第6話 メッセージ
(え、・・・え、なんで)
「橋本、次の問題お前答えられるか」
「へ?え、え?!あ、・・・・はい、大丈夫です」
いきなり先生に当てられてなんの問題かも分からずに適当に答えてしまった。こうたくんから貰った紙を大事にポケットにしまいこんで黒板のほうへ向かうが足取りが重い。
(・・・・え~っと)
授業を聞いてなかったから、黒板の前に立って初めて問題を見る。それでも、すでに家で予習済みのとこだったからなんとか解けた。ヒヤヒヤする。これで解けなかったらボケてもクラスで笑ってくれる人もいないし、フォローしてくれる人も多分いない。
もしかしたらこうたくんがフォローしてくれるかもしれないけど、こんな恥ずかしい姿見られたくない。
「ん、正解。流石学年トップだな」
「・・・・い、いえ別に」
入学してまだ半年しか経ってないし、この間大きな定期テストがあったばかりだから実力なんて皆大差ないと思う。
(いちいちそれを今言わなくても・・・)
席に戻ってからなんとなく隣を見ようとしたけど無理だった。なんとなくというのは今この僕にはできない芸当だ。
(・・・なんとなくじゃなくって、もはやただの挙動不審にしか見えない)
動きも固くなるし、先生の言うことなんて頭に入ってこないし、体中の全神経が左にいるこうたくんに向けられている。
(どうしよう・・・・)
ポケットに入れた紙があるか確認しようとしてまた手を突っ込んだ。もしかして落としてたらと思ったけど普通にちゃんとある。せっかくこうたくんが書いてくれたIDとメッセージが詰まった物を落としてしまいたくない。
(早くスマホに登録したい・・・でも、お昼になってから)
授業と授業の間にスマホを取り出して操作することもできるけどそんなことしたら午前中の授業が全滅する。
ここは我慢と言い聞かせて、隣のこうたくんから意識を遠ざけるように授業に集中しようとしていた。
「昼飯行こうぜ~」
お昼を告げるチャイムが鳴ってすぐに反応する生徒もいれば、しばらく席に居て眠り始める生徒もいる。
そんな僕はいつものように例のあの場所へ。
(・・・・スマホもちゃんと持った)
結局午前中の授業は壊滅的に記憶がない。ノートだけは取っていたけど、先生が話していたことなんてこれポッチも覚えていない。
「・・・・ごちそうさま」
味が良くわからないお弁当を先に食べてから、持ってきたスマホにこうたくんの連絡先をようやく登録。とは言っても手が震えてスムーズにいかなかったけどそれは仕方がない。
スマホのアプリでこうたくんがくれたIDを検索したら発見した。もうそれだけで胸がドキドキして、画面をタップするのを躊躇って、何回も本当に合ってるか確認してから、登録ボタンにタッチ。
友達の欄にこうたくんが追加された僕は感動して、お弁当を食べる場所でいつもより多く喋った。
「ぼ・・・・僕のスマホにこうたくんがいる」
なんの気まぐれなのか、隣にいるだけでも嬉しいのに連絡先まで教えてくれた。僕の今までの変な行動は少なからずこうたくんにはバレてなくて、気持ち悪いとも思われてない。半年経ってから彼の連絡先を、しかもこうたくん本人から貰えるなんてもう幸せすぎる。
「・・・・これは、一応メッセージ送ったほうがいいかな、」
悩みに悩んで送った言葉はありきたりな言葉。
【かずきです。ID教えてくれてありがとう、凄く嬉しかったです】
僕のも追加よろしくとか、これからよろしくとか、そんなラフなことは当然に書けなくて、それでも最小限の文字で僕の最大限の気持ちを、彼に勘づかれないように伝えたいと思って最後に余計な言葉を付け足した。
「・・・・お、送っちゃった。打ち間違えてないよね?」
送る前に何回も確認したのに、送ってからも再確認。
間違えてないことにホッとしてから少しして、僕のメッセージに既読がついた。
「・・え、は、はや・・・もう読んでくれた・・・」
とりあえず任務は果たしたと思い、教室に戻ろうとした時、スマホの画面が新着を知らせるように明るくなる。
(・・・誰だろう、あ、っていうかきりゅうくんに返事してない)
画面をタップして相手を確認すると、やっぱりきりゅうくんから。読んでみるとお茶代は自分が出すという追加の内容だった。
(・・・これは、確定事項なのか?)
