辺境の村の元勇者と元聖女と傭兵
八幡
第1話 辺境の教会の3人
今から2年前…勇者一行が魔王を討ち果た。
そして勇者一行は国に凱旋した。しかし、そこに勇者の姿は無かった。
彼はその命と引き替えに魔王を討ったのだった。そして勇者はまだ小さな子供だった。
勇者の他にも多くの犠牲が出た。
しかし、そんな事は民衆には関係無い。
魔王が死んでも、魔物の被害が無くなる訳では無いし、疫病が治まる訳では無い。そして戦いが無くなる訳ではない。
結局大多数の民衆にとっては変わらないのだ。
…………
とある村の外れにある古びた教会、そこに3人の人が住み着いていた。
1人は美しい銀色の髪に空を写した様な瞳の修道服を纏った少女。
1人は金髪の髪を結い、碧色の瞳のメイド服の少女。
1人は動き易そうな服装の男。
「はい。もう大丈夫ですよ。村長さん」
「ありがとうございます。シアさん」
教会に訪れた人が礼を言う。怪我を治療して貰ったのだ。
「いやはや…こんな辺境の村にこれ程優秀な治療師と戦士が居てくれるとは…それに、若い者が張り切っていて良い傾向です」
村長と呼ばれた男が笑う。村の若い男は街に憧れて村を離れるが、彼女達が村に住み着いてからは皆、村から出ていかなくなった。
それに彼女達に良いところを見せようと張り切るのだ。
「張り切り過ぎて怪我していては意味が無いだろうに」
彼女の後ろに控えていた男がぼやく。それに村長が同意する
「はは。まったくですな。おっと…では、そろそろ私はこの辺で。あまりサボって居てはまた怒られそうだ」
そう言って村長は教会を後にした。
そして
「アリシア、ライ兄。ご飯出来たよ。」
メイドの少女が奥から声を掛ける
「さて、ご飯にしましょうか」
「ああ」
そして3人で食事を済ませる。
「風呂の用意が出来たぞ。先に入れ」
「お風呂!」
「じゃあ先に頂きますね。ライル」
「ああ」
「アリシア一緒に入ろう!」
「ええ」
メイド服の少女ははしゃぎ、修道服の少女が微笑む。
「ライルも一緒にどうですか?」
「馬鹿言うな」
「ふふ、ではお先に」
そして少女達が風呂場に向かう。
彼等がこの教会に来て先ず初めに教会の掃除と補修をし、住める様にした。その後、直ぐに取り掛かったのがお風呂造りだ。
「ライル。お風呂が欲しいです。」
「欲しい!」
と、2人からお願いされたのだ。
「構わないが…手伝ってくれよ?」
「「勿論」」
その時の事を思い出すライル。そして風呂場から聞こえる2人の笑い声
「…2人が笑顔になるなら、この生活も悪くないな」
ライルはそう言って教会から外にでる。
………
「っふ、っは」
彼は教会の前で槍を振っていた。それは型が在るような動きではなく、どこか野性的な実戦的な動きだった。
暫く槍を振り、身体が温まって来た頃に彼は全身に魔力を巡らせる
「ふぅ…」
そしてまた動き出す。先程よりも力強く、速く。だか、
「…」
程なくして彼は動きを止めてしまった
「あら、もう終わりですか?」
そこには銀色の髪の少女が居た
「シア…まだ春とはいえ、夜は寒い。風邪をひくぞ?」
「そうね。少し肌寒いかしら。せっかくお風呂に入って温まったのに…」
「なら、外に出るなよ」
「お風呂が空いたから呼ぼうとしたら、誰かさんが外に行ったからわざわざ呼びに来たのよ」
彼女は俺を呼びに来たらしい
「悪かったな。ありがとう」
「どうもいたしまして」
そして彼は自身の上着を彼女に着せる。
「…汗くさいわ」
「…悪い、返してくれ」
「嫌。」
そして彼女はそのまま教会に向かう。
「ほら、ライルも早く」
此方に振り向き、微笑む。
「ああ」
