第一章~有本七葉視点~
第3話 久々の帰郷、突然の失踪
震災発生から二週間程度経った頃だろうか。ようやくあたしは実家のある街へ帰ることができる。
グータラな姉と違い、しっかりと大学を卒業して就職できたあたし、
当初こそ苦戦した一人暮らしにも慣れてきた頃合いで震災が起こり、実家にいる家族が心配になっていたが、被災直後の街へ行くことなどどう考えても無理。仕方なく一人暮らしを続けていた。
二週間経ってインフラや公共交通機関がある程度復旧してきたので、家族の様子を見るために帰郷、という訳になった。
さて、あのグータラ姉さんがどんな顔をしているのか、気になって仕方が無い……。
「七葉、文を見なかったか?」
「は? 姉さん?」
だからこそ、父親がやつれた顔でそう尋ねてきたときは心底驚いた。
「いや、見てないけど……何かあったの?」
「つい数日前から、いないんだ。探しても、全然見つからない」
「あー、どうせお母さんと揉めてまた家出ちゃったんでしょー。さすがに連絡くらい寄越してきたよね?」
こんな非常時に姉は何馬鹿な事やってんだか、と呆れた直後に、父親は耳を疑うようなことを言った。
「スマホは部屋に置きっ放しだった。他の通信可能なものも全部部屋の中にあった。それどころか鞄も財布も、身分証明になるものも全て部屋の中にあった。身一つで出ていったにしても、服を着ていった形跡すら無いって警察は言っている」
「は、え、なんで? あと警察も呼んだの?」
「あぁ。明らかに状況がおかしくて警察を呼んでまで探しているが、痕跡すら無い。理由を書いた紙すら残していない。どうして家を出ていったかも全然分からない。なぁ、七葉、そっちに行ったか本当に知らないか?」
……うん、いつもの姉さんの行動にしては明らかにおかしい。これは異常が起きていると見ていい。
「知らない……っていうか、お母さんはどうしたの」
「心当たりは無い、どうせいつか帰ってくるから焦るなだと。ふざけるな本当に……」
「お母さん、さすがに呑気すぎるというか、薄情というか……」
この期に及んで自分の母親がそんな言動をしているとはあまり信じたくは無かった。心配する素振りも見せないのは母親としてどうかと思う。
「それで、いつ頃居なくなったの?」
「それも分からない。というか、風呂へ入ってからなかなか出てこないのを変に思って、その、風呂の扉を開けたら、いなかった、というか……」
嫌な想像が脳内を駆け巡る。
「おとーさん、姉さんの風呂覗こうと思ってたりしてないよね?」
「思うわけないだろ」
若干食い気味に返事が来た。
「開けたのは母さんだったぞ、ちゃんと。それと……母さんに呼ばれて見に行ったら、黒いねばねばしたやつだけが残っていた」
「え、なにそれこわ」
そう返したものの、やっぱりいやーな予想はしてしまうもので。
「もしかして、姉さんはお風呂に入ったまま溺れ死んでたりしたんじゃ……」
「……そうじゃないことを願うしかないな」
あたしの嫌な予想を完全に否定する言葉は、ついぞ聞けなかった。
「とりあえず、あたしも姉さん探すの協力するから元気出してよ」
「あ、あぁ……そう、だな」
そう会話を交わして家へ入る。まったくあの馬鹿姉さんはどこにいるんだか……そう思いながらリビングへ行けば、テレビが付けっぱなしになっていた。
『……次のニュースです。原因不明の殺人事件が今日も発生しました』
あぁ、また物騒な話か……と思っていたら、少し耳を疑う内容が入ってきた。
『警察によりますと、死亡した人は25歳の男性と24歳の女性。それぞれの共通点は、死因が失血死であることと、同じ中学校の出身である事だそうです。犯人については未だに特定できていないとのことです』
「文と同年代か……文も巻き込まれてないといいが」
父親の零したその言葉に、どこか違和感を覚えた。
「おとーさん、この事件、似たようなのが最近起こってるの?」
「あぁ。最近は本当に物騒でな。震災に噴火、文の失踪の次は殺人事件。嫌な事は続くと言うが……」
「そうなんだ……」
馬鹿なあたしは、その違和感が何か分からなかった。
違和感の正体に気付いたのは突然のことだった。
それはSNSを見ていた時のこと。さっきニュースで聞こえてきた事件が気になり、とりあえず調べていたときだった。
『例の殺人事件の犯人、やっぱあれじゃない? リアル吸血鬼ってやつ』
『人の肉も食うって話もあるらしいし、それを言うならリアルグールじゃね?』
……現実世界とは思えない投稿が、やたら多い。
他のサイトで検索をかけてみれば、あれよあれよとその話題に関するサイトが大量に出てきた。
こういうのには大抵特定班なる、個人情報を徹底的に暴き出すネットユーザーが個人情報の特定に勤しむだろうに、犯人らしき情報は全く出ていない。
どんなサイトを探しても、出てくるのは非現実的な内容だけ。中には陰謀論じみたものまであった。
殺人事件と言うからには、犯人も人間だろうに、なんでこうもおかしな情報ばかり流れてくるのだろう?
結局あたしは呆れ果てて、ノーパソを閉じた。さて、明日からは姉さんを探すために父親を手伝わなければ……。
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