第11話破局
――雪菜と恋人になるのは確実だと思っていた。
だけど、待ち受けていた現実は違った。
雪菜はどこかスッキリとした顔で俺に告げる。
『やっぱり、晴斗のこと好きじゃなかった』
理解が追い付かない。
散々、思わせぶりな雪菜に最後の最後ではしごを外されたのだ。
何度か聞き返しても、雪菜の答えは変わらなかった。
「ほ、本当に俺のことが好きじゃないのか?」
「好きではあるよ。ただ、恋愛感情じゃなかったみたい」
「じゃあ、なんで俺と恋人みたいなことを……」
「……まあ、そういうことをしたくなるでしょ。晴斗だって、別に彼女じゃない人と手を繋いだりあれやこれやしたい! なんて思うことあるんじゃない?」
確かに雪菜の言う通り、彼女でも何でもない相手と恋人がするようなことをしたいと思う瞬間はあるときにはある。
だけど、それはあくまで冗談なようなものだ。
別に好きじゃなくても、一肌が恋しければ、軽い気持ちで男とイチャイチャとして遊んだりしても楽しければいいじゃないか。
そんな口ぶりの雪菜に俺は改めて聞いた。
「雪菜にとって俺は遊び相手に最適ってか?」
普通に晴斗のことが好きだよと言って欲しい。
俺のことが好きじゃなかったというのは、冗談であってくれ。
行為をしていた際に感じていたうだるような熱が冷めはじめ、肌寒くなってきた俺は雪菜の返事を待つ。
そして、雪菜は俺に落ちつた顔で言い放つ。
「本当に好きな人と出会えたらいいんだけどね。そう簡単には見つからないし、それまでは晴斗で我慢しようかなって」
俺の中で燻っていた雪菜への想いが冷めていく。
雪菜にとって、俺は特別な存在じゃなくて、遊びには最適な存在だと思われているのがしんどくて胸がキュッと苦しくなる。
俺は雪菜のことが好きで、恋人になりたかった。
だけど、雪菜は恋人にはなってくれないという真実が俺を苦しめる。
「それもそうか。俺なんてお前からしてみたら大したことない存在だもんな」
でも、この今感じている辛さは雪菜にみせたくない。
雪菜に俺は馬鹿ですと自己紹介するようなものなのだから。
俺は余裕そうな雰囲気で雪菜に接した。
そして、雪菜はそんな俺をさらに苦しめてくるようなことをしてくる。
「まだ、おばさん帰ってこないんでしょ?」
もう一度しようと雪菜が俺のアレに手を伸ばす。
好きだった人に好きじゃないと言われて俺の心は荒んでいる。
今は雪菜と深く繋がれるような気分じゃないので、断ろうと思ったが……。
でも、ここで雪菜から逃げたら、俺が雪菜ことがそれなりに好きでフラれたことにショックを受けているのがバレる。
人に弱い所を見せたくないと思うのは普通だよな?
「……じゃあ、するか」
俺は作り笑いを浮かべながら雪菜の誘いに応じた。
※
クリスマス以来、どのように雪菜と付き合っていけばいいか分からなくなってしまった。
俺から雪菜に近づく回数は減りに減ったのだが……。
そんな俺なんてお構いなしに雪菜は俺に近づいてくる。
部活が休みなのか、朝っぱらから雪菜は俺の部屋にやって来た。
「最近元気ないね」
お前のせいだ。と言いたくなるも、俺は言えなかった。
たとえ、雪菜が俺のことを好きじゃなかったとしても、まだ好きになってくれる可能性は残っている。
ゆえに、俺はフラれてショックだったことをひた隠す。
雪菜は遊び相手を求めているわけで、本気の相手としての役割を俺には求めていない。
きっと、俺が本気だというのを雪菜が知れば知るほど、雪菜は俺が遊び相手に向いていないと思い俺から離れていくのだから。
「まあ、色々とあってな。で、今日は何の用で俺の部屋に?」
「普通に遊びに来ちゃわるい?」
「……別にいいけどさ」
「それにしても、元気なさそうだね」
心配されて嬉しい反面、辛くもある。
こんなにも優しくしてくれているのに、雪菜は俺を好きと思っていないという事実が俺を苦しめる。
「……ところで元旦って暇?」
「うちは初詣はいつも人混みを避けて2日に行ってるから暇だな」
「せっかくだし、一緒に行く?」
可愛げのある顔で雪菜に初詣に誘われる。
今は本当に好きな人はいないけど、初詣に誰かと一緒に行きはしたい。
だから、しょうがなく偽の恋人のようなお前と行ってやると言わんばかりだ。
都合のいい関係を俺に求めてくる雪菜にムカつきが止まらなくなる。
もう、いいや。
雪菜のことはきっぱりと諦めよう。
可能性は残っているかもしれないと、未練がましく振舞っていた。
だけど、もう何か疲れた。
「なあ、雪菜。お前って、俺のことが好きじゃないんだよな?」
俺は雪菜の方をハッキリと見て告げた。
すると、雪菜は呆れた顔で俺に言う。
「いや、嘘だから。普通に晴斗のこと好きだけど?」
そうだよな。
俺のことなんて、好きじゃないよな。
って、え?
「今、何て言った?」
「いや、好きだけどって」
「雪菜にとって俺は遊び相手なんじゃ……」
「なわけないでしょ。何、まさかやっぱり、晴斗のこと好きじゃなかったって、言われたのを真に受けてたの?」
「……悪いか?」
「いや、普通に嘘だって気が付くでしょ」
私は悪くないと振舞う雪菜。
そんな彼女に対して、怒りの感情がとめどなく溢れてくる。
「……帰ってくれ」
「あー……。あれ、ほんとごめん」
「なんで、雪菜のことが好きとか思っちゃったんだろうな……」
「……晴斗?」
雪菜は軽い気持ちで俺に嘘を言ったつもりなんだろうけど、俺にとって雪菜の嘘は全然笑えなかった。
こんなことも許せないような、ちっちゃな男と思われてもいい。
俺は目の前できょとんとしている雪菜に告げた。
「もう、俺に近づかないでくれ」
これ以上、雪菜に振り回されて笑われるのはごめんだ。
俺はちょっと前まで好きだった女の子を突き放した。
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