスチャーした彼の行動で僕はページをペラペラとめくり、先生の指示に少し遅れて小さな声で音読した。



(・・・良かった、助かった・・・びっくりした)



 一息ついて座ってから、こうたくんにお礼を言おうと少し痛い首を左に向けると、先に声を出さずに僕に向かって今度はスマホをトントンとしながら口を動かしできたのはこうたくんの方だった。



「教えて」

「・・・・・」


 その仕草からゆっくり動いた口元に見とれていた僕は体が燃えるように熱くなって頭から湯気が出そうになっていた。




「かずきの誕生日」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る