第22話活路を見出す

 大学生活で友達を作るには――

 入学してからじゃ遅い。

 バイト先に居る大学生の先輩に話を聞いたのだが、入学式前から学生達はコミュニケーションを取り始めているらしい。


 同じ予備校の子で同じ大学に合格した子と話したり、同じ学校でも進学前までは接点がなかった相手と仲良くしてみたり、SNSで片っ端から同じ大学に入学するであろう人のSNSをフォローしたりなどと、入学式の日にひとりボッチにならないように画策をするというのだ。


 そして、俺もまた大学生活でボッチスタートにならないようにと、同じ学部の子と仲良くなるべく色々と画策した。


 予備校で別教室だったとはいえ同じ大学に進学する子に話しかけ、SNSで同じ大学の同じキャンパスに通う予定の人を無差別的にフォローした。

 これで大学生活のボッチスタートは回避できたなと思っていたのだが、俺は少しばかり気がかりがある。

 筋トレを終えて汗をシャワーで流し、ベッドの上でゴロゴロと転がってスマホを弄っている雪菜に話しかけた。


「別に避けるとかそういうんじゃないんだけどさ、入学してからは新しい友達も作りたいし、変に俺に絡むようなことは……しないでくれると助かる」


 そう、同じ大学の同じ学部に進学した雪菜に付きまとわれてしまい、新しい友達を上手く増やせるかどうかが心配でしょうがないのだ。

 大学は学びを得るための場所でもあるが、社会に出る前に色んな人と出会い交流を深める場所でもあるのだから。

 軽い感じで俺は入学してから当面の間は俺に構わないでくれ、と雪菜に頼んでみた結果はというと、


「変に絡む気はないよ」


 意外にもあっさりとしていた。

 ストーカーだし、引っ付いてくる気だと思っていたんだけどな……。

 まあ、雪菜もしっかりと弁えるところは弁えるか。

 とはいえ、雪菜の最近の行動や言動からしてイマイチ信じきれなかった俺は聞く。


「仲直りはしてるし、大学からはグイグイ来ると思ってた」

「そうしてもいいけど。それしたら、に晴斗に嫌われるでしょ」

「お、おう」

「なに、その意外そうな顔」


 そりゃ、最近はなところが目立つ雪菜からまともなことを言われたら驚かない方がおかしい。

 ネトストしてたり、パンツ盗んだり、俺と同じパンツを買って穿いたり、俺の家の家庭の味を再現してきたり、などと本当にヤバいところが目立ってたし。

 変な所で俺の嫌がるラインを越えてこないのは――


 幼馴染だからなんだろうな。


 何だかんだで、俺のことをそれなりには知っているわけか。

 少ししみじみとした気分になる。

 そして、俺の中で罪悪感が込み上げてきた。

 雪菜に傷つくような嘘を吐かれたとはいえ、いくら何でも俺の行動は……

 やりすぎだったんじゃないかと。



「どうかした?」



 雪菜は俺の顔をのぞき込んできた。

 そんな彼女に笑顔を取り繕って答える。


「ちょっと考え事を思い出してな。別に何でもないから気にしないでくれ」

「ならいいけど……」

「てか、雪菜は大学ですでに知り合いとかっていんの?」

「いるよ。SNSでちらほらと繋がってはいるし、同じ予備校の子とも軽い連絡は取ってる感じ」


 ちょっとアレな子になってはいるものの、さすが人間関係のカースト上位だ。

 雪菜のマメなところに関心しているも、雪菜の顔は少し曇った。

 そして、俺にわざとらしく笑いながら話し出した。


「まあ、交流はほどほどにするけどね。どうせ、裏で馬鹿にされるんだし」

「お、おう?」

「気難しそうだとか、高嶺の花気取りとか、私達のこと下に見てそうだとか、そんな風に言われるってこと」


 イマイチ話を飲み込めていなかった俺に雪菜は少し荒んだ感じで答えた。

 さすがの俺も馬鹿じゃない。

 雪菜の恨みつらみから色々と察することはできる。


「雪菜ってわかりづらいからな」


 雪菜は慣れたら全然気難しくない子ってわかるし、ただただクールで澄ました態度をとるようなタイプってだけで自分から高嶺の花気取りはする気ないし、慣れ親しんで馬鹿にし合えるような仲である俺以外のことは別に下に見ていない。


「……ほんと、晴斗だけ。私のこと、しっかりと見てくれるのって」

「いや、別に俺以外にもいるだろ」

「いないよ」


 雪菜から闇を感じる。とつついたら、胸糞悪そうなエピソードが出てきそうだ。

 と思っていたら、雪菜が自ら話し出した。


「私の友達は、根も葉もない私の悪口を言いふらしたり、勝手に劣等感を感じて私のことを上に見たり、勝手に笑ってないからってツマラナイとか勘違いしてくるようなのしかね」

「そ、そうなのか?」

「……私のことよく知ってるのは晴斗だけ」


 雪菜はどこか不貞腐れた子供染のように下を向きながらボソッと呟いた。

 なんとなく、雪菜が俺への未練を拗らせた理由がわかる。

 友達だと思っていた相手に傷つけられたせいで、雪菜の中で俺の価値が上がっていったのだろう。

 周りの人は、自分のことを理解してくれない。

 でも、少なからず俺は理解してくれていたと思い知らされた。

 それがまぁ、雪菜は俺と仲違いをしたことを後悔をより一層と深めた。

 そして、雪菜は俺と仲直りをしたいと思うようになるも、気まずくて仲直りはできず、でもやっぱり仲直りしたくて……。


 俺の行動を観察するようになり、それが日課となりストーカーと化した。


 大方、こんなところだろうか?

 まあ、普通に間違ってるかもしれないけど。


 ちょっといじけた様子の雪菜にどう話しかけたものか。

 自暴自棄が少し入ってるし今度こそ友達ができると励ますのも微妙だろうし、俺だけは的なことを言うのも、ストーカー気質な今の雪菜には言いたくない。

 どうしたものかと悩んでいたら、雪菜の方から俺に話しかけてきた。


「俺が一生お前の傍にいてやるとか言ってくれないわけ?」


 あまりにもド直球な物言いに俺は苦笑いしてしまった。

 そして、雪菜がストーキングする原動力を知った俺は思い至る。

 今の雪菜は自分のことを理解してくれる相手を欲しているだけ。

 つまりはそういう人と出会えた時、俺への執着も軽くなるのでは? と。


 正直、このままだと雪菜に何をされるかわからなくて怖い。


 ヤバい雪菜から逃れるべく、雪菜のことを俺以上とはいかなくとも理解してくれそうな相手を見つけてあげよう。

 そして、そいつに雪菜を押し付ける。

 暗闇に差し込んだ一筋の光を見つけ、俺は少しだけ気分が明るくなった。



 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る