game

𓆩⋆𓆪‬ 𓆩꙳𓆪‬ 𓆩⋆𓆪‬ 𓆩꙳𓆪‬ 𓆩⋆𓆪‬ 𓆩꙳𓆪‬


 日食を合図に始まる、

 社員たちのゲーム。


𓆩⋆𓆪‬ 𓆩꙳𓆪‬ 𓆩⋆𓆪‬ 𓆩꙳𓆪‬ 𓆩⋆𓆪‬ 𓆩꙳𓆪‬



 窓から差し込む光が少しずつ弱くなる。『社長』、『中年男性』、『窓枠男性』が窓の外を見守っている。私も、つられるように外を見た。曇っているのかと思ったけれど、どうやら違うらしい。まるで夕暮れのように地平線のあたりがぼんやりと明るい。

 会議室の中が夜のように暗くなったと思うと、今度はみるみる明るくなっていき、あっという間に元の明るさを取り戻した。


「さあ、ゲーム開始よ!」


 『社長』は、少し大げさにパンパンと手を叩き、芝居がかった話し方でそう言った。その宣言を受けて、五人の『社員』たちは会議室の引き戸に向かって歩き出した。


 ……ゲームって、何? いったい、何が起こっているの?


 私は、五人の『社員』たちが会議室を出ていくのをぼんやり眺め、彼らを見送るしかできなかった。


「どうしたの? さあ、あなたも行きなさい。」


 ハッと顔を上げると、『社長』が私を真っすぐ見て微笑んでいる。

 私は、慌てて立ち上がって、あの建付けの悪い引き戸に向かった。


「ねえ、ちょっといいかしら。」


 ドキリとした。喉がヒリヒリする。


「私、靴を新調したの。どうかしら。」


 私は、動揺を悟られないように平静を装いながら、笑顔で振り向いた。


「赤いハイヒール、とても素敵です。とてもお似合いですよ、『社長』。」


「あら、本当? 奮発してよかったわ。ありがとう。」


 笑顔で手を振る『社長』に軽く会釈をして、私は会議室を後にした。



「アンタ、あの会議室にいたけど、初めて見る顔だね。」


 会議室を出ると、『頬杖女性』が私に声をかけた。

 廊下の壁に寄りかかっている。私が出てくるのを待っていたようだった。


 ごくりと唾を飲んだ。

 一か八か、この人に話してみようか……。


「私、初めてここに来たの。何をしていいのか、まったく解らなくて……。」


 彼女の顔が急に険しくなった。そしてバッと壁から身を離すと、私を会議室の隣の部屋に押しこんだ。


「とりあえず、初めての顔はしないほうがいいよ。アタシは『アヤサキ』。さっき、会議室で偉そうにしていた白いスーツの女の人は、うちの会社の社長。そしてあの部屋にいたのは、全員、同じ会社の社員だよ。ここはどこで、どうしてここにいるのか、なぜこんなことをしているのか……、実はアタシたちも知りたいんだけど、誰一人知らないの。」


 そこまで話すと、アヤサキは、はあ、とため息をついた。


「でもね、毎週金曜日に社員の中から五人ずつ選ばれて、社長とここに閉じ込められるんだ。土曜日の皆既日食までの間に出口を探す。もし間に合わなければ、次の週の金曜日まで、この世界にいなければならない。」


「皆既日食……?」


「ここはね、毎日日食が起こるの。日曜日から金曜日が部分日食で、土曜日が皆既日食。出口探しゲームはね、毎週金曜日の日食が終わったら始まるの。行こう。こんなところに、さらに一週間閉じ込められるなんてゴメンだわ!」


 『アヤサキ』は、クスクス笑うと、私の手を取って部屋を出た。


 私たちは、廊下をひたすら歩き回った。

 隣を歩くアヤサキは、何かを探すように、あちこちに目を遣っている。


「いい? 出口はね、毎回、違う場所に姿を現すんだ。この前は、女子トイレの便器が出口だった。飛び込むのに躊躇ためらっていたら出口が閉じちゃってさ。皆既日食まで迎えちゃったんだ。」


 早足で歩いていたアヤサキは、その足を止め、私の肩をつかんだ。


「このゲームに参加している人たちは、仲間なんかじゃない。みんなが興味あるのは、時間切れになる前に脱出することだけ。他人ひとのことなんて、どうでもいいんだよ。」


 友だちだと思っていた人に裏切られたことでもあるのだろうか。言葉と違い、アヤサキの目は、悲しそうにゆらめいた。


「この建物のどこかに出口を表す印があるんだ。印も毎回違うから探すの大変なんだけどね、まず、それを見つけないと話にならない。」


 アヤサキは、まくし立てるように早口で言うと、申し訳なさそうに笑った。


「一気に色々言って、ごめんね。」


「いえ、教えてくださって助かりました。色々、ありがとうございます。ここから出るためには、この建物のどこかにある『印』を見つけないといけないんですね?」


「そう。そして、出口が開いたら思い切って飛び込む。それで、クリア。」


 私は、力強くうなずくと、アヤサキに習って印を探し始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る