a・ya・sa・ki

𓆩⋆𓆪‬ 𓆩꙳𓆪‬ 𓆩⋆𓆪‬ 𓆩꙳𓆪‬ 𓆩⋆𓆪‬ 𓆩꙳𓆪‬ 𓆩⋆𓆪‬


 疑心暗鬼な瞳を持つ、

 テディベアの持ち主。


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 他の『社員ひと』たちはどこに行ったんだろう。


 そう思いながら辺りをキョロキョロ見回していると、アヤサキが私の肩に手を置いた。


「他の人のことなんか気にする必要ないよ。誰も、アタシたちの心配なんてしてないから。」


 アヤサキは、自分の足元に目を落とした。そして、ゆっくり瞳を閉じた。


「……ホントに、自分が出ることしか考えてないんだから。」


 聞きたいことはもっとたくさんある。でも、アヤサキの声と瞳が私の気持ちにブレーキをかけ、喉の奥の言葉を飲み込んだ。


 アヤサキは、小さく頷くと、スッと目を開けて私をまっすぐ見た。


「何度も言うけど、出口の印はどこにあるか分からない。まさかこんなトコロにって思う場所にあるかもしれないんだ。」


 そして、二ッと笑うと私の手を取った。


「大丈夫。アタシがアンタをここから出してあげる。さあ、探すよ!」


「うん!」


 私は、少し大げさに笑って頷き、アヤサキの後を追った。



 十階建てのこのビルヂングには、たくさんの部屋がある。

 私たちは社員の事務机の中、トイレ、更衣室のロッカー、壁、天井、部屋の隅のゴミ箱まで、くまなく探さなければならない。

 気が遠くなってため息をついた。こんなことを、毎週やっているのか。


「ここから始めよう。」


 アヤサキは、企画部と書かれた戸を指さすと、慣れた手つきで開けた。


「油くらいさせばいいのにって来るたびに思うんだけどさ、次に来るときにはだいたい忘れてるんだよね。」


 アヤサキは、ニッと笑って中に入った。私も、アヤサキに続いた。


「ここは企画部だったみたいなんだ。アタシも企画部だからさ、なんか他人事ひとごとじゃなくてね。だからさ、アタシ、出口の印探しはここから始めることにしてるんだ。」


 アヤサキは、机の上のファイルをそっと撫でると、フッと顔を上げ、私を見た。


「アタシね、第一回メンバーの一人なんだ。初めてこのビルヂングに来たとき、すごくショックだった。なんかさ、つい数分前までここに人がいて仕事をしていたみたいだったから。当時は、今ほど乱雑じゃなかったけど、書きかけの企画書が投げ出されていたり、参考資料が積み上げられていたりしていたのが、なんだかやり切れなくって。」


 そうか。散らかっていたのは、『社員』たちが出口の印を探したからだったんだ。

 それに、神隠しに遭ったこの会社の人たちと、ゲームに参加させられている『社員』たちとは、やっぱり関係ないのかな。


「ねえ、アタシ、あっちの席から探すから、アンタはこっちから探してくれる?」


 私は、うん、と頷いて、出口の印探しに取り掛かった。

 かなりたくさんの、紙製のファイルや書類が机の上に散乱している。私は、それらをひとつひとつ丁寧に確認しながら、出口の印を探した。


 ――ん?


 ふと、とある机に目が止まった。女性の席だったのだろうか、埃にまみれた小さなテディベアが、机の隅にちょこんと座っていた。


 私は、テディベアをそっと手に取り、ポケットから取り出したハンカチで、そっと埃を払い落とした。


「可愛くなったね。」


 そう言いながらテディベアを机に戻したとき、私の視界が書類の山の隙間に「違和感のあるもの」を捕らえた。


 確か、この辺に……。


 その感覚だけを頼りに書類の山をごそごそと掻き分けると、それはにあった。

 違和感の正体は、すっかり日に焼けて色褪せてしまった紙製の書類ファイルに書かれた、持ち主らしい人の名前だった。


 ≪ 綾崎あやさき れい ≫


 ファイルを両手で持ったまま静かに顔を上げて、向こうで印を探しているアヤサキを見た。

 私の視線に気付いたのかフッと顔を上げ、私に笑顔を向けた。


「どうかしたの? 何か見つけた?」


「ううん、何でもない。そっちは、何かあった?」


「何も。この部屋じゃないのかも。でも、もう少し探してみよう。」


 そうだね、と笑顔で返しながら、ファイルを元の場所に戻して印探しを続けた。

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