第6話 レベチ弁当と謎の男

田中さんによって開かれた二部局選抜会議が終わり、

翌日、加賀美を警戒しながらも再び高校へ来ていた章と萌歌だったが…

「章くーん?何処ですかー?」

前日と同様、ドス黒いオーラを撒き散らしながら廊下を歩く

加賀美を見つけたのだった。

「萌歌さんや…なんで悪化してるんですかね?」

「…多分昨日の盗聴器に向かっての挑発…。」

昨日の夜は焼肉に行っていて忘れていたが、

会議中に盗聴器を探知した俺と萌歌は盗聴器に挑発を込めた

宣言をしてしまっているのである。

あの時見つけた春里と花嶺の分も丁重にぶっ壊しておいたので

問題は無い筈だ。しかし、それを除いても加賀美さんが

どう動くかによってはまた屋上のような不利な戦闘に持ち込まれかねない。

焼肉に行った時、白園がさんに教えてもらった彼女の能力は、

魔能を使用することによって悪魔の手を出す能力、そして

身体能力を魔能でドーピングすることで底上げする能力の2つ。

悪魔の手はオートでの使用と、本体の動きが連動する2パターンに

分かれた使い方が可能な近接戦最強とまで言えるポテンシャルの能力だそうだ。

というか…俺が過去に助けた相手ならもうちょっとさ…

大人しくしといてくれないものなのかね…。

加賀美さんは俺からすると結構ヤベー奴なのは確かだが、

通常は大人しくて清楚な印象。誰にでも別け隔てなく接する態度や

その可憐な容姿を見るに、かなりモテる。

そんな彼女が普段教室の隅でオタク女子とゲームして過ごす

奴に声をかけるというのは、俺にもヘイトが向くということだ。

お陰様で最近できた加賀美さんファンクラブに殺されかけるわ、

普段話しかけてこない女子まで関係を聞いてくるなど、結構

この陰キャオタクライフを潰しにかかってきているのだ。

「…行ったな。」

「今のうち。」

廊下の角を曲がったことを確認して、素早く廊下を駆け抜ける。

この廊下を抜けた先にあるのは、また新しくできた最高のスポット。

そこは、文化祭で昔作られた木製のテーブル。

校舎からココが見える場所もなく、向こうの廊下からしか見えず、

更には教師公認のスポットというのがデカい。普段食べているところは

かなりアウトとセーフの間際に近い、いわば禁止区で食っていたのだが、

今回のテーブルはなんと完全にセーフ。

「広いけど…人が居なくて良いな。」

「そうだね。」

テーブルを囲うように置いてある切り株の椅子に座り、

弁当を広げる。俺の弁当は主に冷凍食品と作りおきでできている

定番の弁当であり、量も自分にあうくらいに調整している。

萌歌の場合は…少し多い。

横に座る萌歌の弁当箱を見ると、最早二段という概念は

無く、ノート一冊の面積が有るくらいの弁当が5段である。

1段目には惣菜パンが、2段目から4段目は完全におかず。

そして5段目には約8キロのふりかけご飯が敷き詰められていた。

「…お前いつも思うけどよくその量入るな。」

「私能力使ったらカロリーが減って太りにくくなった。」

時間を操れる能力な分、代償はあるが萌歌にはあまり関係ないようだった。

7月の後半に差し掛かるこの季節は少し風が涼しく感じる。

青く晴れた空に飛行機が見える。小さい頃はよくこうして飛行機を

見たものだ。プチトマトを口に入れたとき、見てはいけないものを見てしまった。

「萌歌…。なんかテーブルの向こうに変なのいない?」

章が指さした方向には、黒のローブを全身にまとい、顔には不気味な

仮面をつけた謎の人物がいた。

「…章。動かないほうが良いかも。」

萌歌が未来を見る力を持っていて良かったとこの瞬間思った。

章のいる足場の周りがマグマのようにボコボコと音を立てて弾け飛んだ。

「流石もと九番の審判を倒した新顔なだけあります。

賞金首の額には驚きましたが…やはり七人の賢者なだけありますね」

仮面をつけた何かがこちらへ近づいてきて少しづつ仮面をずらして

