第10話嘘つきな幼馴染

 チキンを食べた終えた後、俺は顔を油でギトギトにされた恨みを晴らすためにも、雪菜の頬にショートケーキの生クリームをたっぷりと着けてやろうとフォークを手にしようとした。

 しかし、雪菜は俺が取ろうとしたフォークをひょいと持っていってしまう。


「頬にクリームを着けられるのは嫌だからね」

「フォークを奪われた俺はどうやってケーキを食べればいいんだ?」

「手で豪快に食べれば?」

「まあ、そう言う人もいるけどさぁ……」


 俺にそうしろというのか? と不満をぶつけていたときであった。

 雪菜がフォークを使ってケーキを一口分だけ切り分けてフォークに刺した。

 そして、それを俺の口元へ向ける。


「はい、どうぞ」


 チキンを食べさせてくれる時の意地悪な雪菜はいなかった。

 俺はパクリと雪菜が差し出してくるフォークに刺さったケーキを頬張る。

 そんなにお高くないこともあり、クリームの量は少なくていちごも小っちゃいのだが、それでもケーキはケーキだ。

 普通に美味しくて幸せな気分になれた。

 ケーキを食べながら俺は雪菜に聞く。


「今日はケーキを食べ終わったら帰るのか?」


 もう十分に一緒の時間を過ごした気がする。

 そろそろ今日はお開きでいいのかもしれないと思って聞いてみたのだが、雪菜は窓の外を見てから俺に言った。


「まだ帰らないよ。別に家に帰ってもすることないし」

「俺の部屋ってお前の第二の部屋みたいな扱いだもんな……」

「飲み物もお菓子もあるし、漫画やパソコンも使い放題だからね。あと、何よりも夏は涼しくて冬は温かいのがデカい」

「ソーラパネルのある家だし、電気の利用に関しては大目に見てくれてるからな」

「そ、私の家なんてずっと暖房や冷房付けてたら、ちょっとは我慢しなさいって消されちゃうからね」


 私の家にもソーラパネルがあればいいのに。

 そんな顔で雪菜は肩をすくめた。

 そして、何を思ったか雪菜がとんでもない事を言いだす。


「晴斗の彼女なんだし、この家に住もうかな」

「どんだけ自分の家に不満があるんだよ」

「夏は暑くて冬は寒いのがほんと無理。あと、おちび共がうざいのがね……。晴斗に貰った化粧品もあいつらが『お姉ちゃんが何か高そうなコスメ持ってニヤニヤしてる!』って大きな声でお母さんに報告しにいったせいだし」


