第15話泥棒

 15時を過ぎた頃、部屋に色々な荷物が届き始めた。

 冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機、掃除機といった白物家電から、机にベッド。

 そして、実家から送った洋服類などなど。

 それらの片付けが終わったのは20時を過ぎたくらいだった。


「お疲れ」


 雪菜が労いながらペットボトルのお茶をくれた。

 飲みながら俺は雪菜に話しかける。


「思いのほか荷物が少ないんだな」

「これから色々と買い足していく予定だからね」

「……ま、始めての一人暮らしだもんな」

「今日は助かった。机とかベッドとか、晴斗が居なかったら今日中には組み立てが終わらなかっただろうし」

「居候だし家のことを手伝うのは当たり前だろ?」


 片付けがひと段落し落ち着いたこともあってか、急に空腹感に襲われる。

 さすがの雪菜も自炊をすると言ってはいたが、今日はしないだろう。

 今日の夕飯はどうしたものかと思っていたときである。


「今日くらいは外でご飯食べよっか。晴斗もいいでしょ?」

「そうするか」


 俺と雪菜は身支度を軽く済ませ、夕食を食べに外へと出るのであった。


   ※

 

 時刻は21時ちょっと前。

 牛丼チェーン店で食事を済ませた俺と雪菜は部屋に帰ってきた。

 どこかそわそわとした雪菜が俺に言う。


「どっちが先にお風呂を使う?」

「雪菜だろ」

「ま、部屋の主は私だしね」


 雪菜は実家から送った洋服類が入った段ボール箱の中から、着替えとタオルを取り出した。

 そして、雪菜はそれらを手にしお風呂場へと消えていく。


「寝る準備でもしとくか」

 食事中に今日はくたくただから早く寝ると雪菜は言っていた。

 ということで、俺は寝るための準備に取り掛かる。

 4000円の安い布団セットを開封し、敷布団と掛布団にカバーを被せ、部屋の真ん中にある机を端にどけて布団を敷いて寝床を完成させた。

 にしても、さすが一人暮らし向けの1Kの部屋だ。

 ベッドを置いて、さらに床に布団を敷いたら、かなりスペースに余裕がなくなるな……。

 

「ただいま。次、使っていいよ」


 布団を敷き終わってからほどなく、雪菜がTシャツとハーフパンツといったラフな姿でお風呂から戻ってきた。

 さてと、俺もさっさとシャワーを浴びよう。

 着替えとタオルを持ってお風呂場に行くことにした。


「じゃ、俺も行ってくるな」

「お湯、レバーで温度を調節するタイプだったから火傷しないようにね」

「あー、公衆浴場にあるタイプのやつ?」

「そんな感じ。まあ、私が使った後だから、良い感じの温度にはなってると思う」

「わざわざ注意ありがとな。じゃ、シャワー行ってくるな……」


 部屋を出てお風呂場に向かう。

 脱衣所ともいえないようなお風呂場に繋がるドアの前で服を脱ごうとしたときだ。

 ふと、洗濯機の近くに置かれている脱いだ服を入れる用のカゴが目に入った。 


「露骨すぎだろ」


 カゴの中には、黒のブラと下着がこれ見よがしに入っていた。

 まるで、俺に女の子であることをアピールするかのような雪菜の行動に苦笑いしか出ない。

 俺と寄りを戻そうと必死過ぎやしないか?

 ま、俺にその気はないし強引に迫ってくるようなら早めに逃げないとな……。

 などと考えながらも、俺は少し声を張って部屋にいる雪菜に聞いた。


「俺の洗濯物もカゴに入れていい?」


 いいよ、と雪菜からの返事が返ってきた。

 俺はカゴの中に脱いだ服を入れて裸になった俺はお風呂場へ。

 洗面台にトイレがある、いわゆるユニットバスというものに新鮮味を感じながら、俺はシャワーを浴びるためにノブをひねった。


 雪菜が使った後ということもあり、温いお湯が出る。

 次第にお湯の温度も上がっていき、浴びるのにはちょうどいいくらいになった。

 体をスポンジで洗い、髪の毛を洗おうとシャンプーに手を伸ばしたときだ。


『と、トイレ、使わせて貰えない?』


 雪菜が明らかに不審な声でお風呂場のドアを叩いた。

 ……トイレを理由に俺のお風呂を覗こうという魂胆だろうか?

 まあ、とはいえだ。本当に急に催したののなら、使わせてあげないのは可哀そうだしな。

 俺はシャワーを浴びるのを中断し、ドアの前で待つ雪菜に言う。


「出るから、ちょっと向こう行っててくれ」


 扉越しに雪菜は答える。


「別に晴斗の裸くらい見ても平気だけど? てか、なんなら晴斗がシャワーを浴びてる横で済ませても……」

「いや、親しき中にも礼儀ありだろ。必要以上にオープンにする方が変だからな」

「まあ、私なんかに裸を見られるの嫌だろうし、私なんかがトイレしてるのを見せられるのも嫌だよね。一回部屋に戻ってるから着替えたら呼んで」


 雪菜は脱衣所の前から居なくなる。

 俺は風呂場を出て軽く体を拭いて腰にタオルを巻き、いったん部屋の方に退散した雪菜を呼ぶ。


「もう、いいぞ」


 駆け足で雪菜が俺の目の前にやって来る。


「ごめん。晴斗が出るまで待てそうになくてね」

「ほんと、こういうときユニットバスだと不便だよな……」


 俺が同意を求めるように言うと、雪菜は返事をせずにトイレのあるお風呂場へ行ってしまった。

 あ、うん。わりと、ガチで漏れそうだったんだな。

 覗く気はなかったし、俺の裸を別に見たかったわけじゃないようだ。

 俺も自意識過剰だな……とか思っていたら、ものの3分足らずで雪菜はトイレのあるお風呂場から出てきた。


「お待たせ。シャワー中断させちゃってごめん」

「別に気にしなくていいから」

「……そ、なら良かった」

「じゃ、ちょっくら浴びてくる」


 俺はシャワーを再び浴びた。

 さっきは綺麗にできなかった髪の毛を洗い終えたので、お風呂場から脱衣所に出たときだった。

 あまりの光景に俺は敬語になってしまう。


「……あの、雪菜さん? 何をしてるんでしょうか?」


 雪菜が洗濯物の入ったカゴの中から、俺の下着を取り出していたのだから。

 俺に見つかってしまった雪菜はというと、気まずそうにそっぽを向きながらブツブツと呟く。




「晴斗のことがまだ好きだから。直接迫るのは晴斗に迷惑だし……。だから、その、服の匂いを嗅ぐくらいならいいかなって……」




 俺のパンツを手にしている雪菜。

 そんな彼女に俺は呆れたように言った。


「俺、お前と一緒に住むの怖くなってきたんだけど?」


 未練たらたらな幼馴染が今後どんな奇行に走るのか不安でしょうがなくなる。

 もう雪菜の部屋に居候するのは諦めて、部屋が見つかるまでネカフェで寝泊まりした方が良いのかもしれない。

 そう思いながら、雪菜が盗もうとしていた俺の下着を取り返すのであった。








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