第17話就寝前

 雪菜にストーカーされていた俺はドキドキが止まらない。

 なにせ、俺はこれから……。

 しばらくの間、雪菜の部屋に居候させて貰うことになっているのだから。


「……で、雪菜。何で俺の布団の上に居るんだ?」


 雪菜はさっきから自分のベッドの上ではなくて、俺の寝床である床に敷かれた布団の上でくつろいでいるのだ。

 まさか、一緒の布団で寝ようとか言いださないよな?


「晴斗にベッド貸してあげようと思ってね」

「いや、ベッドはお前のだろ」

「今日は重い荷物をたくさん運んでくれたでしょ? なのに、硬い床に安物の布団じゃ疲れが取れないから」

「……まどろっこしいぞ」


 俺は疑い深い目で雪菜を睨む。

 そしたら、雪菜は俺に堂々と言い放つ。


「寝ぼけてベッドに侵入する気だったから」

「……まあ、寝ぼけて布団で寝てる俺のところへ~はさすがに無理あるもんな」

「そ、ベッドならワンチャンいけるかなって」

「ほんと、アプローチが過激だな」

「このくらいしないと晴斗の気持ちは取り戻せないしね」


 俺に振り向いて貰おうと健気な雪菜が可愛く見えるには見えるが、2年間もずっとネトストされていたという事実がそれを打ち消してくる。

 さてと、夜這いされたら困るし雪菜をきちんとベッドで寝かせよう。


「ほら、さっさと俺の布団からどいてくれ」


 雪菜は不満げに自分のベッドの上に移動する。

 そして、俺は雪菜が陣取っていた布団の上に寝転び、ベッドの上でスマホを弄り出した雪菜に話しかける。


「今日はもう寝るか?」

「もうちょっとだけ起きてようかな。どうせ、明日の予定も特にないし」

「だな。早めに引っ越してきたから、入学式までは暇だもんな……」

「大学が始まるまで、二人でできるね」


 ぞわっと背筋に悪寒が走った。

 雪菜からはやる気に満ちた並々ならぬオーラを感じる。


「お、俺は部屋探しとかで外に出るけどな」


 一緒に居たら不味い気がした俺は逃げるように言う。

 すると、雪菜はケロッとした顔で俺にとんでもない事を言いだす。


「さすがにずっとタダってのは無理だけど、家賃払ってくれるなら……。いつまでも居候させてあげる」

「ありがとな。き、気持ちだけで十分だ」

「ま、私とは嫌か……」

「また卑屈になって……。そんなに俺に振られたのがショックだったのか?」

「……まあ、それもあるけど。晴斗と仲違いした直後に、学校でも陰口でアイツ綺麗だからって調子乗り過ぎ的なことを言われたこともあってさ」


 別にお前はそんな陰口を気にするようなタイプじゃ……。

 と言いたくなるも、俺とのアレコレがあった直後だったのを考えると、普段以上に陰口が効いちゃうのも無理はないか。


「傷口に塩を塗られたら、そりゃ痛いよな……」

「そういうこと」

「ただまぁ、俺が言うのもなんだけど、あんまり卑屈になり過ぎるなよ」

「……そうかもね」

「で、その陰口を言ってきたやつらとはどうなったんだ?」


 興味本位で聞くと、雪菜はつまらなさそうな顔で俺に言った。


「別になんも起きてないよ。てか、この話って楽しい?」

「楽しくない。というわけで、なんか面白い話があったらしてくれ」


 雪菜に軽い無茶ぶりをした。

 しかし、俺は一瞬で後悔する。


「んー、晴斗の学校の文化祭に私が行ってたのに、晴斗は全く私の存在に気が付かなかったとか?」

「……」

「どうしたの?」

「いや、ガチでこえーよ……」


 現実でもちょっとしてたらしいストーカー行為。

 その一端を知ってしまった俺は雪菜に恐怖を覚える。

 まあ、俺の学校には中学の頃の同級生である山岸さんもいるし、きっと山岸さんに誘われて俺の学校に遊びに来たってかんじだろうけどな。

 いや、そ、そうだよな?

 わざわざ、俺を見に遊びに来たなんてことはない……よな?


「写真あるけど見る?」

「……誰の?」

「晴斗の」

「あ、はい」


 雪菜は文化祭でメイド服を着ている俺の姿の写真をスマホに表示させる。

 正面からではなく、後ろ姿なのがこれまたストーカーが撮るような写真っぽい。

 俺は布団を引っ張って、雪菜のベッドから遠ざけた。


「なんで逃げるの?」

「わりとお前に恐怖を感じた」

「晴斗はドン引いてるけど、好きな人を隠れて写真に撮りたくならない?」

「そう言われると、勝手に好きな人の後ろ姿を写真に撮るのもわかる気がするようなしないような……。いや、やっぱり怖いわ」


 そんなに怖がらなくても……と不服そうに雪菜は、俺の写真が表示されているスマホを引っ込める。

 ストーカーされていたという現実を目の当たりにした俺は雪菜に恐る恐る聞く。


「か、監禁とか目論んでないよな?」

「なわけないでしょ」

「だよな。うん、そうだよな」

「さてと、そろそろ寝よっか。電気消すよ」


 雪菜はそう言って部屋の電気を消した。

 まあ、あれだ。さすがの雪菜も無理矢理に何かをしてくるってことはないだろう。

 ちゃんと俺のストーカーをしていた幼馴染である雪菜に、何をされるのか不安になりながらも俺は目を閉じた。

 その瞬間だった。

 ベッドの方から小さな声が聞こえてくる。



「何もしないから」



 残念なことに雪菜への信用は落ちに落ち切っている。

 雪菜のことなんて信用できるわけがないのは言うまでもない。

 


 

 

 

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