第3話 聖女と傭兵

 私は教会、国から聖女の称号を与えられました。 

 今まで教会で聖女に成るべく励んで来ました。そこに私の意思は有りませんでした。

 そう在れと。そして私が13歳の頃、魔王討伐を言い渡されました。

 共に旅立つ仲間


 王国宮廷魔術師ゼルガ

 王国騎士隊長ローナ

 冒険者バズ

 傭兵ライゼス

 そして勇者アルト

 

 私は彼等と共に旅にでました。そして私は外の世界を知りました。自分が如何に小さく狭い世界で生きていたのかを思い知らされました。

 

 


 ある夜私は眠れなくて、外に出ました


「ん?聖女様か?」

「はい。聖女様です」

 そう言って見張り番をしている傭兵さんの隣に腰掛けました。


「…」

「…」

 焚き火の音と風の音だけが響きます。


「あの…」

 私は傭兵さんに話掛ける


「ん?」

「傭兵さんは…」

「傭兵さんは、信じていたものがまやかしだったとしたらどうしますか?」

「…さぁな。俺は自分しか信じないからな」

「それは…」

「難しく考える必要は無い。聖女様が見て、聴いて、感じた事をそのまま受け入れればいい」

「そんな事…」

 それが出来れば悩んでいません。


「…なぁ、あんたは何だ?」

「え?私は聖女アリシアですが…?」

 この人は何を言って


「あんたは聖女として生きるのか?それともただのアリシアとして生きるのか?」

 ただのアリシア…?


「聖女として生きるなら、国やら教会やら信仰やら、面倒なしがらみが在るだろさ。」

「…」

「だが、ただのアリシアならばそんな事は関係無い。自由に生きられるだろ?」


「私は…」

「別に今直ぐ答えを出す必要は無い。この旅で色々と見て感じろ」

 

 不思議な人…


「貴方は旅が終われば」

 どうするのですか?


「そうだな。どこか静かな場所で暮らすかな。蓄えは有るからな」

「それは」

 楽しそうですね




「くしゅん」

「…ほら」

 彼は羽織っていた外套を私に掛けます。


「これでは貴方が寒いでしょ?」

 そう言って私は彼の膝の上に座る。自分でも驚く行動です。恥ずかしくて死にそうです。


「聖女様は大胆だな」

「シア…」

「ん?」

「聖女様では無く、アリシアです。」

 私は恥ずかしくて彼の顔を見れませんでした。きっと私の顔は真っ赤になってます。


「そうか、なら…ライル。それが俺の本当の名だ。」

「ライル…」


 私は少しだけ、彼と打ち解けられた気がしました。

 そして私はいつの間にか睡魔に襲われ、彼に身を預けてしまいました。

 そんな私を彼は何も言わず受け入れてくれました。


「…温かい…ですね」

 人の温もり…今まで知らなかった温かさ。


「…すぅ…」

 そしてアリシアはライルの膝の上でいつの間にかに眠ってしまったのだ。






…………

 そして私達は魔王との戦いに勝ちました。ですが。



「じゃあな、兄貴」

 ライルがそう言って魔王の心臓を貫きました。

 魔王が…ライルの兄?焼かれた村の復讐?


「じゃあ、勇者。次はお前だ。」

 彼はそう言ってアルトに槍を突き付ける


「ライル!?」

 私は慌ててアルトとライルの間に入る。

「…ついでだ。聖女にも死んでもらうか」

「っ!?」

 何故?


「何故…なの?ライル…」

 ライルはこの旅で私達を気遣い、守ってくれた。私はそんな彼に惹かれていた。そんな彼が…冷たい眼差しで私達を見据える。


「魔王を失った今、次は勇者、君が魔王に仕立て上げられる。聖女、君もだ。民衆からの支持がある君は権力者からは邪魔な存在だ。」

「「……」」

「ならば…ここで死んだ方がマシだろうさ。」

 

 彼の言う事を私は否定出来なかった。私の旅の経験が…かつての教会の在り方が、歴史が…


 そこで私は思い出す。『聖女じゃないただのアリシアに』


「そうね…確かに私達は邪魔な存在になるわね」

「アリシア…?」

「……」

 そう。これが正しいかは解らない。


「でも、伝言は必要でしょ?私なら信用が有るわ」

「そうか。決めたか」

「えぇ。元々聖女なんて成りたかった訳では無かったもの」

 そして彼は槍を下ろす。


「アリシア…?」

「アルト。貴女はこれから勇者としてではなく、ただのアルティナとして生きて行くの」

「アルティナとして?」

「そうよ。どこか静かな場所で一緒に暮らしましょう?」

「…うん」

 そして


「ライル。勿論貴方も一緒よ?」

「…え?」

 私達を誑かした責任は取って貰いますからね?




 そうして勇者とゼルガは死んだ事になった。


 ゼルガ先生は隠居したいが弟子や貴族が煩くて嫌気が差していたので便乗してきました。


 私はその事を報告し、聖女の任を降りるつもりです。




 これからの生活に胸が弾みます。それはライル、貴方が居るからですよ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る