 俺は一人っ子なのだが、雪菜には双子の弟と妹が居る。

 雪菜とは少し年が離れていて、まだ小学1年生なので暴れ具合も中々にえぐい。

 たまに俺も構ってあげるのだが、マジで遊び終わった後はヘロヘロにさせられる。

 そりゃあ、快適で静かな俺の家にも住みたくもなるよな。


「ま、ちび共が本当にうるさいときは遠慮なく俺の部屋に避難していいからな」

「言われなくてもそうするし、なんならもうしてるけどね」

「てか、あれだな。俺が雪菜にクリスマスプレゼントをあげたのって、あいつらにバレてんのか……」


 今度、おちび共あったとき、『僕たちにもクリスマスプレゼント買って!』と、ねだられるのが容易に想像できてしまった。

 今度会ったときが怖くて苦笑いしか出ない。

 あいつら、雪菜の兄妹なだけあって遠慮しないところはそっくりだからな……。

 まあ、雪菜と違って愛嬌たっぷりなところは似てないけどさ。


「さてと、食べ終わったし片付けよっか」

「だな。あと、匂いを消すために窓も開けるぞ……」


 チキンの匂いが部屋に籠っている。

 染みつかないようにと換気をするために俺は部屋の窓を開けた。


   ※


 後片付けを済ませた後、雪菜はというと俺のベッドの上で寝そべりながら、スマホを弄る。

 一応、雪菜は俺の彼女なわけで……。

 なんかちょっと気になってしまう。

 無防備な姿を、彼氏の俺に晒し続けているところが。

 少しでも早くじれったい関係を抜け出したい俺は雪菜に問いかける。


「俺のことが好きかどうかハッキリしたか?」

「……せっかちな男は嫌われるよ」

「そうはいうけど、もう生殺し状態で気が気じゃないんだからな!」

「だろうね」

「ったく、ほんとふざけた幼馴染め……。てか、彼女っぽいことをするって言っても、もうあらかた全部しちゃったんじゃね?」


 俺に彼女っぽいことをする際、嫌なのかそうでないのか、それをもってして雪菜は俺のことが本当に好きなのかを確かめようとしている。

 だがしかし、もうほぼほぼ彼女っぽいことはされ尽くした気がする。


 まあ、彼女が彼氏にするようなことは残っているのだが……。


 ただそれはでもなければ絶対にしたくないようなことなので、今はまだできないだろう。

 これ以上、雪菜は何をもって俺への好意を確かめるのだろうかと呆れていたときだった。

 ベッドに寝転んでいる雪菜が、もどかしそうに髪の毛の穂先を弄りながら俺にとんでもない事を言いだした。


「服、脱がせてよ」


 思いがけない一言に俺はぽかんと大きな口を開けて固まってしまう。

 そんな俺にぶつぶつと雪菜は言う。


「晴斗に脱がされても嫌じゃないなら、それって好きだから……ってことでしょ?」

「お、おう」

「だからさ、私の服……。脱がしてよ」


 切なげな表情で雪菜が俺を見つめてくる。

 俺は覚悟を決めて雪菜に聞く。


「ど、どこから脱がせば?」

「……好きなとこでいいよ」


 俺は雪菜の体を上から下までじっくりと見てしまう。

 上はゆったりめのニットセーター-で下はワイドパンツ。

 よし、決めた。上を脱がせよう。

 俺は恐る恐る雪菜が着ているニットセーターに手を伸ばした。


「後で文句言うなよ」

「……わかってる」


 雪菜は伏し目がちになりながらも、脱がしやすいようにと手を上に上げた。

 ベッドに座っている雪菜のニットセーターを俺は持ち上げて脱がす。

 どんどん雪菜の透き通った白い肌が露わになっていく。

 あと少しで下着が見えそうなときだ。

 雪菜は上目遣いで俺を見ながらか細い声で告げる。


「……やっぱ無理かも」


 でも、そう言った雪菜の表情は嫌と言うよりも恥ずかしいというモノに近かった。

 明らかに嫌悪といった感情は持ち合わせていなさそうなこともあってか、俺は無理と言われたのに手を止めることができなかった。


 雪菜が着ているニットセーターをさらに上に持ち上げる。


 そして、小ぶりながらもしっかりと実っている雪菜の胸を彩るピンクの下着が、俺の目の前に現れた。

 胸のところまでニットセーターをあげられた雪菜の顔は真っ赤だ。


「……まだ俺のことを好きかどうかハッキリしないのか?」


 俺の問いかけに雪菜はまだ逃げるようだ。


「……してない」

「さすがに無理あるぞ。こんなことされてるのに、俺のことが好きじゃないとか」

「べ、別に、恋人にならなくてもさ、こういうことをする人はするでしょ?」

「確かにそういう人たちもいるけどさ……」


 往生際が悪い雪菜。

 そんな彼女は俺にとんでもない事を言いだした。



「だから、好きとか恋人とかそういうの抜きで……してみない?」



 思春期真っ盛りな俺は欲望に正直である。

 たとえ、恋人じゃなくとも大人がする行為に興味がないわけじゃない。

 気が付けば、切なげな顔でこっちを見てくる雪菜を押し倒していた。


「……初めてだから。優しくしてよ?」


 俺は不安そうな顔つきでこっちを見てくる雪菜を襲った。

 


















雪菜Side



 勢いとノリで幼馴染の男の子と関係を持ってしまった。

 そして、さすがの私もここまでしておいて結論を出せないなんてことはない。

 私はきっと晴斗のことが――



 好き。



 それは紛れもなく真実だ。

 きっと、今までは距離が近すぎて晴斗のことが好きだと認識出来てないかっただけで、ずっと前から晴斗のことが前から好きだったんだろう。

 私は覚悟を決めて、晴斗に自分の気持ちを伝えようとしたのだが……。

 こんなことをさせてくれるんだし、雪菜は俺のことが間違いなく好きなんだろうな~と確信しきっている晴斗を見ていると、なんかイラっとしてしまった。


 私が彼女になってくれるんだろうと安心しきっている晴斗。

 そんな彼を少しだけ振り回してやりたくなってしまった。

 行為中にゆっくりしてって言ったのに、激しくしてきた恨みもあるしね……。

 で、俺のことは好きなんだよな? とニヤニヤとした顔をしている晴斗に言う。




「やっぱり、晴斗のこと好きじゃなかった」




 私は淡々とした声で言い放ってやった。

 すると、晴斗はポカンとした顔で固まってしまう。

 その姿が滑稽で私は笑いそうになるが、必死に耐えた。


「欲求不満なせいで、晴斗のことが気になってしょうがなかったみたい」


 晴斗は頬をひくつかせながら、私に恐る恐る聞いて来た。


「お、俺のこと好きじゃないの?」

「……ま、嫌いじゃないよ。エッチなことはできるんだしさ」

「で、その、こ、今後はどうするおつもりで?」


 焦りに焦って冷汗をかいている晴斗が面白くてしょうがない。

 今にも吹き出して笑ってしまいそうだが、私は必死に耐えながら言う。


「単にこういうことをするような友達でいいでしょ」


 私はさっきまで自分に入っていたアレをいやらしく弄りながら言った。

 ――このときの私は思ってもいなかった。

 この軽はずみなウソと行動が晴斗との関係を拗れさせてしまうことを。

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