第9話 決着と正体
〚おい乾。お前の夢ってなんだ?〛
〚乾に会えて幸せだった。だから…皆を〛
〚君が見せてくれたあの景色が…僕に我儘させてほしいって思えたんだ〛
第9話 決着と正体
ぶつかり合う二人の魔能。乾は透き通った水の流れのように捻じれ、
章は自分の全てを吐き出すように、誰かの希望でありたいという、
強い信念が与えた虹色に光ってぶつかる。
「ッ…。」
魔能の押し合いではじき出されたのは乾の方だった。
そのまま構えていた拳が乾の顔を捉える。だがしかし、何度も
食らった拳の動きを逆に捉えていた。
「おいおいどうしたぁぁ!まだ何か有るんだろ!
見せてくれよ!俺を変えてくれやがったんだ。さぁ、来い!」
乾は少量であっても水さえあれば何処にでも移動できる。
ビルの大きく開いた穴から差す光と、壊れたことで完全に放出された
水道水が、彼を優勢にした。
垂れる水道水の管をひたすら行き来してひたすら攻撃を入れる。
もうさっきの濁流は通用しない。だからシンプルなパワーで
ひたすらラッシュを繰り広げる。
水の水圧の調整を完全にオートでできる乾は、見落としていた。
章に残った、もう一つの能力を。
渾身の魔能を込めた拳が、章の体を貫通しなかった。
第三の能力、「スルー」によって。
「せっかくの最後の戦いなんだからもっと楽しく行こう。」
そう言って、乾の腕を掴み、空の彼方へと放り投げ、自分もそれに続くように
跳躍した。
屋上では規格外な章を見て、ただ笑っていた。
「ハハハッ…!頼んだよ。章。どうか乾先輩を最後に楽しませてくれ。」
地上から3キロ離れた空中に彼らはいた。
「空中での戦いで俺が弱いとでも?空気中の水分も利用できるんだぜ⁉」
空の上に、浮かぶ二人。空気に衝撃を与えることで、空気の水分を操ることで
浮いていた。
「お前…高校生だったな。」
「ええ…。そうです。」
「そうか…なら俺を倒さないと下の仲間にも危害が及ぶな。」
苦しげな表情ながらも章は笑う。
「…それならコッチは決めさせてもらいます。この力で
出来る最大の一撃で。初めての本気を貴方にぶつけます。」
章の拳に魔能が集中する。虹の魔能がどんどん濃く、そして研ぎ澄まされていく。
ただ誰かのために、友のために戦っているというその面を、昔のアイツの面影を彷彿
させる。なら俺はアイツの友であったことを誇れるように、ココで本気をぶつける。
乾の手の先に輝く水晶のようなものが現れる。自身の迷いも戸惑いもそして悲しみも
全て乗せる。それが今から世界を変えるであろうコイツへの最後のアドバイスになれる。だから、後悔はしない。
「乾さん。」
「章。」
『さようなら。/あばよ。』
両者の魔能の全てが、空で弾ける。
「
「
虹色の魔能が水色に光る水晶を貫き、乾を飲み込んだ。
章の見た彼の表情は、とても晴れやかだった。
『屍音。俺が居なくなったら後輩を頼んだ。』
調合室で残りの花画を倒した屍音は、弱まる乾の魔能反応を
感じ取り、誰も見たことのないパーカーの下で鼻をすすった。
「ハァ…。ハァ…。」
魔能のぶつけ合いで完全に疲れ切っていた章は、
まだ少し息のある乾に近づく。
「貴方からは…貴方の魔能からは最後に後悔が
伝わってきました。やっぱり俺じゃまだまだでしたよね」
乾はそれを否定するように首を横に振った。
「いや…お前との戦いは最高だったよ。章。
でも…昔のダチの夢を思い出しちまった…。」
戦いの中で聞こえたあの声に、それを思い出したのだ。
前の少年を見て。
「俺を超える我儘を通す奴を見てみたいって…
その正体は…俺を取り戻してくれたただの甘チャンだったんだ。」
魔能が消えかける中、乾が章に何かを投げた。
「コレは…?」
「それを見て探すんだ。この世界を護るための武器を。
ただそれだけ…。」
そこまで言い残し、完全に魔能の気配が消滅した。
章はただ、その時握りしめていた。乾に託された
2☓☓☓年 06月 13日 水履乾 死去
その後ビルに本部からの増援によって地下3回のシェルターにいた人質は開放され
事後処理が行われた。
帰りの車の中はしんみりとした空気で包み込まれていた。
「…乾先輩とぶつかってくれてありがとう。」
「いえ…俺もきっとぶつかる事が本望だと考えてたのでおあいこです。」
菊間と章の間には一つの信頼関係が生まれ、これから先にも
重要となってくるだろう。そして残りの屍音と萌歌は、二人共
泣きつかれて眠ってしまっていた。
乾は目を覚ますと目の前にはかつての
友が立っていた。ただ、そのとき乾は抱きついた。
友と交わした夢を見せられなかった後悔と感謝を叫びながら。
その声は雲の中で永遠に響き続けた。
続く
次回 新たなステージと昇格発表
「作者より」
本日も元厨二病を読んで頂きありがとうございます。
今回で任務は終わりましたが、本当の試練はこれからです。
次回の10話で一幕が終わった後に番外編を入れてから新章の
砂漠編をスタートさせていただきたいと思っています。
応援してくださる皆様。これからも元厨二病をお願いします。
それではまた次回。
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