第7話 的永製薬

的永製薬。明治時代頃に創立された薬品会社。

最近は全年齢でも服用できる薬を開発しており、世間からの評価は大きい。

「その的永製薬の本社に魔能反応が5時間前にあった。

偵察に部下を送り込んだが…反応が消失。恐らく消された。」

日花の追加任務を言い渡されたが、章は萌歌に魔能を使った

二人の抑制のために今回の任務を、開始二時間前に出発していたのだった。

早く済ませたいという後輩の要望に菊間と屍音は快く承諾してくれ、

現在は社用車を走らせ、主な作戦と対処法を確認していた。

「現時点での魔能反応は3つ。水履乾の他にも、指定暴力団、

目錦組の獅子香理、花画秋水の二人と報告が入った。」

「俺と萌歌はどうすれば?」

「どうするの?」

ついさっき目を覚ました萌歌と章は尋ねる。

萌歌曰く、先程の重圧はあまり痛くなかったが、異様な香りで

気を失っていたらしい。

「私は屋上から地下までを貫通して戦闘スペースを広げる。

その間にお前らは遭遇した奴をとにかく倒せ。」

戦闘経験のない二人だが、先日の襲撃によって魔能が

ので大丈夫と菊間は言う。

「最悪無理だったときはサポートに入る。それでいいな?」

「了解。」

「りょ。」

「…了解」

しばらくして本社に到着した。見た目は普通のビルだが、地下に

潜伏している魔能使いがいるそうだ。

ここは幸いにも町外れの田舎付近にあるので、目立つことは無い。

「私は上から貫通する。お前ら。崩れてから7秒後に各自裏口、

ロビー、調合室の扉から入れ。」

各自説明にあった「各員別通路からの侵入」の配置につき、

能力が発動するのを待つ。

飛車起動フライング。跳圧設定600メートル。」

菊間の魔能。〈盤の秩序〉ボードルール

ボードゲームの戦略や駒を再現した能力である。

目に追えない速さでビルの頂上へと飛び上がった

菊間は浮いたまま立て続けに魔能を放った。

「ルーク。起動。」

ビルの頂上に約8メートルのチェスの駒が出現する。

「落下速度は80キロ。」

ルークの駒が勢いよくビルの中心を突き刺し、崩壊音が遅れて

やってくる。各自のスピーカーに菊間の声が流れ込む。

「地下までの到達を確認。各自突入!」

一斉にドアを開け、崩れたビルの中心を避けながら進む。

この戦いは新人の章と萌歌が昇格するキッカケとなる

のであった。



萌歌 裏口経路

「はぁ。すごいな。やっぱり本物リアルなんだ。」

萌歌の入った裏口通路から見えたのは、ビルの中心に空いた穴から

光が差し込んで眩しく輝くフロアだった。

そんなことに気を取られている場合ではないと

走り出した萌歌の表情は興奮とワクワクで溢れていた。

今までは外に出てワクワクしたのは章とサイン会に行ったときくらいだった

彼女は、この妄想じみたリアルを思う存分楽しんでいるのだ。


「止まれ。」

後ろからの声に体を振り向ける。

コツコツと向かい側の通路から黒服を着た金髪の女が歩いてきた。

「ビルの崩壊の主犯か?そうでなくても生かしておく理由には

ならない。名前を言え。」

静まり返った通路を、女二人が見つめ合う。

「私は目錦組の獅子香理ししかおりだ。お前は?」

沈黙を貫いてきた萌歌の顔が次第に笑いを零した。

「フフッ…。私はモリアントパーセリゼ二世。

貴方を滅ぼす者よ。」

萌歌が地面に手をつけ、何が起こるか分からない

魔能をその場のノリとオタク脳で発動した。

「魔能発動!エクスカウント!」

その瞬間、萌歌以外の物が停止する。

(これはもしや…勝ったのでは?)

止まった時の中でとにかく持っていたバットで

思い切り全方向から殴り込む。不思議なことに

バットの衝撃が止まり、構える香理の体の少し手前で止まる。

「厨二病の人生に感謝を込めてー!」

「カウントストップ!」

声とともに放たれたオレンジ色の魔能が空間を覆う。

バットの溜まった衝撃が一気に突き刺さる。

「!?…ガ…何をした…。」

何をされたか分からないまま、獅子香理はその場で多くの傷を

負って倒れた。

満足気にバットをスリスリする萌歌はキリッとした顔で

振り向き、言い放った。

「私が…私こそが時の王と知らしめる遊戯にすぎない。」

(決まったぁぁ!)

内心ガッツポースを決めつつ、歩き出した萌歌はピタリと止まった。

「あれ。これ死んでないよね…?」

首をグギギギを曲げた先には魔能の反応が消えている

女。脳内での記憶がフラッシュバックされる。

【反応が消え…死んだ】

自分が人を殺したかもしれないという不安に襲われ、

その場に萌歌も同じ様に倒れ込んだ。


[耳名萌歌により獅子香理を撃破。]

INGAUGEのモニタールームに戦況が映し出される。

「マジか…。あの獅子香理を…アイツ確か目錦組No.2じゃなかったか?」

「…それだけ優秀ということでしょう。それに、」

モニターに映る章の反応が別の魔能反応と衝突した。

「今回の新人は規格が桁違いですよ。」




「誰だ…お前。」

「あー初めまして。俺は水履乾。お前ら組織を消して…」

「自由になるもんだ。」

「ちょっとは暴れないと倒せなさそうなタイプだな。アンタ。」








続く。




次回 章VS乾











「作者から」

皆さんいつも元厨二病を見てくださり

ありがとうございます。本作はこの一幕が終わったら

第二章に入る前に番外編をやる予定です。リクエスト等ございましたら

コメントお願いします。ではまた次の話に。

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