第23話タオル必須

 寝るために押し入れに畳んであった布団を床に敷いたときだった。

 雪菜は俺の布団に目掛けてペットボトルを逆さまにする。

 布団が水浸しにならないようにと、咄嗟に雪菜の手からペットボトルを弾く。

 そして、俺は布団を濡らそうとした犯人を睨んだ。


「さっき慰めてくれなかったから」


 犯行に及んだ理由。

 それは、人間関係に恵まれなかったことに対し、慰めの言葉をかけてあげなかったのが不服だったかららしい。

 確かに同情はしてあげるべきだったとは思うが……


「慰めただけで大喜びしそうなお前が怖いんだからしょうがないだろ?」

「……」

「てか、布団を水浸しとか復讐にしては酷すぎじゃね?」


 さすがにやりすぎでは? と訴えた。

 雪菜は淡々と答える。


「私と一緒の布団で寝るしかなくなるんじゃないかなって」

「布団が水浸しになったら、確かに寝れなくはなるけどさぁ……」

「一緒の布団で寝るしかないでしょ?」

「いや、雪菜のベッドにお世話にならないで、普通に部屋の隅で縮こまって寝る」


 別に布団が使えなくなったからって、雪菜のベッドにお世話になる気はない。

 冷めたい態度で雪菜を突っぱねると、さらに機嫌が悪くなったようだ。


「一度は体を許したくせに一緒に寝れないんだ」

「今とあの時と状況が違う。それに、今の雪菜と一緒に寝るの怖いんだよ……」


 本当にやってることはストーカーでしかない雪菜。

 そんな彼女と同衾しようものなら、起きてもおかしくはない。

 と思う俺に対し、雪菜は別に《何も》しないしと言わんばかりに澄ました顔をしている。


「俺、嘘つきは嫌いなんだよな……」


 嘘つきには慈悲はないと脅すように言うと、雪菜はちょろいことに白状する。

 一緒の布団で寝たとき、俺へ何をしようとしていたのかを。


「晴斗のパンツの中に手を突っ込んで、アレを弄るくらいしかする気はなかったよ」

「……理由は?」

「一度、ムラムラさせたら勝てそうな気がする」


 大方、俺を興奮させて手を出して貰おうって算段だろう。

 雪菜は学習能力が高い。

 さっき、スポブラ越しに浮かび上がった突起に俺が釘付けになっていたのをしっかりと覚えているに違いない。


「雪菜って意外とスルの好きなタイプだよな。顔はエロいことには興味ありませんよ~みたいな顔してるのに」

「……気持ちいいんだからしょうがないでしょ」


 関係を持つクリスマス前までの、エロいことなんて興味ありませんけど? と清々しい雪菜が懐かしい。

 俺への未練を拗らせ、変な方向へと進んでしまった雪菜を残念に思っていると、雪菜はとんでもない事を打ち明けてきた。


「他人に良く思われたくて見栄で澄ました顔してたけどさ……。高校生になってからは一人で結構慰めてたからね」

「慰めるって……」

「オナ「うん、わかったからハッキリと言わなくていい」


 具体的に言おうとしてきた雪菜を黙らせるかのように話しに割り込んだ。

 しかしまぁ、雪菜はお喋りで聞いてもないのにどんどん話してくる。


「週6回だったし」

「聞いてない」

「たまに1日3回してた」

「だから、聞いてないから」

「道具は使かってないよ」

「お前は俺に赤裸々に語って何がしたいんだ?」


 激し目にツッコミを入れると、雪菜は足をもじもじとさせながら言う。


「晴斗にアレな事を聞かれるのわりと恥ずかしくて興奮する」

「高度なプレイしやがって……」

「こう、私しか知らないようで誰にも本当なら言えないようなことを知られるの凄く恥ずかしくてゾクゾクする」

「はぁ……。ほら、駄弁ってないで寝るぞ」


 布団を敷いたのは寝るからだ。

 いつまでもお喋りをしてないで寝ようと雪菜に言うも……。

 興奮したせいで雪菜の俺を見る目がどこか血走っており、餌をぶら下げられてよだれを垂らす肉食獣にくしょくじゅうかのようだ。

 寝る前だというのにギンギンに冴えていそうな雪菜に俺は言った。


「襲うなよ?」

「……」

「おい、何か言え」

「襲うの我慢するためにも、トイレで


 トイレにじゃなくてトイレでか……。

 10分。20分。30分。

 雪菜はトイレから戻って来ない。

 どんだけ激しく遊んでいるのだろうか? と思っていた時であった。

 雪菜はどこかスッキリとした顔で部屋に戻ってきた。


「先に寝ててよかったのに」

「別に明日も早起きする必要はないしな。で、満足したか?」

「まあ、それなりに」

「んじゃ、本当にそろそろ寝るか」


 雪菜がベッドで横になったのを確認した俺は部屋の明かりを暗くする。

 雪菜もスッキリとしてすぐに寝付くと思っていたのだが、なんかあれだ。

 俺の耳がおかしくなったのだろうか?


「……んっ♡」


 布団にくるまっている雪菜の艶めかしい声が聞こえる。

 血迷った雪菜に襲われるかもしれないし、俺は雪菜が落ち着くまで寝たふりをして起きてよう。

 現在の時刻は深夜2時。

 眠い……。まじで眠い。

 早く満足して寝てくれないかなぁとか布団の中で目を閉じてやり過ごす。

 ギシギシとベッドを激しく鳴らした後、雪菜の動きがすんとおさまった。

 これで寝れると思っていたら、雪菜はもぞもぞと布団から抜け出す。

 襲われるかもしれないと思い、寝たふりをしていて正解だったな。

 雪菜に襲われる前に逃げようと瞑っていた目を開けたときだ。

 凄く気まずそうな声で話しかけられた。


「ごめん。ガッツリ漏らした」


 そういや、雪菜とするときはタオル必須だったっけか……。

 これからちょっとの間、片付けでうるさくなると申し訳なさそうな目で俺を見てくる雪菜。

 そんな彼女に俺は呆れるしかないのであった。

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