第5話 田中さん

「ではこれより二部局内選抜会議を始める。」

INGAUGE3階第二部局本部

章と萌歌を含めた計50名が本部に集まり、エギラーゼでの

主な戦力分担を始める。

「まずはそうだな…守田から柴矢までの12名は後方支援。

打射だいから洗馬までの12名は前線サポート。

そして菊田、流星、屍音、そして白園。お前らは俺等と

前線だ。問題は…君たち二人はどうする?」

大抵の戦力や配置、そして支援から前線サポートまでを

決め終わった田中は二人の配置をまだ決めていない。

なぜなら今回章と萌歌がエギラーゼに行く目的は、

乾の情報による最期の手段、惑星の湧き水オアシスプラネット

確保である。ここに集めた二部局の局員は、旅行選抜という一時選抜を

受けた局員のみがおり、選抜されなかった残りの約200人の中から

誰かをつける想定で連れて行く。だがしかし、ここで問題が生じた。

それが今回の脱獄事件。これにより、敵の戦力の増加。更には

脱獄した囚人が全員エギラーゼ方面に向かっており、

前線へ惑星の湧き水を届けることが困難になる。つまり

ここで章と萌歌の目的達成後、前線まで出る必要があるのだ。

「それは前線に行きたいですけど…そこらにある盗聴器3つの前では

流石に言えませんね。」

章の手元で魔能が発動し、一瞬で手元にタイプの異なる盗聴器が

集められる。

その場にいた局員の数名が慌てて魔能を使って探知するが

章の見つけた盗聴器以外に反応はない。

(…なるほど。章君は乾先輩との戦いでそこまで出来るようになったのか。)

「…章。この盗聴器加賀美さんの魔能の痕がある。」

「てことは後2つは…やっぱり春里と花嶺の魔能反応だ。」

どうやら乾の言っていた「任せる」といった言葉はベスト過ぎたようだ。

なぜなら、この二人は並の魔能使いが数年掛けて会得できるものを、

説明もなしに一ヶ月で習得している。

それに加え、章の範囲を抑えた重力操作を見るに、おそらく萌歌も

菊田と同等の力の使い方を得ている。

「章君、萌歌さん。前線メンバーとして戦う役を背負ってもらっても

良いかな…?」

「はい。お願いします。」

「お願いします。」

手に集められた盗聴器をぐしゃっと潰して、章と萌歌が盗聴器に

向かって話しかけた。

「お前らがどう邪魔するかは知らんが」

「こんなバレバレな盗聴器は初めてだったよ。」

そのメッセージを最後に盗聴器の機能は停止した。

「それではこれにて二部局選抜会議を終了する。前線メンバーは

少し残ってくれ。」

会議は無事終了し、前線メンバーのみ話をする形で

その場はお開きとなった。



「田中さん。話ってなんですか?」

菊田がコーヒーを差し入れする田中にもらうついでに

質問する。

「そのことなんだが…今回は三部局と合同とは伝えただろ?

そのことを直に三部局に伝えに行って…朝来たらこんなのが…」

田中さんが出したのは婚姻届だった。

そこには三部局局長、狐目耳束こまみたばの名前が描いてあった。

『え』

その場の空気が固まる。そもそもここでの婚姻とは

九番の審判の権利を持つことになる。ことである。

そこまでならいい。だがわざわざ九番の審判の1人を夫に

するというのは効率が悪いどころか最早異次元に近い。

そんな部屋に、ちょうど問題の人物が入ってきた。

「たーなーかッ!婚姻届早く出させろ!」

「狐目さん…だからそれはあと二年後…」

「いいやもう我慢できない。早くその婚姻届に名前書け!」

あまりの騒ぎ様に全員が唖然とする。

田中さんは頭を掻きながら面倒くさそうに答えた。

「…今回の作戦の総大将になるらしいんだ。

だから…先に伝えておこうと思ってさ…こんなんだもん。正解だよね。」

「お!ちょうど定時だ!今日は飲むぞ!そこのお前らもついて来い!」

そう言って狐目さんは田中さんを引きずって部屋を出ていった。

田中さんの意識が飛んでいた気がするが、気の所為だと願った。

田中のいなくなった部屋で菊田が口を開いた。

「…焼肉行きません?」

『賛成。』

田中という人間は九番の審判の割に、謎の女に引きずられている

という異様な一面を新人に見せて消えていったのだった。






「あれ?章さん、田中さんは?」

「三島さん…田中さんは…狐目さんに…」

「…あぁじゃあ明日は来ないかも…」

「焼肉一緒にどうです?」

「一緒させてもらうわ。」





続く。










次回 レベチ弁当と謎の男

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