第8話フードコート

 ショッピングモール内にあるフードコートで俺と雪菜は昼食を取ることにした。

 フードコート以外にも独立した店舗型の飲食店があるのだが、雪菜がここでいいというんだから仕方がない。


「で、雪菜は何を食べるんだ?」

「ぶっかけうどん」

「ほんと、雪菜ってよくうどんを食べるよな」

「安いからね。バイトしてる晴斗と違って、私はそんなに裕福じゃないので」

「あー、奢ろうか?」

「そんなポンポン奢らなくていいから。晴斗に彼女なんだから……って色々とねだっておいてあれだけどさ、12月に入って、晴斗はどんだけ私にお金を使ったの?」


 彼女の振りへの報酬が5000円で、練習着としてあげたバスパンとTシャツが2500円。そして、クリスマスプレゼントのコフレが1万2000円。

 高校生にしてはヤリ過ぎ感が凄い。


「だな。でも、本当にうどんでいいのか?」

「……まあ、安いのもあるけど。普通に麺類の中じゃ一番好きだからね」

 安さだけじゃなくて、普通にうどんが好きだから食べている。

 それを少し気恥ずかしそうに言う雪菜に俺はドキッとした。


「俺もうどんにするか」

「珍し。いつもは食べないのに」

「うどんが好きな雪菜を見てたら食べたくなってな」

「……はいはい」


 と言った感じで、俺は雪菜とうどんを食べるために列に並んだ。

 お昼時のピークが終わっていることもあり、そこまで混んでおらずすぐに提供して貰えるとおもったのだが……。

 タイミングが悪かったらしく、茹で上がりまで少し時間が掛かるみたいだ。


「にしても、クリスマスに彼女とうどんか……」

「お金のない高校生なんだから別にいいでしょ」

「雪菜に至ってはバイトしてないもんな」

「そ、私は晴斗と違って部活してますから」


 部活してるからバイトはできない。

 雪菜はそれを少し偉そうに言った。

 まるで、部活に入らないで放課後はバイトに明け暮れるお前は、陰キャみたいだと言わんばかりに。


「部活してるからって偉そうに……」

「晴斗は部活をやろうとは思わなかったの?」

「お前も知っての通り、中学時代があまりにもアレだったからな……」

「ま、そりゃあ入りたくなくなるか」


 中学で俺はサッカー部に入っていた。

 まあまあ、それなりに練習も頑張っていたのだが……。

 大きな夏の大会直前で素行の悪い奴らが万引きをして補導された。

 その巻き添えを食らってサッカー部は謹慎処分を食らってしまい、大会に出られなくなったのだ。


「わりと頑張ってたのに大会に出られなかったのは本当に悔しかった。だからまあ、そんな思いは二度としたくないから部活には入んなかった」

「っていうけど、別に文化系の部活に入ればよかったんじゃない?」

「そう思って文化系の部活に何個か体験入部してみたけど、イマイチしっくりくる部活と出会えなくてな」


 などと、ちょっとした昔話をしているときだった。

 俺達の頼んだうどんが茹で上がったようだ。


「お待たせしました。かけうどん並です!」


 店員さんは俺と雪菜が持っていたトレイにかけうどんを乗せるのであった。


   ※


 クリスマスにフードコートでうどんを食べる。

 まあ、うん。何とも風情がないなと思いながらも、雪菜と一緒に食べるうどんは美味しかったので良しとしよう。

 お腹も満たしたし、次はどうしようかと悩んでいた時だった。

 雪菜が俺の方をじ~っと見てくる。


「どうかしたか?」

「やっぱりデートでうどんはなかったかもなって」

「今さら過ぎるだろ。まあ、あれだ。そんなに気になるのなら、クリスマスだし帰りにケンタッ〇キーでチキンでも買って家で食うか?」

「……まあ、いいんじゃない?」


 俺と彼氏彼女がクリスマスにするようなことをするのが、ちょっと抵抗感が少しあるのか雪菜の顔は険しくなった。


「そんなに俺とチキンを食うのが嫌か?」

「晴斗と恋人っぽいことをするのが不思議な感じがしてね……」

「嫌ならいいぞ。別に俺のことが本当に好きかどうかハッキリしてないんだし」