コチラを見た。

顔が整っていて、一見女性のように見えたが、ローブに引っ付いた

腹筋や腕筋から見て男といったところだろう。

「今弁当食ってるから後にしてくれないかな?」

「すみませんが一応加賀美さんの命令なんで逆らうことは

できないんですよね。」

男の口から出た情報から、加賀美が何処かの組織に属しているのは

確信となった。問題はこの情報の前にこの男をどうするか、だ。

魔能の反応を見るに、おそらく菊間さんより少し下といった感覚で

勝てるには勝てるが、問題は潜伏している仲間の能力。

加賀美がコイツを連れて来ているということは少なくとも残り二人は

校舎内で二部局を探し回ってる。

そう考えていると、早速反応が出てきた。

「章…。二部局局員の反応が消えた。」

「は⁉」

一瞬の同様が悪かったのだろう。

背後から斬りかかる男の魔能の察知が遅れた。

「よそ見と油断は厳禁ですよ?佐東章さん。」

「章!」

反応し切ることができず、背中に痛みが走る。

立て直せる時間はあった。だが、完全に忘れていた。

加賀美本人も魔能使いで有ることに。

空間からいきなり現れた以前と同じ悪魔の手が章の体を完全に捉えた。

「クソッ…!やられた!」

章の能力は四肢による接触で条件が発動する能力。

つまり全ての四肢を動けなくしてしまえば魔能は発生しない。

「やっと捕まえたよ…章くん。」

廊下の奥からやってきたのは、背中から血が出ている三島さんを引きずってきた

加賀美だった。

加賀美はそもそも章と萌歌の居場所は知っていた。だからこそスルーして

探し回った。自分を監視している魔能反応を。

壊れたフリをして廊下を歩いていたのは監視している三島を油断させるため。

そして同時に人質の確保をするためであった。

「萌歌…!!逃げろ!コイツまだ…ムグッ…!」

章の口を悪魔の手が覆う。

「流石章くんですね♪でも彼女には痛い思いをさせるためにも」

萌歌の〈見通す光眼〉に映った未来はわずか0.2秒先の未来。

そこに映っていたのは、黒い目をした加賀美が立っている未来だった。

「連れていきますから。」

一瞬にして近づいた加賀美の手にあった謎のボールから光が放たれ、

萌歌の姿が消えていた。

「萌歌ぁぁぁ!」

「大丈夫だよ。殺してないから。まだ、ね。」

悪魔の手によって拘束された章の方向を向き、嬉しそうに笑う。

「さぁ行きましょ?でも、一旦眠っててね。」

悪魔の手に込められる魔能が一気に濃くなる。

(意識が…無くなる。二部局の人たちが危ない。)

薄れゆく意識の中、最後に見えたのは、悪魔のような笑みを浮かべた

加賀美さんだった。


章の意識が無くなったことを確認した加賀美の元へ五人の

黒いローブと先程の仮面の男が二部局の白園以外の局員を連れて

集まった。

「黒鏡は?」

「先程白園局員によって連れて行かれましたが…

白園以外の局員の確保に成功しました。」

「完璧。給料は弾ませるわ。」

意識の無くなった章の顔を優しく指でなぞる。

「やっと手に入る…私の…旦那様…。」

部下のローブが地面に青く光る穴を魔能で開ける。

「加賀美さん…こちらへ。」

加賀美と謎のローブ達は穴の中へ姿を消していった。

最後の1人が入ると同時に穴は塞がり、そこには

空になった章の弁当箱と、惣菜パンの残った弁当の箱が残っていた。




続く。









次回  愛と痛み





「作者より」

次回は少し過激な描写が含まれますので、

読まれる方は少しご注意ください。簡単に加賀美さんが

色々酷い事しますが、この作品での加賀美さんというキャラを

知ってもらうために考えていますので、どうか次回もお願いします。

では次回会いましょう。それでは













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