第9話クリスマスパーティー
俺と雪菜はショッピングモールを堪能した後、チキンとケーキを買って俺の部屋へと場所を移した。
俺の部屋にある低めの机に、フライドチキン、イチゴのショートケーキ、飲み物を並べ、飲み物を手にし俺は雪菜と乾杯しようとする。
「乾杯」
「いや、こういう時はメリークリスマスじゃない?」
「じゃあ、メリークリスマス」
「ん、メリークリスマス」
俺達はコツンとコップを鳴らしてクリスマスを祝う。
コップの中身を少し飲んだ後、俺はフライドチキンを頬張る。
わがままな雪菜のために、レンジではなくてオーブントースターで温めていることもあり、外はサクッとしていた。
うん、いつ食べても美味しい。
頬張った肉を咀嚼し終え、口の中が綺麗になってから俺は雪菜に聞く。
「こうして、チキンとケーキを食べるのってクリスマスデートっぽいな」
「……まあね」
「まさかお前とクリスマスを祝うことになるとはな……。で、俺とのプチクリスマスパーティーはどうだ?」
「悪くはないんじゃない。欲を言うと、もうちょっと何か面白味が欲しいけど」
ただチキンとケーキを食べるだけ。
それだけではツマラナイと雪菜に言われてしまった。
「と言われても……。クリスマスのお楽しみであるプレゼントも渡しちゃってるんだよなぁ……」
「てか、晴斗は、結局プレゼントはいらなかったの?」
「映画のチケット代にチキンとケーキのお金を出して貰ったし十分だろ」
「……ま、それならいいけど。で、クリスマスパーティーを盛り上げる何かは思いついた?」
再び、この場を盛り上げるためにはどうすればいいのかを考える。
ふと、俺の頭に良さげなアイデアが浮かんだ。
「食べさせあいっこってのはどうだ?」
「まあ、悪くないかもね」
「じゃあ、そういうことなら……」
俺はフライドチキンを雪菜の口元へ運んだ。
すると、雪菜はなんで私が食べさせられなくちゃいけないの……と少し腑に落ちてなさそうな感じを漂わせながらも、恐る恐る俺の手にあるチキンを齧った。
何回か咀嚼し味わった後、雪菜はチキンを飲み込む。
そして、何とも言えない顔で言う。
「……意外と悪くないのがムカつく」
「齧る前はちょっと嫌そうだったのにな」
「私が恋人らしいことを好きな人としたいって思っちゃいけないわけ?」
「お、おう」
「んっ……!」
今度はお前が食べろと雪菜が俺の頬にぐりぐりと脂ぎったチキンを押し付けてきた。油分が頬に伝わっていく感触が何とも不快である。
「やめろって。マジでやめてくれって!」
「うっさい」
「ちょっ、おまっ、人の顔にまんべんなくフライドチキンの油を塗りたくろうとするなって……」
雪菜は俺にチキンを食べさせる気はないようで、ひたすらに俺の顔にチキンの油を塗りつけてきた。
無表情でやって来てはいるものの、内心では凄く楽しいと思っていそうな感じで。
「そっちがその気なら……。後で覚えておけよ!」
と言って、俺は何とか雪菜が握っているフライドチキンを口で捉えて齧りつく。
女の子から食べさせてもらう食事は嬉しいものだ。
と言いたかったが、散々顔にチキンを塗りたくられるという嫌がらせを受けていたこともあり、大してドキドキとはしなかった。
まあ、ドキドキはしなかったが――
悪い気分じゃない。
「覚えとけって何する気?」
「ケーキ食べる時、お前の頬にクリームをたっぷりとくっつけてやる」
「ふっ、やれるもんならやってみれば?」
「……絶対にくっつけてやるからな!」
「はいはい」
雪菜は余裕をかましながら、手に持っていたチキンを齧る。
そんな彼女を見て俺は思ってしまった。
こういう風に楽しく食事ができるのは雪菜が相手だからなんだろうなと。
と、しみじみとしていたら雪菜が珍しく笑った。
「なんか面白いことでもあったか?」
俺が聞くと、雪菜は笑いながら俺に言う。
「晴斗の顔がてかてかしてるのが面白くてね」
「……お前がチキンを塗りたくったせいだからな?」
「ごめん。てか、その顔で怒らないでよ。なんか、面白くて笑っちゃうから」
「ったく。やっぱり、ケーキのクリームじゃなくて、お前の顔にもチキンを押し付けてやろうか?」
チキンを手に雪菜に迫る。
そしたら、雪菜は心底嫌そうな顔で俺の手を押しのけた。
「化粧してるから本当に無理」
「別にいいだろ。お前のすっぴんなんて何度も見てるんだしさ」
「……まあ、そうだけど。なんか、好きかもしれない人に化粧してないとこ見られるの嫌だからね」
「もう、そう思える時点で俺のこと好きだろ」
「べ、別にそうじゃないかもでしょ?」
お前は平成のラブコメマンガに出てくるヘタレ主人公か?
などと思いながらも、からかったら拗ねそうなので俺は言うのを堪えた。
そして、てかてかした顔をどうにかするために部屋にあるティッシュを取る。
「顔にまんべんなく塗りやがって……」
拭いても拭いてもティッシュはチキンの油を吸って色が変わる。
もう顔を洗ってきた方が早いかもなと思っていた時であった。
雪菜が俺に聞く。
「晴斗は生意気な彼女は嫌い?」
「嫌いじゃないぞ」
「そ、なら良かった。ほら、拭いてあげるから顔出して」
拭いてくれるというので雪菜の方に顔を近づける。
どうやら、雪菜はウェットティッシュを携帯していたようだ。
少しツンとアルコールの匂いが香るウェットティッシュで俺の顔を拭いてくれる。
「彼女っぽいな。ちょっと前の雪菜なら、自分で拭けって完全に俺を放置するような奴だったのに……」
「一応彼女ですから」
「で、まだ本当に俺が好きかどうかはハッキリとしてないのか?」
「してない」
「こういう時に限って即答なんだよなぁ……」
ほんと、臆病なんだか、勇敢なんだか、よくわからない奴だ。
これで、マジで俺のことをやっぱり好きじゃなかったとか言って捨てたら、一生恨むからな?
なんてことを考えていると、雪菜が悪ふざけで俺の鼻にウェットティッシュ越しに指を突っ込んできた。
「おい、どこまで綺麗にしようとしてるんだ?」
俺は鼻に指を突っ込まれていることもあり、鼻声気味な感じで指を突っ込んできた雪菜に文句を言った。
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