俺は彼女に続き、教会の中に入る
「…汗の匂い、ライルの匂い…スンスン」
ライルが風呂に入っている時、アリシアは先程の彼の上着の匂いを嗅いでいた
「アリシア?どうしたの?」
「にゃ!?ティナ!?な、何でも無いわよ?」
「そう?」
「え、えぇ…」
その時のアリシアは顔を真っ赤にしていた。
「?」
そんな様子に首を傾げる少女
…………
そして夜も更け、就寝するのだが
「……」
「ボクが真中!」
金髪の少女がはしゃぐ
「じゃあ私がこっちね」
銀髪の少女が微笑む
「……なぁ、何で俺の寝室に?」
「ライ兄とシアと寝るから」
「だ、そうよ?」
「…はぁ」
「嫌…?」
金髪の少女が瞳を潤ませてライルを見上げる。
「わかったよ。今日は特別だ。」
「やったー」
「ふふ」
金髪の少女は飛び上がり、銀髪の少女はそんな彼女を微笑ましく見ていた。
そして3人は並んで眠りにつく。暫くして彼の隣から寝息が聞こえて来た。
「ライル…起きてますか?」
「ああ」
「ライルは…後悔していませんか?」
彼女が突然そんな事を言う。
「貴方は、富も名声も地位も得られた。なのに私達の我儘を聞いて、こんな辺境に…」
「その事は何度も言っているだろ?俺には地位も名声もいらない。富は欲しいが」
それは本心だった
「…正直ですね」
「何事にも金は必要だからな。有って損はないだろ?」
「そうですね」
「シアは…後悔しているのか?」
「解りません…私には何が正しいのか、何が正義なのか…私は…」
彼女の声が震える
「私は魔王討伐の旅で様々な事を見て経験しました。魔族でも良い人は居ました、人間でもどうしようもない悪人も居ました…」
「……」
「…私は何を信じて良いのか解らなくなりました…そんな私が、聖女等名乗れる筈がありません」
彼女は胸の内を話す
「なぁ、シア」
「はい」
「別にその答えを出す必要は無いだろ」
「ぇ?」
「ここの村人もそうだ。1日1日を懸命に生きる。それで良いじゃないか。もう魔王は居ない。勇者も聖女も居ない。後の面倒は国がどうにかすれば良い」
「でも…」
「魔王討伐なんて事を俺達にやらせたんだ。俺達はやる事はやった、後は任せれば良い。その為の国だろ?」
俺達は共に旅をし、魔王と戦った仲間だ
「そう…ですか」
「…魔王を倒しても世の中は平和にはならない。今度は他種族か或いは人間同士で戦いが起こる。魔物の被害だって無くならない。」
「……」
「世の中そんなもんだ。聖女だからって全て背負い込む必要なんて無い。」
「それに…今まで頑張って来たんだ。なら、これからは自由に生きて良いだろ。君達にはその権利がある。」
「っ…ぅぅ」
彼女の嗚咽が聞こえる。
「勇者アルトは死んだ。聖女アリシアはその任を終えた。此処にいるのは、ただの村人のアルティナとアリシアだ。」
俺はかつて勇者だった隣で眠る少女の頭を撫でる。
勇者アルト…世間では男と思われているが、本当は女だ。
そしてそんな勇者がメイド服を着ているなんて誰が想像出来ようか。
そして勇者の重圧から解放された彼女は…年齢の割りに幼い。いや、今までの反動からかそうなってしまった。
恐らくこれが彼女の元々の性格だったのだろう。
「むぅ…ティナの頭だけ撫でるのはズルいです。私も撫でなさい」
「はいはい」
そしてティナにくっつく様に此方に来た聖女様の頭を撫でてやる。
「こうして3人で並んで眠ると、まるで家族の様ですね」
「…早く眠れ」
「ふふ、おやすみなさい。ライル」
「ああ、おやすみ。シア」
そして俺達は眠りについた。
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