第16話未練たらたらな理由

 直接迫るのは迷惑だから、間接的に俺へ迫ろうとした結果……。

 雪菜は俺のパンツを盗もうとした。

 俺への未練がヤバすぎる雪菜に対して、さすがの俺も不信感を抱き始める。

 恐る恐るパンツを盗もうとしたのがバレてちょっと気まずそうにしながら、何故かベッドではなく俺の敷いた布団の上で寝転んでいる雪菜に問う。


「あの、雪菜さん。もしかして、俺と間接的に関りがありましたか?」


 いくら何でも疎遠だったとはいえ、ここまで俺への未練を拗らせるのはおかしい。

 気持ちが冷めさせない何かがあったのではないかと疑っている。

 どうやら、俺の勘は間違っていなかったようだ。

 雪菜は声を震わせてイキる。


「……な、ないけど?」

「いやいや、明らかに動揺してるだろうが」

「してないし……」

「本当に? 素直に言えば、ちょっとは雪菜への好意も……」


 あまりにも言い渋るし、何かヤバいことを隠しているのでは? と不安になった俺は露骨な餌をぶら下げる。

 すると、雪菜は食い気味に俺にカミングアウトしだした。


「ネトストしてた」


 ネトスト?

 あまり聞きなれない単語に首を傾げていると、雪菜がスマホを取り出して俺にSNSのアカウントを表示させて見せつけてきた。


「いきなり、なにを……。って、このアカウント……。よく、俺のツエッターにコメントをしてるアカウントじゃね?」

「……まあ、そうだよ」

「ネトストって……。あー、ネットストーカーの略?」


 ネトストの意味を理解した俺に対し、あまりお行儀のよくない行為だと自覚しているのか雪菜は申し訳なさそうに話を続ける。


「晴斗のこと気になってた。だけど、現実では話しかけられないから、ネットで話しかけてたっていうこと……です」

「なるほど」

「ごめん。晴斗のこと諦めきれなかったから……」


 俺と仲直りしたかったというか、縁を切りたくなかったというか、そういった雪菜の俺への好意を感じはする。

 だけど、それ以上に俺は怖くなった。


「怖いわ! 普通に怖くて鳥肌たったんだが!?」

「……別にそんな怖がらなくてもいいじゃん。SNSで仲良くなって、実は私だったってカミングアウトしたら、じゃあ、ネットみたいに現実でも仲直りするか……ってのを目指してただけだし……」

「なら、そこそこ仲良くなった時点でカミングアウトしに来いよ……」

「それはまあ、あれ。気まずくてね」


 マジでゾッとして鳥肌がヤバい。

 SNSでよく会話してる相手が正体を隠していた雪菜だったとはな……。

 震える俺に雪菜は可愛らしい感じでもじもじとしながら俺の目を見てくる。

 いや、そんな目で見られても普通に恐怖の方が凄いからな!?


「はぁ……。お前が俺への未練たらたらなの何となく納得できた」


 疎遠になったようで、完全に疎遠になっていなかった。

 このもどかしい距離感が雪菜を狂わせたのだと。

 てか、雪菜よ。

 正直に話したから、ネトストしてたの許してくれるよね? って顔でこっち見てくるな。正直に話されたところで、許せるレベルかどうか微妙なライン過ぎて俺も判断に困ってるから。

 どうしたものかと思っていたときだった。

 雪菜がさらにスマホを見せつけて来ながら俺に怖いことを言いだした。


「あと、このアカウントも私」


 どうやら、雪菜は別のアカウントでも、俺のSNSのアカウントに近づいて来ていたらしい。

 しかも、その別のアカウント名は……。

 YUKI@裏垢女子という名前である。


「お、俺のSNSのダイレクトメッセージに、顔の見えない下着姿の画像を送りつけてきておいて、欲求不満なので会いませんか? 的なメッセージも送って来て……。でも、直前でやっぱりごめんなさい。って撤回してきたYUKI@裏垢女子なのか?」

「そうだよ。晴斗に近づきたくて……。でも、こんな風に騙して会ったら、それはそれで晴斗の気持ちを逆なでしそうだったから、会う直前でごめんなさいって送った」


 俺と仲直りしたくても気まずくて出来なかった。

 何度も何かしらの形で俺に接触しようとしていた雪菜の努力。

 それはまあ、俺への気持ちがそれだけ大きかったというのを教えてくれる。

 でも、雪菜がしてきた努力の方向性がちょっとすぎて、全然俺の心に響いてこないんですけど……。


「雪菜は回りくどい方法で何度も俺と仲直りしようとしてたんだな……。マジで俺のことが気がかりで、ずっと俺と仲直りしたかった気持ちは伝わった。頑張ってたのを知って、上から目線な物言いだけど……、雪菜のこと見直した」


 方法はアレだが、雪菜なりに努力していたのは間違いがない。

 俺は雪菜の努力を褒めたのだが……。

 どうも卑屈っぽくなってしまった雪菜は素直に俺の言葉を受け止めてくれない。


「今の今まで謝れてなかった時点で無能だけどね」

「そう言うなって」

「でも、事実じゃん」

「卑屈になり過ぎだっての……。俺へ謝ろうとした方法はめっちゃ不器用だし、なんかちょっと怖いけどさ……。俺と仲直りをしようと頑張ってたのは本当に凄いなって思ってるからな」


 雪菜は、でも、と言おうとする。

 それを俺は遮るように言い放つ。


「それにしても、まさか雪菜にストーカーされてたとはな……」


 雪菜は間髪入れずに補足を加えてきた。


「現実ではしてないからね」

「とか言って、本当はしちゃってたり?」


 少しからかうように言った。

 今の雪菜は卑屈モードだし『そう見えるくらいに私って気持ち悪いよね』なんて言われるかと思っていたのだが……。

 ちょっと雪菜の様子がおかしい。

 おーい、とのぞき込むように雪菜の顔を見たときだった。



「……ごめん。現実でもちょっとしてた」



 雪菜は気まずそうに謝ってくる。

 まあ、雪菜の態度から察するに大したことじゃないだろう。

 いや、うん。きっと、そんなに大したことじゃないよな?

 何をされていたか気になるものの、俺は怖くて雪菜に聞くことができなかった。

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