第18話慰める
朝の9時を過ぎた頃、俺は自然と目が覚めた。
雪菜に何かされていないかと確認をするも、特にこれといって不審な点は見つからなかった。
ホッと胸をなでおろすと、先に起きていた雪菜が廊下にあるキッチンからマグカップを片手に戻ってきた。
「おはよ」
「お、おはよう」
「……そんなに私に何かされてないか不安?」
「昨日、あんな話を聞かされたからな……」
「別に何もしないって。ここで晴斗に手を出したら嫌われるだろうし」
俺のストーカーとはいえ、雪菜は引き際は弁えているらしい。
これなら、居候生活を続けられそうだと安心をしかけたときである。
雪菜がボソッと俺に怖いことを言ってきた。
「まだ何もしないよ」
俺、お前が怖い。
何かする気満々な雪菜への恐怖で身を縮こまらせるていると、雪菜はキッチンに行き、わざわざ俺のためにコーヒーを淹れてくれた。
受け取ったコーヒーを啜りながら、俺は雪菜に今日の予定を尋ねる。
「今日は近場の不動産屋に行ってくる。そっちの予定は?」
「湊の付き添いで不動産屋についていく?」
「来なくていいから……」
残念という顔で雪菜は手に持っていたマグカップを傾けて中身を飲んだ。
てか、あれだ。さりげなく俺に渡してきたマグカップと雪菜が使ってるマグカップはペアセットっぽい見た目してるな。
「マグカップ、どこで買ったんだ?」
「ニ〇リ」
「……これってペアセット?」
「そうだよ。好きな人と一緒のモノを使いたくてね」
雪菜も可愛い所があるもんだ。
なんて思っていると、雪菜が俺に聞いてくる。
「洗濯は2日に1回くらいの頻度で回すつもりだけど平気?」
「スカスカの状態で洗濯機を回すのもな……。あ、俺のパンツは盗むなよ」
「じゃあ、2日に1回で」
「パンツ盗むなよ?」
「……まあ、あくまで2日に1回を目安にするだけで、臨機応変で」
雪菜は盗むなよというのには反応しない。
疎遠になっていたとはいえ、幼馴染だからこそ俺はわかってしまった。
雪菜はこれから盗む気があるから反応しないんじゃなくて……、
「ヤッたのか?」
すでに、俺のパンツを盗んだに違いない。
往生際が悪いのを覚悟していたが、思いのほかすんなりと雪菜はゲロった。
「……すみませんでした」
雪菜は後ろめたそうに俺に謝ってきた。
昔は素直に謝ることは少なかった雪菜の成長に関心していると、雪菜はハーフパンツのポケットから俺の下着を取り出した。
で、名残惜しそうに俺の手に返そうとするも、俺の手に渡ろうかというときにピタッと動きが止まった。
「どうかしたか?」
「ちょっと汚いかも」
「そりゃあ汚いだろ。穿いた後の下着なんて」
パンツを穿いて汚したのは俺自身である。
雪菜が俺に汚いと言ってパンツを渡すのを渋るのか不思議でしょうがない。
別に気にするなと言わんばかりに、俺は雪菜が持っていた下着を奪うように取る。
「あっ」
もどかしげな声を上げる雪菜。
そして、俺は渡すのを渋っていたワケに気が付いてしまった。
――湿っている。
漏らしたわけでもないのに、俺のパンツが何故かほんのりと湿り気を帯びていた。
俺は頬をぴくぴくとさせながら、目の前にいる雪菜を見ながら聞く。
「これはどういうことで?」
問い詰められた雪菜は下を向いてしまった。
湿っている下着を触れたくないかのように摘まむように持ち上げ、雪菜の目の前にぶら下げて見せつける。
これはどういうことなんだ? と言わんばかりに。
すると、雪菜は恥ずかしさを誤魔化すかのように、口元に手を当てやや下を見ながら小さな声をあげる。
「……使った」
説明ともいえないような説明だけど、深堀するのは怖いのでやめておこう。
どう使ったのか知れば知るほど、きっと困惑しか生まれないだろしな……。
「俺に直接危害を加えなきゃセーフじゃないからな?」
「……だね」
「どうせ俺とよりを戻せないからくる自暴自棄になってるのか?」
「そうじゃないけど……」
「俺とよりを戻したいのなら、しっかりと考えて行動しろよ」
雪菜から向けられる好意は重荷でしかない。
気まずさが限界突破しつつある今、俺はハッキリと告げた。
「次、何かアレな行為してるの見つけたら、俺は出ていくからな。泊めて貰ってるのは本当に助かってるし、有難いけど……。さすがに、これ以上は気まずすぎてしんどい」
と言ったときであった。
雪菜が少し鼻をすすった後、苦笑いで話し出す。
「ほんと、私って馬鹿だよね。せっかくのチャンスを活かせてないどころか、自分で潰してるし」
「……だな」
「……どうせ晴斗には振り向いて貰えないんだろうし、最後の最後くらい晴斗に好き放題しよっかな」
どこか思いつめた様子で雪菜はブツブツと呟きだした。
不味い。このままでは非常に不味い。
自暴自棄になった雪菜にヤられる。
俺は希望を抱かせるのも悪いし雪菜を励ます気はなかったのだが、そうも言ってられない状況になりつつあった。
「そ、そうでもないぞ? まだまだ可能性はあると思うぞ?」
「別にお世辞はいいから」
「いやいやいや、マジであるから。全然あり得るからな?」
「……ほんとに?」
「ほんとほんと!」
ぶんぶんと俺は首を縦に振って頷く。
自暴自棄になってしまった雪菜という存在は恐怖でしかない。
俺は必死に雪菜をそうさせまいと慰めるのであった。
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