第19話お揃い
不動産屋に行ったのはいいのだが、大した成果は得られなかった。
4月から新生活をスタートさせる人々が選び終わった後で、ちょうどいい物件が残っていないような時期なのでしょうがない。
不動産屋の人曰く、ここら辺は大学がある街ということで、借りたのに入居すらしない人で、毎年のように数件の物件が空くらしいのでそれを期待しよう。
「帰るか……」
用件を済ませた俺は家に向けて歩き出したのだが、俺の足取りは重く、中々に前に進んでくれない。
だって、家には何をしてくるのかわからない雪菜が居るのだから。
しかし、あっという間に雪菜の部屋の前に辿り着いていた。
はぁと軽く溜息を吐いた後、部屋のドアノブをひねるも鍵がかかっていた。
今の時代、家にいるからと言って家の鍵を開けっぱなしにするのは不用心である。
特に学生の多い街は治安もよくないし当然だ。
鍵を空けて貰おうと、俺はインターホンを鳴らした。
『は、早かったね。今、開けるからちょっと待ってて……』
と言われるも……。
1分くらい放置される。
もう一度、インターホンを鳴らすと雪菜は少し息を切らしていた。
『……あと、30秒だけ待って』
やましいことをやってて、証拠隠滅をしてるんだろうな。
最初にインターホンを鳴らして3分ほどが経った頃だろうか。
やっと、雪菜は部屋の鍵を開けてくれた。
「ごめん。ちょっと見られたくないモノを片付けてたから……」
雪菜は申し訳なさそうにそう言って、俺を部屋の中に入れてくれた。
出てくるまでに間があったので怪しんでいたが、俺の目からして特にこれと言って不審な点は見つからない。
無事、証拠隠滅に成功したのだろうなと思っていた時だった。
――ノートパソコンの充電器が机の下にあった。
「雪菜。あれはなんだ?」
「充電器でしょ」
「なんの?」
「……ノートパソコン」
「誰の?」
雪菜はすんと静かになった。
俺は呆れるように段ボール箱の中から俺が実家から持ってきたノートパソコンを取り出して雪菜に見せつける。
「で、俺のパソコンを弄って何をしようとしてたんだ?」
雪菜は俺のノートパソコンを勝手に使っていたらしい。
部屋の鍵を開けるのに時間が掛ったのは、俺に浸かったのがバレまいとノートパソコンを片付けるのに時間が掛ったからだろう。
充電器を仕舞い忘れるというミスを犯した雪菜は下を向いたまま俺に答える。
「……晴斗がどんなエッチなサイトを見てるか知りたかった」
「色仕掛けの参考にしようってか?」
「まあ、はい」
俺への好意を取り戻すのに焦っているのか、雪菜の行動は道徳が欠けている。
気持ちは分からなくもないが、もう少し落ち着いて欲しいものだ。
とはいえ、ここで強く叱れば自暴自棄になった雪菜に何をされるかわからない。
軽い注意で済ませようとしたら、雪菜が俺に怖いことを言いだした。
「週に3、4回ああいうサイトを見てるってことはそういう頻度?」
「わりとキモイ考察しやがって……」
ちゃんとストーカーなところを見せてくる雪菜に俺はドン引きだ。
性癖を知ろうとするのまでは、限りなくアウトに近いセーフ? だけどさ……。
履歴を見て週に何回くらいしているのかを考察してくるのは完全にアウトだ。
もう怒る気力すら沸かない程にドン引きしていると、雪菜はさらにキモイことを言ってくる。
「責めっ気強い女優が好きなの?」
「ほんと、俺で良かったな」
「なにが?」
「ストーカーの対象が」
雪菜のストーカー相手が俺じゃなかったら普通に捕まってたと思うぞ?
もう相手するの疲れてきたし、勝手にパソコンを使うんじゃないと軽く注意して話を終わらせようと思ったときだ。
雪菜はそわそわとしながら、俺の方を上目遣いで見てきた。
「居候中、晴斗がスルのを我慢できないなら……。その、えっと……」
手伝ってあげようか? と言わんばかりなもの欲しそうな目を向けてくる。
俺のことが好きでそういうことをしたい気持ちはわかる。
だがしかし、俺は雪菜とそういうことをしたいとは思えない。
「別に我慢できるから気にしないでくれ」
口では我慢できると言ったが、普通に嘘だ。
雪菜はいまだに綺麗で可愛いし、溜まってるときに色仕掛けをされたらコロっと篭絡されるかもしれない。
ゆえに、トイレでこっそりと処理をするつもりではある。
「……別にやり捨てでもいいのに」
「俺が嫌だ。そういうことは普通に好きな人としたい」
「そっか。変な事言ってごめん」
「雪菜と仲直りしてから、ずっと変な事言われてるから気にしないでくれ」
「てか、あれ。勝手にパソコン使ってごめん」
遅すぎる謝罪を受けた後、俺は雪菜に面と向かって言う。
「で、次にアレなことをしたら出ていくって言ったよな?」
「バレなきゃいいかなって」
「あのなぁ……」
「晴斗を手に入れるには卑怯な手くらい使わないと無理でしょ?」
わからなくもないけど、普通に倫理観は大事だからな?
諭すような目で俺は雪菜を見つめた。
けど、雪菜は全然わかってくれない。
「今度は絶対に見つからないように気を付ける」
そういうことじゃないんだよなぁ……。
なんて思いながらも、俺は落ちているノートパソコンの充電器を拾うためにしゃがみ込んだ。
ふと、雪菜が穿いている短めでだるんだるんなハーフパンツの隙間から、パンツが見えてしまった。
そして、俺は驚きのあまりその場で固まってしまう。
「あっ」
呆然としている俺が何を見ているのかに気が付いた雪菜は間抜けな声をあげる。
うん、俺、お前のことを見くびってたよ。
「なんで俺のパンツ穿いてんの?」
そう、雪菜は俺が昨日穿いていたであろうパンツ穿いているのだ。
好きな人の私物を盗んで使っているストーカーは俺に弁解してきた。
「こ、これは晴斗のじゃないからね?」
「……いやいや、その言い訳は無理があるぞ」
「ほんとだし……」
「じゃあ、確かめてくるな」
雪菜が往生際悪いので、証拠を見に俺は洗濯籠の前に行った。
変な嘘を吐きやがってと思いながら、カゴを漁ると……。
「あれ?」
普通に俺のパンツがあった。
俺の背後に立っている雪菜がボソッと言う。
「……好きな人と同じ物を使いたくならない?」
俺のパンツはユニク口で買った何ら変哲のないボクサーパンツだ。
手に入れようと思えば簡単に手に入るけどさ……。
いや、そんなことないよな?
俺は恐る恐る雪菜への疑問を口にする。
「同じパンツが穿きたくて買ってきたってか?」
そんなことはないよな? と強く念を押すような感じで雪菜を見る。
しかし、俺の念は意味を為さなかった。
雪菜は財布から証拠であるレシートを取り出して俺に渡しながら言う。
「晴斗の穿いてるやつ、どこでも売ってるのだったから……」
好きな人とお揃いにしたくて同じパンツを買っちゃったと、恥ずかしそうにしている雪菜を見て俺は苦笑いするしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます