第14話下心しかない幼馴染

 新居を見つけられないまま大学生活のスタートを切るところだったのだが、疎遠となっていた幼馴染である雪菜が救いの手を差し伸べてくれた。

 お言葉に甘えて、部屋が決まるまで居候をさせて貰うことになったのはいいのだが……。

 居候の許可を貰うためにも、俺は雪菜の母親に恋人であると嘘を吐いた。

 疎遠となっていたので怪しまれるかと思いきや……。

 本格的に付き合い始めたのがバレて、親にチャチャを入れられるのが嫌で、互いの家を行き来したりしなくなったのよね? と凄く見当違いな誤解をされた。

 まあ、こっちの方が都合がいいし、別にいいんだけどさ……。



 で、来たる4月1日。



 俺と雪菜は1Kでトイレとお風呂と洗面台が一緒になったユニットバスの部屋に引っ越しをした。

 まあ、俺は部屋が見つかり次第にすぐに出ていくつもりだけど。

 というか、今すぐに出ていきたい。


「同棲してるみたいだね」


 雪菜は俺と一緒に住めることが嬉しくてしょうがないっていう顔をしている。

 普通なら、綺麗な子がデレデレしてるのは嬉しいはずなのだが……。

 未練が凄い雪菜に対し、俺はすっぱりと雪菜への未練はない。

 ゆえに、デレデレされても嬉しいどころか凄く気まずい。


「……で、居候させて貰うけど俺は何をしたらいい?」

「何もしなくていいよ」

「まあ、さすがにタダで住ませて貰うのもな……」

「別にいいのに」

「いや、何もしないのも気が引けるし家賃を払わせてくれ」


 さすがに何もしないのは無理がある。前もって用意しておいた今いるアパートの大体2週間相当くらいのお金を雪菜に渡した。

 すると、雪菜は別にいいのに……という顔で俺のお金を受け取った。

 雪菜はまだ何もない殺風景な部屋を見て俺に言う。


「机とかベッドとかは今日の夕方に届く予定だから、それまで自由にしてていいよ」

「それにしても、小中と同じ学校で高校で別になったと思いきや、大学でお前と再会するとはな……」

 そう、雪菜と俺は同じ大学の同じ学科の大学生になる。

 縁とは切っても切れないもんなんだろなぁ……としみじみとしてしまう。


「まあ、それも私が晴斗に謝れた理由の一つだよ」

「あー、同じ大学の同じ学科だもんな。たぶん、講義も被って顔を合わせる機会もそれなりにあるだろうしな」

「で、色々と荷物が届くまで何したらいいんだろうね」


 手持ち無沙汰な雪菜は部屋のフローリングに膝を抱えるように座った。

 俺も釣られるように胡坐をかいて座る。

 どこかゆったりとした空気の中、俺は雪菜に空白の2年について聞く。


「俺と疎遠になった雪菜はどんな生活を送ってたんだ?」

「別に面白いことは何もないよ。まあ、周りからは丸くなったって言われるようになったくらいかな」

「……丸くなったか。うん、確かにすごく丸くなったな」

「ちゃんと反省してますから」


 雪菜はくすっと笑いながら答えた。 

 そんな彼女は膝をより深々と抱えて座りこむ。

 そして、ボソッと俺に言う。


「仲直りしたとはいえ、こんな風にまたお話ができるなんて思ってなかった」

「いや、仲直りしたんだからこそ、こういう風に話せなくちゃダメだろ」

「そっか……。じゃあ、晴斗のことも聞かせて」

「俺か? 俺も雪菜と同じで疎遠になってた2年間に特にこれと言って大きな事件とか出来事はなかったな……」

「ま、そんなもんだよね。で、その……あれ、私以外の女の子とかと付き合ったとかはなかったわけ?」


 未練たらたらな視線で雪菜が聞いてくる。

 そんな彼女に俺はありのままを伝えた。


「雪菜以外とは関係になった相手はいないぞ」

「……まだ、私だけなんだ」


 あれから、女の子とは恋仲に発展したことはない。

 それを聞いた雪菜は顔こそ普通を装っているが、声のトーンが明らかに機嫌の良さそうな高めになったのを俺は見逃さない。

 住む場所を提供して貰っておきながら、雪菜に酷いことを言うのは気が引ける。

 だがしかし、さすがの俺も勘違いされては困る。


「ま、大学でいい人を見つけるさ」

「だよね」

「あわよくば胸がデカくて可愛い彼女をな」

「……そう」


 表情には出さないものの気分が落ち込んだのか、明らかに雪菜の声のトーンが低くなるし、俺が胸がデカくて……と言ったのを真に受けているのか、雪菜はチラチラと2年前から大きくなっていない自分の胸を見ている。

 そんな彼女に対し、俺は苦笑いしか出ない。


 俺への未練を拗らせすぎだろ……と。


 思った以上に相手しにくいなぁとか思いながら、手持ち無沙汰をどうにかするために俺はポケットからスマホを取り出した。

 通信料金プランは安めなのを選んでいることもあり、使い過ぎて通信制限にならないように気を付けないとな。

 ふと、俺は部屋の主である雪菜に聞いた。


「そういや、Wi-Fiとか契約するのか?」

「するよ。というか、この部屋は一応ネットが無料なはず……。たしか……」

 

 雪菜はカバンから入居案内の冊子を取り出した。

 そして、確認を終えると俺にネットについての案内のページを見せてくれた。


「Wi-Fiの設備自体はアパートにあるから、パスワードを入力すれば使えて……。で、有線の場合はそのまま刺せばいける……っぽいな」

「回線速度が遅くないといいんだけどね……。もし、ダメそうなら個別で契約しなきゃいけないし」

「そうなったらお金が大変だな」


 お金の話になったときだ。

 膝を抱えて座っている雪菜が、もどかしそうにフローリングを指でグルグルとなぞりながら、俺の方を見ずに聞いてくる。


「節約のためにご飯は自炊するつもりだけどさ、晴斗の分も作る?」

「……いや、それはちょっと」

「別に気にしなくていいよ。どうせ、一人分と二人分作るのはそんなに手間は変わらないだろうし」

「あー……」


 明らかに俺に好かれようとアピールしてくる雪菜にどう対応したものかと悩む。

 素直に好意を受け取り続け、雪菜に復縁の可能性を感じさせたくはない。

 よし、ここはハッキリと断ろう。

 そう思ったのだが、雪菜は強引に押し切ってきた。



「晴斗に横でコンビニ弁当とか食べられると私も楽したいってなりそう。だから……、私と一緒のモノを食べて貰えると助かる」



 俺は居候の身である。

 納得できるようないい分をされたこともあり、折れざるを得なかった。

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