第20話手洗い

 雪菜は俺が穿いているパンツと同じパンツを買ってきたらしい。

 それはまぁ、なんというか……。

 普通にキモくてびっくりだ。

 俺は頬をひくつかせながら、恥じらう乙女みたいな態度で照れている雪菜に言う。


「マジでキモイからな?」


 ストレートな俺の物言い。

 それに晒された雪菜はというと、正気に戻るどころか不満げな顔になった。

 そして、おざなりな態度で雪菜は俺と同じパンツを脱ごうとする。


「ちょっ、なにやってんだ!?」

「キモイんでしょ? だから、脱がないと」

「だからって、俺の前で脱ごうとするな」

「……別にいいでしょ。見たことあるんだし」


 確かに雪菜の恥部はじっくりと見たことはある。

 ただ、だからと言って、みだらに見せつけるようなものではないはずだ。

 雪菜との線引きはハッキリとさせておきたい俺はハッキリという。


「ここで脱いだら出ていく」


 こうでも言っておけば脱がないはずだ。

 効果はあったようで雪菜は渋々とだが脱ぐのをやめてくれた。


「はいはい。てか、あれだね。私がこのパンツを穿くの晴斗は嫌そうだし封印しとかないとね……」


 せっかく買ったのにと名残惜しそうな感じで雪菜は残念がる。

 そして、何を思ったのか、雪菜は穿いてる俺とお揃いのパンツを軽く摘まみながら聞いてきた。


「これ、晴斗にあげよっか?」

「雪菜の使用済みはなんか嫌なんだけど……」

「別にちょっと穿いただけなのに?」

「そうはいうけどさぁ……」


 雪菜が穿いたパンツを穿いたら怖い夢を見そうなんだよな。


「悪い。さすがにちょっとあれだし遠慮させてくれ」

「……どうせ、全部私に使用済みにされるのにね」

 

 ん?

 なんだろう、なんか嫌なことを聞いた気がするけど気のせいだよな。

 うん、きっとそうだよな?


「……はぁ。まあいいや。さてと、飯でも食うか」


 現在の時刻は13時32分。

 まだお昼ご飯を食べてはいない。

 変態とのやり取りがひと段落付くと空腹感が襲ってきた。

 不動産屋での相談が終わった後、近くのスーパーで買ってきたお弁当をリュックから取り出そうとしたときだった。


「……晴斗のパソコンを弄るのに夢中になってて、私もお昼まだなんだよね」

「あー、帰りに雪菜の分も何か買うかって聞けばよかったな」

「別にいいよ。さっき、晴斗と同じパンツを買いに行くついでにカップ麺とかレトルトカレーとか常備してると便利な食品は買ってきたから」


 お腹が減っている雪菜の前でお弁当を食べることはなさそうで、俺は安心してお弁当を電子レンジに突っ込んで温めるのであった。


   ※


 お昼を食べ終わった後、トイレから雪菜が出てきた。

 で、俺とお揃いのパンツを見せつけてきた。


「ちゃんと脱いだよ」

「一々、報告せんでいい」

「……で、これ本当にどうしよっか」

 

 俺に穿くなと言われたせいで無用の長物となったボクサーパンツ。

 それをどうしたものかと雪菜は困り顔になる。

 てか、雪菜の手元に置いておいたら俺のとすり替えとか企みそうなんだよな……。


「俺が預かっとく」


 雪菜の方に手を伸ばしかけるも……。

 俺はひょいと手を引っ込めた。


「なんで引っ込めたの?」

「いや、雪菜の使用済みはちょっとな……」

「ちょっと穿いただけでそんなに汚れてないから」


 とはいうが、さっきまで雪菜が穿いていたパンツだが、股間付近の色がちょっと違うんだよなぁ……。

 過激なビデオではそういうシミをみたら興奮するけど、雪菜の行動が割と怖すぎて素直に興奮できない。

 何とも言えない気持ちになっていると、雪菜は渋々パンツを手に廊下の方へ出ていった。


「一枚だけなら手洗いの方が早いし、洗ってくる」

「よーく洗ってくれると助かる」

「……初めてのとき調子乗って私のアソコを舐めたくせに」


 雪菜は恨めしそうにボソッと言った。

 まあ、確かにそうだけどさぁと気まずい顔をしていると、雪菜は俺に謝ってきた。


「ごめん。彼女とそうじゃない相手じゃ全然違うよね」

「……お、おう」

「だから、あれ。晴斗にまた舐めて貰えるように頑張る」

 

 決意に満ちた雪菜はそう言って、パンツを洗いに洗面台へと向かう。

 さてと、洗わずに俺に渡すとか普通にしてきそうなので、雪菜を見張りに行くか。


「なんで来たの?」

「一応、見張っておこうと思ってな」

「……信用ないんだ」

「逆に聞くが、信用されてるとでも?」

「……見てるなら洗剤とってくれない?」


 しれっと話を流したな……。

 俺から全く信用されていない自覚がある雪菜のために、俺は棚から衣類用の洗剤を取り出して渡した。

 雪菜は俺から液体タイプの洗濯用洗剤を受け取ると、パンツの上にほんの少し洗剤を垂らしてごしごしと擦るように洗い出す。

 それを後ろで見張っていると、雪菜が嬉し気に話しかけてきた。


「こうしてると夫のパンツを洗ってるみたいで興奮するね」

「普通に夫婦でもパートナーのパンツは手洗いしないだろ」

「……ケチ。ちょっとくらい、夢見させてくれてもいいでしょ」

「無駄口叩いてないでさっさと洗え。時間かけてたら、洗剤で手が荒れるぞ?」


 洗濯用洗剤は水で伸ばすのが前提な代物だ。

 今、雪菜の手に触れている洗剤の濃度は相当に濃くて肌に良いとは言い難い。

 手荒れを心配してそう言ったのだが……。

 雪菜は気持ち悪く微笑みながら、ブツブツと呟きだした。


「ふふっ、晴斗が私のために心配してくれた。晴斗が私のために……。晴斗が……」


 特に他意のないちょっとした心配だというのに、凄く嬉しそうにしてるとかマジで怖くてチビリそうなる。

 ほんと、俺はとんでもない奴に憑りつかれたのかもしれない。

 背筋をゾッとさせながら、俺に心配されて嬉しさのあまり気持ち悪く笑う雪菜がパンツを洗うのを見守るのであった。

 



 

 

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