「……別に嫌とは言ってないし」

「じゃあ、帰りにチキンを……。いや、ケーキも買ってくか。せっかくのクリスマスなんだしさ」


 クリスマスデートの食事がうどん。

 それを帳消しにするための食事をしようと画策してみる。

 そしたら、雪菜が珍しく俺を褒めてきた。


「晴斗のイベントごとはしっかりと楽しもうとするところ嫌いじゃないよ」


 皮肉無しで褒められるのは久しぶりだ。

 そのせいか知らないが、なんというかちょっと背中がむず痒くなってきた。


「……俺を素直に褒めるな。嬉しくなっちゃって、お前のことがもっと好きになっちゃいそうになるだろうが!」

「そっちこそ嬉しそうな反応やめて。なんか、こっちも恥ずかしくなってくる」

「なんでお前が恥ずかしくなるんだよ……」


 互いにもじもじとしあう。

 そんな中、雪菜が俺の目をちらちらと見ながら聞いてくる。


「もっと褒めてあげよっか」

「……なんで?」

「なんか、褒められて満更でもない晴斗が可愛く見えてきた。もっと褒めてあげるのも悪くないかもって……」

「お前、やっぱり俺のこと好きなんじゃね?」

 

 つい、咄嗟にツッコミを入れてしまった。

 すると、雪菜はあたふたとしながら俺にボソッと言う。


「かもしれないけどさ……」

「いやいや、絶対に好きだって」

「ま、まだそうと決まってないし」

「雪菜って意外とヘタレだよな……」


 などと俺が少しからかうように言うと、雪菜は顔を真っ赤にして立ち上がった。


「……そろそろ行くよ」

「ん、そうだな。で、次はどこに行きたい? おっと、ヘタレさんに聞いたら、一生決まらないか」

「あのさ、人のこと馬鹿にして楽しい?」


 煽りに煽り過ぎた結果、雪菜はちょっと怒った。

 そんな彼女を見て俺は笑ってしまう。

 火に油を注がれて雪菜はさらに機嫌を悪くする。


「やっぱ晴斗のこと好きじゃない。帰る」


 雪菜は俺を置き去りにして場を離れようとする。

 俺はそんな彼女を追いかける。


「待ってって」

「……」

「ちょっ、ガチで俺のことを無視して帰るのか?」

「……」


 雪菜は相当にご立腹らしい。

 やらかしたなぁとか思いながら、俺は雪菜の手を握った。


「何? もう、帰るんだけど? てか、恋人ごっこもおしまいね」


 ちょっとした些細なやり取りで関係が終わるのは俺も本意じゃない。

 俺は雪菜に頭を下げて謝る。

 すると、雪菜は俺の頭を軽めに叩いてきた。


「これで許してあげる」

「……はい。ほんと、すみませんでした」

「なんか、わかったかも。晴斗のことが好きかどうか決め切れない理由が」

「え?」


 雪菜は納得した顔つきで俺に話し出した。


「こういう風に馬鹿にしてくるところが嫌なのかも。好きだけど、付き合ったら、こういう風に晴斗は私を馬鹿にしてくるんだろうな~ってのが、わりとストレスなのかもしれない」

「なるほど。『あの人は基本はいい人なんだけど、ちょっとアレなところがあるのよね』~的な感じで欠点がいい所を台無しにしてるって感じか?」


 思いがけない形で雪菜の気持ちがハッキリとしない要因が判明したようだ。

 雪菜は真剣な顔で俺に聞く。


「私と恋人になったら、私のことを変にからかわない?」

「これから気を付けます……」

「……そっか」

「で、その……。俺を好きかどうかはハッキリとした……のか?」


 恐る恐る聞いた。

 だがしかし、やっぱり俺の幼馴染はヘタレなようだ。


「まだわかんない」


 やっぱりヘタレだろ。

 俺はそうからかいたくなった。

 しかし、雪菜は俺に馬鹿にされるのは嫌だと言ってる。

 雪菜を傷つけないために、からかわないようにと俺はグッと堪えた。


 そして、それが俺に悟らせる。


 あ、うん。嫌がることをして傷つけたくないって思うってことは……。

 俺はもう雪菜のことをかなり異性として見ちゃってるんじゃないか? と。

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