第2話 勇者と傭兵

「…ん」

 目を覚ます。左右に温もりを感じる。ボクを抱く様に眠るアリシア。そしてボクとアリシアを包む様に抱くライル。


「えへへ」

 ボクはそのまま2人に包まれてもう一度眠る




 物心着いた頃にはボクは剣を持っていた。周りにはおびただしい数の死体が重なり、血の海が広がっていた。

 いつも一歩間違えれば死ぬ様な訓練をさせられた。

 ボクと同じ様な子供が沢山居たが、だんだん数が少なくなってきた。

 

 そしてボク達はお互いに殺し合った。そして最後まで生きていたのがボクだ


 そんな時、ボクを育てた人達が言う。「魔王討伐の任が与えられた。」と。

 そしてボクは勇者として魔王討伐の旅に出る事になった。



「私は聖女のアリシア、貴方が勇者様ですね?」

 銀色の髪の女の人

「ふむ、まぁ実力に年齢は関係無い…と」

 魔法使いのおじいさん

「……」

 大きい鎧の人

「あん?このチビが勇者?」

 筋肉のハゲ

「勇者…ねぇ」

 冷たい目の槍を持った男


 ボクはこの人達と旅をした。

 アリシアとゼルガ(魔法使い)は勉強や魔法を教えてくれた。

 ローナ(鎧)は模擬戦で鍛えてくれた。

 ライゼスとバズ(ハゲ)は野営や狩等の旅に必要な知識を教えてくれた。

 そして色んな人と出会い、旅をし、別れた。ボクは世界を知った。人を知った。


「貴方…女の子だったの!?」

 とある魔物と戦い、服がベタベタのヌメヌメになった時にボクは気持ち悪くて服を脱ぎ捨てた。

 アリシアがボクの裸を見て驚いていた。


「坊主が嬢ちゃんだと!?」

「バズ!こっち見ない!!」

「っち、聖女様。これでも被せとけ」

「アルト様。これを」

 と、皆慌ていた。ライゼスのマントを被って戦った。それからはアリシアがボクの面倒を見てくれた。




「…勇者様か。眠れないのか?」

 夜の見張りをしていたライゼスに気付かれた。ボクはライゼスの横に座る


「寒くないか?」

「うん」


「ねぇ…ライゼスは何の為に戦うの?ゼルガやローナの様に国の為?アリシアの様に平和の為?バズの様に自分の為?」

「…さぁな。」

「?」

「俺は別に世界がどうとか、国がどうとか興味は無い。ただ、雇われた。それだけだ。報酬の分は働くさ」

「…ボクには解らない。国とか世界とか…ボクはただ、目の前の敵を斬るだけ」

 ボクは今まで殺す事しか知らなかったから


「それで構わないだろ。あれこれ考えるのは大人に任せればいい。」

 ライゼスはそう言ってボクの頭を撫でてくれた。




 ライゼスは優しい。アリシアも優しい。

 ボクは忘れていた幼い記憶を…あいつらに拐われる前の幸せだった記憶を思い出す。


「アルティナ…」

「あん?」

 ライゼスが怪訝な顔をする

「ボクの…本当の名前。アルティナ」

「…そうか」




 その後、ライゼスはボクの事をアルティナと呼ぶ様になった。そして他の人も。

 アリシアはティナと呼んでくれた。そしてライゼスは

「ライルだ」

「え?」

「俺の本名」

「ライル…?」



 ボクは皆が好きだ。

 ゼルガは沢山の事を教えてくれた。

 ローナは殺さない戦い方を教えくれた

 バズは魔物の特徴について教えてくれた。


 ライルとアリシアも沢山…教えてくれた。これが家族なのかな?

 ボクは皆好きだけど、特にライルとアリシアが大好きだ。


 ライルはお兄ちゃんでアリシアとローナはお姉ちゃん。ゼルガがおじいちゃん。バズはお父さんはやだからおじさん。

 ボクの家族だ。



…………




 そしてボク達は魔王と戦った。


「ぐは」

 ボクの剣が魔王を貫く。


「…ハハ、我も此処まで……か」

「……」


「勇者達よ…我を殺したとて、世界は変わらんぞ?」

「……」


「ああ、そうだな。」

「ライ兄?」

「魔王という敵が居なくなれば次はまた新しい敵を作る。それが人間だ。歴史が証明している。」

「…そこまで解っていて、何故…」

「ただ、魔王、あんたはやり方を間違えた。犠牲を出しすぎたんだ」

「何を…」

「村を焼かれた復讐。それはその国、その貴族にすればよかった。だが、お前は…人間全てを敵とした。だからお前は人類の敵になった。」


「ライ兄…?」

「貴様…何故それを…」

 何でライ兄が魔王の事情を?


「俺も同じだからだよ……レイトス」

「っ!?貴様…まさか…ライル…なのか…?」


 そしてライルは魔王にトドメをさした


「じゃあな。

「っ!?」

 ライルの兄…が魔王…?




 そしてライ兄はボクに槍を向ける。


「じゃあ、勇者。次はお前だ」


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