第4話 謎の女と章の秘密
「めんどくささと命の危険を感じてるよこの瞬間。」
章の目の前に広がる空間は、壁で覆い尽くされており、
窓や扉のような脱出手段は無い。つまりこの不可解な空間+謎の刀
は、ほぼ章の人生終了のホイッスルのようなもの。
「てか何で萌歌が狙われてんだ?アイツって特別金モでもねーし
変に頭いいわけでもねーし…もしかして…。」
「この刀を見切れるやつがまだいたのか…。どうせアイツ等の回しもんだろ。」
刀を操っているであろう男が章を仕留めるべく再び刀を空間に出現させる。
だが、当の本人は下を向いて何かをブツブツと唱えている。
「よく分からんが悪く思うなよ。仕事なんでね。」
章に向かって勢いよく刀が飛んでいく。まだ章は動く気配が無い。
(死んだな。あそこからの反撃は流石に無理だ。)
そう思っていた。だが、刀は刺さることはなく、章の拳によって
叩き割られた。
「え…?」
「分かった…お前萌歌に雇われたフラモブ的なやつだろ!
前の休みの時言ってたわ!そういや!キャンペーンでなりきりの企画当選したって
言ってましたよ!」
あまりの出来事に男は空いた口を元の状態に戻すのが精一杯だ。
呆然としていた男に、章が叫ぶ。
「おい!お前危ねえモン使いやがって!どこの会社だ!」
「いや…あの…会社とかそういうんじゃなくて…。」
男は言葉をできるだけ繋げた。
常人の目には追えないスピードで飛んでいく刀。
それがこの男が得意とする殺しの方法だった。
だが、それを素手で止められる相手に同じことを繰り返して勝てるのか。
結論から言うと無理である。
そんな男の事情も気にせず、章がゆっくりゆっくり近づいてくる。
男は逃げようとしたが、恐怖で足が動かず、震えも収まらない。
失敗したことよりも、章から放たれる異様なオーラに彼の体は縛られていた。
眼の前に章の姿が映る。拳を握りしめ、怒りをあらわにした状態で。
「こんなキャンペーン公式ですんな!クソ運営がああ!」
章の拳が禍々しい紫色に光り、男の腹に思い切りめり込む。
「グヘッッッっっ…。」
男の体は自身で作り出した異空間の壁を凄まじい破壊音とともに
貫通した。
「ったく…最近のイベはテロパターンが流行ってんのか?」
しばらくして異空間が消え、十字架に磔にされていた萌歌も目を覚ました。
「うぅ…ここは…?」
二人が居た場所は学校の教室だった。だが、空間が壊れた
はずなのに、目の前にあったのは学校ではなく、
正体不明の機械や、煙をあげる怪しげな液体。そしてよく
アニメに出てくるようなモビルスーツだった。
「何だ…?ココ?てかお前イベントの概要読んでから応募しろよ…
いきなりサプライズでテロリストパロはキツかったわ。」
「え…?この前言ったイベントは明後日だよ…?」
「え…?」
「え?」
話のかみ合わない二人の耳に微かに足音が聞こえた。
二人は音のする暗闇の方へと視線を向ける。
「待っていたよ。章くん。萌歌さん。」
「誰だ…アレ。萌歌の知り合いか…?」
「いや。あんな声のやつ友達に居たら自慢してる。」
「だよな。」
「なんの話をしてるかは知らないが…今日から我々の仲間に
なってもらおう。魔能使い協会の新入り達。」
暗闇の中から出てきたのは白髪の女性だった。
身長は章より少し大きく、目の色が片方づつで赤と緑に分かれている。
その後ろからも謎のピンク髪とカボチャがプリントアウトされたパーカーを
被りこんだ計三名が出てきた。
「さぁ。おいで。教えてあげよう。章くん。君の秘密を。
そして倒そう。この世を滅ぼそうとする、」
「全ての悪の怪物を。」
シンと沈黙が流れる。
俯く二人はプルプルと震えていた。
顔を下に向け、拳を握りしめて。
「まぁ最初は震えるか…。菊間、屍音。後で二人を頼む。」
『了解。』
再び暗闇へと女は姿を消していった。
((何だったんだあああああああああああああ今の
いい年こいて厨二病ムーブかましてるババアああああああ!!!))
二人の震えは恐怖や戸惑いから来るものではなく、
完全に遊びだと思っている二人の「引くわー」という
感情の現れだったのである。ここに来た二人の
人生は、波乱と痛みを伴うものになることを、まだ
章と萌歌は知らなかった。
((この年で悪の怪物は無理あるってえええええええ!!))
続く。
次回 魔能使いと厨二病
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