第9話 その頃の勇者と聖女

ライルが村長達と町に向かった後、シア達も自分達の仕事をこなす。


 アリシアのこの村での役割は治療士兼薬師だ。治療も本当に必要な時に使い、かすり傷等は薬を使う。何でもかんでも治療魔術で治せば良いと言う物では無い


 そして彼女の仕事はもう一つ。

「はい。今日の授業はここまでよ」

「「「「は~い」」」」

 彼女のもう1つの仕事。それは村の者達に勉強を教える事だ。

 普段は子供も労働力だが、最近はライルやティナのお陰で村にも余裕が出てきた上に、畑も忙しい時期は過ぎたので今は時間にゆとりがあるのだ。

 そこで村長は彼女に教師の真似事を頼んだのだ。この村で教養のあるのは村長一家とアリシアだけだからだ。ライルとティナは教養はあるが人に教えるのは苦手だ。

 

 アリシアも快諾した。最低限の文字書き、計算が出来ればそれだけで将来の選択肢が増えるし、町に出るにしろ、村に残るにしろ商人や金銭のやり取りがあるからだ。今、村に訪れる商人は誠実な人だが、世の中には文字書き、計算が出来ない事を良いことに詐欺紛いの事をする商人も多い。

 冒険者や傭兵になっても騙される可能性を減らせる。

 

「お疲れ様です。シアさん」

「アンナ様もお疲れ様です。」

 アンナは村長の妻でアリシアと共に勉強を(主に小さな子供に)教えている。

 代々村長の一族で今の村長が婿入りした。


「せっかくですから、お茶にしましょうか」

「そうね」

「では、奥にどうぞ」

 アリシアは奥の住居にアンナを誘い、お茶の準備をする。


「シアさん達のお陰でこの村も賑やかになりました。」

「私達は特に何も」

「いえ…シアさんのお陰で薬が手に入り、怪我も治療出来ます。ライルさんとティナちゃんのお陰で魔物や盗賊に怯えなくて済みます。本当に感謝しています。」

「お役に立てて居たらなら何よりです」


 彼女達が村に来るまでは、風邪を引いても薬も無ければ、栄養のある物を食べさせる余裕もなかった。幼い子供や年寄りには文字通り死活問題だった。

 狩人達が怪我をすれば治るまで狩が出来ず、獲物、食料が得られない。怪我が酷いと引退、最悪怪我が原因で死ぬ事だってある。

 ライル達が村近くに住み着いた魔物や賊等を片付けたお陰で毎夜怯えなくて済む様になった。

 今回だって町に買い付けの護衛にライルが付く事で普段戦力になる男が村に残る事が出来る。


 そして今は村人に知識を授けている。アンナは本当に彼女達に感謝をしていた。



 そしてティナの仕事だが、主に村の守護だ。しかし、普段からライルと共に村の近くの魔物を間引き、アリシアの結界で魔物は近付いて来ないので、ぶっちゃけ暇なのだ。

 なのでティナは村人が入れない森の奥にに入り、果物や薬草などを採取しているのだ。浅い場所は村人用に手を着けない様にしている。

 そしてティナのもう1つの仕事は村人の訓練だ。最低限自衛出来る様に。


 ライルはそれに加え、狩や戦闘等を教えている





…………

sideティナ

 ティナは今、森の中に居た。メイド服姿で。彼女にとってこの程度の服装で動きが悪くなる事は無い。しかし…

「う~ん…やっぱり着替えた方が良かったかな?」

 それはそれとして汚すのは嫌だった。何せこの服はティナの数少ない大切な物だからだ。


 彼女は空っぽだった。ただ目の前のモノを壊すだけの存在だった。そうしなければ自分が壊されるから。

 いつしか感情もなくなった。しかし、彼等と出会い、旅をして、苦楽を共にした。そして失った筈の感情を取り戻した。

 彼女にとって大切なのは共に旅をした仲間達だ。そして特別なのが家族であるライルとアリシアだ。

 そんな特別な人(自称姉)から貰った服だ。出来れば汚したくない。

 

「とりあえず薬草はこれくらいあれば良いかな?魔物は…まぁまだ大丈夫だね」

 彼女はアリシアが調合する薬の材料を集める為に森に入っている。

 

 アリシア自身が森に入る事は可能だった。彼女も勇者パーティーのメンバーだ。自衛は出来るし、そこら辺の冒険者より強い。しかしそれはそれで適材適所でティナが森に入る。

 ティナにとってこの程度の魔物が蔓延る森は散歩気分で歩き回れる程度の事だ。

 何よりティナはアリシアの様に黙って仕事する事が苦手で身体を動かしている方が性に合っている。


「あ、お土産に果物でも取って帰ろうかな」

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