コミュ障だと、人を誘う時もこんな感じなのだろうか。それとも僕はいとこだから当然に来ると思われているのだろうか。別に断る理由もないので、彼の手助けは別としても誘いには乗るつもりだった。
「僕も、服買おうかな」
妄想の中でこうたくんとデートしている自分を思い浮かべる時があるから、たいして服を持ってない僕はお年玉で貯まったお金をはたいて誘われたついでに少し服を買おうと思いたった。
きりゅうくんに了解の返事をしてスマホをポケットにしまい、お弁当箱を片手に教室に戻っていると岸田先生に怒られている生徒を見かける。
(お昼にまで・・・・)
何かをやらかしたのだろうか。気にも止めず教室に入って席についてからカバンにお弁当箱と紙をしまった。
「・・・・・」
手にはいつもの本じゃなくてスマホ。
チャイムがなるまでずっとこうたくんのトップ画面を凝視していた僕は、別にいやらしい気持ちでそれを見ていたわけじゃない。なんの画像なのか、どこかの風景なのか良く分からなくて疑問になりながらそれをただ見ていただけ。
(・・・・これどこなんだろう)
そこにあったのはキラキラ輝くイルミネーション。
見たことのない場所で、こうたくんがこういうのをトップ画面にしているなんて思いもしなかった。
そんなことを考えていると通知が入って、しかもそれはこうたくんから。
僕は妙な気持ちになってスマホを持つ手に汗をかいてまた固まってしまった。なんせ隣にこうたくんが戻ってきてイスに座った音がしたからだ。
「・・・・・」
ドキドキが止まらない状態で、しかも自意識過剰かもしれないけどなんかこうたくんに見られてる気がする。彼の名前を深呼吸しながらタップしてみると、短い文章がそこにあった。
【何見てたの?】
(・・・・)
ネットサーフィンでもしてると思われたのだろうか。
返事を書いて送信ボタンを押すとすぐに既読がついた。隣で同じくスマホを見ている彼に、バカ正直に答える僕はもう恋する乙女みたいな感じになってしまっている。
このままだと自制しているこうたくんへの気持ちをいつか直接無意識に言ってしまいそうで少し怖くなりかけた。
「かずき」
(・・・え)
突然呼ばれて一瞬空耳かと思って彼の方をチラっと見るとこうたくんは前を向いてスマホに何か打ち込んでいる。
やっぱり空耳かと思いほんの少しだけ横顔を見ようとして顔を左に向けると目が合ってしまった。
「「・・・・・」」
緊張感がマックスに達した僕は何もリアクションがないこうたくんから目を離せなくて戸惑っていると、先に彼が目をそらした。
慌てた僕はしまったと思い下を向いたけど自分の顔が熱くなるのが分かる。
「かずき、先生来たよ」
「え、」
顔を上げて前を見ると確かに先生が教室に入ってきた。ドアはそのまま開いていたから音で判断できなかったらしい。しかもそれに加えてこうたくんに夢中になり過ぎていた僕はチャイムの音も聞き逃していたようだ。
握りしめたスマホを片手にこうたくんをまたチラ見したら、切れ長の目で口角を上げながらスマホを指先でトントンと叩いて、僕に合図を送ってきた。
「授業始めるぞ~」
先生の呼びかけに、スマホを引き出しの中に一旦いれてから教科書とノートと筆記用具を出して慌てて準備をしたけど、またすぐにスマホを机の下で確認した。
【こうたくんのトップ画面を見てました。これどこかなって思って】
こうたくんと僕のメッセージ欄には僕が送ったメッセージが最後にあるだけで彼からは何も来ていない。さっきの合図は何だったんだろうか。
スマホを今度こそ机の中にしまおうとした時、通知が画面に表示された。
差出人はこうたくん。
先生が話し始める中、僕は画面をタップをして彼からのメッセージを見た。
【俺の思い出の場所】
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