第7話惚れすぎ注意
映画館のスクリーンにはエンドロールが映し出されている。
直前の出来事のせいで内容をほとんど覚えていない……。
なんてことはなく、意外と普通に映画を楽しめてしまった。
とはいえ、映画終わった。
それすなわち、横に座っている雪菜と映画が始まったせいで、中途半端になってしまったあの話に蹴りをつける時間がやって来たわけだ。
エンドロールが終わり、場内が明るくなったときである。
どこか覚悟を決めた顔つきの雪菜が俺に言う。
「歩きながら話そっか……」
映画直前の会話をなぁなぁに終わらせる気はないようだ。
俺達は映画館のある大きなショッピングモール内を行き先も決めず、歩きながら話をし始めた。面と向かってまじまじと話すのは気まずくて最悪な空気になりそうなのでちょうどいい。
俺は一緒に歩いている雪菜に恐る恐る聞いた。
「俺のことが……好きなのか?」
「……わかんない」
ボソッと雪菜が俺に告げる。
意地悪で俺に曖昧な答えを返したのではなく、本当に分からなさそうだった。
「わかんないか……」
「クリスマスプレゼント貰ったのさ、凄く嬉しかった。で、さ、まあ、あんな風にされたら嫌でも晴斗に男を感じて……。だから、えーっと……」
「ゆっくりでいいぞ」
「……ふぅ。で、晴斗も悪くないかなって。だから、確かめようと思ったわけ」
今日の雪菜のおかしさの理由がハッキリと見えてきた。
多少無理筋ながらも、俺に彼女っぽいことをしようという雪菜の姿勢。
それは――
俺のことが好きかどうかを確かめるためだった。
まあ、俺が優しくしてくれるから、もうちょっと冷たい態度を取るんじゃなくて優しくしてあげようかなって、気持ちもそれなりに含まれているだろうけどな。
「俺に彼女っぽいことをして、俺のことが本当に好きなのか確かめたかったのか」
「好きじゃなかったら……。晴斗に彼女っぽいことなんてできないでしょ?」
「実際、俺に彼女っぽいことをしてみてどうなんだ?」
「……ますます晴斗とどうなりたいのかが、わからなくなってきた」
雪菜は複雑そうな顔つきで俺に言った。
そんな彼女に対し、ひとまず俺が取るべき行動は……。
「なんか変な事してごめん。クリスマスプレゼントは練習着だけにしておけばよかったのにな」
俺の軽率な行動のせいで乱された雪菜への謝罪だ。
「別に晴斗は悪くないでしょ。私が色々と考えこんじゃって、意味わかんなくなっちゃっただけなんだから」
「……いや、それでも悪かったな」
「というかさ、晴斗が私にあのコスメを渡したのって、私のことが好きとかそう言う感情は一切含まれてなかったの?」
「正直ない。ほんと、軽い気持ちで渡しただけだ」
ありのままを告げると、雪菜はムスッとした顔で俺の脇腹を少しつねってきた。
「あっそ。こっちは、晴斗は私のことが本当に好きなのかも? って悩まされたんですけどね」
「悪かったって……。でも、本当にただ単に彼女の振りをして貰ったお礼だし、クリスマスプレゼントが練習着じゃ味気ないって思っただけなんだからしょうがないだろうが」
「……はいはい」
「で、あれだ。雪菜的には今後の俺との関係はどう維持するおつもりで?」
今後、俺達はどう付き合っていくかのを聞いた。
そしたら、雪菜は伏し目がちで俺に言う。
「……晴斗はどうしたいの?」
唐突に雪菜に決断を迫られる。
仲良しな幼馴染のままで居るのか、本当に恋人になるのか。
正直な所、俺も雪菜のことが異性として、女の子として好きなのかと問われたら、微妙としか言いようがないはずだった。
のは、ちょっと前までだ。
雪菜はしおらしく謝られたり、俺の手をぎこちなく握られたりした。
男とは単純でちょろい生き物だ。
「まあ、雪菜と恋人になるのも悪くないかもなって。正直、告白されたら普通にOKすると思う」
アイツなんて異性としては無理だと思っていたはずなのに、簡単に女の子として異性として雪菜に惹かれてしまった。
「……じゃあ、本当に付き合ってみる?」
俺は苦笑いしか出なくなる。
確かに、雪菜のことは悪くないかもな~って思ってしまったし、恋人にもなれそうだと思った。
だがしかし、付き合ったとして上手くいかなかったときのリスクが怖い。
恋人として上手くいかなくて別れたら……。
もう、雪菜とは幼馴染として仲良くするのは難しくなるに違いない。
「雪菜は本当に俺のことが好きなのかハッキリしてないんだろ? だったらさ、ひとまず、気軽に別れられる偽の恋人関係を続けて俺に彼女っぽいことをし続けて、俺への気持ちをしっかりと確かめるってのはどうだ?」
雪菜は腑に落ちた様子を見せる。
そして、雪菜は俺にハッキリと言った。
「ま、それが一番丸いかもね」
無事に丸く収まった。
そう思ったときである。
雪菜は俺のことが本当に好きなのかを知ろうとしてか、俺の手を握ってきた。
「いきなり積極的だな」
「晴斗のことが好きなのかどうかで悩み続けるのは気持ち悪いしね」
「ちなみに好きってわかったらどうするんだ?」
「……普通に付き合えばいいんじゃない?」
「まあ、そうだな」
ん、待てよ?
なんか、しれっと良い感じにまとまったなと思ってたけどさ……。
仮に雪菜が俺のことを好きじゃなかったと判明したらどうなるんだ?
「ち、ちなみに、もし雪菜が俺と恋人っぽいことを色々していく内に『あ、やっぱないな。こいつ』ってなったら……。ど、どうなるんだ?」
「偽の恋人はおしまいで」
「今でさえ、割と雪菜と付き合うのありかもな~って思ってる俺が、本気で雪菜と付き合いたいって惚れこんじゃったとしても?」
「なんで好きでもない人と恋人にならないといけないわけ?」
俺に対する気持ちを確かめるために雪菜はこれから俺に色々としてくるだろう。
正直、俺はチョロい側の人間だ。
散々、雪菜のことは異性としてないなって思っていたのに、あっさりとありかもなと意見を変えてしまったくらいだ。
そして、今も俺の手をギュッと強く握ってくる雪菜のことを異性として、どんどん好きになり始めているわけで……。
「あの、俺に彼女っぽいことをしておいて……。やっぱ、こいつとはないな。って気持ちがハッキリしたら……。俺のことをあっさり捨てるなんてことはしないよな?」
雪菜は呆れた顔で俺に言う。
「普通に捨てるよ」
あ、うん。これ、選択肢を完全に間違えたかもしれない。
本気で俺が雪菜に惚れたとしても、全ては雪菜の選択次第である。
雪菜に惚れれば惚れるほど、雪菜が俺のことを好きじゃなかったと判明したときのダメージがでかくなる。
下手したら、一生立ち直れないくらいの深い傷を負わされるかもしれない。
「俺、お前のこと好きになり過ぎないように気を付ける」
雪菜が俺のことを異性として好きかどうか確かめてる間は、あまり雪菜に惚れこみ過ぎないようにしよう。
俺はそう心に誓った。
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