第6話探り合う二人
雪菜とショッピングモールにやってきた。
今日の雪菜はいつもよりデレ多めなこともあり、不覚にも可愛く見える瞬間が今までにないくらい多い。
このままだと、気が気じゃいられなくなりそうな気がした俺は、あまり話さなくても楽しめる場所へと雪菜を連れて行くことにした。
その場所とは――映画館である。
最低1時間以上は雪菜と話さなくても時間を潰せる場所だ。
ちょうど気になっていた映画で上映時間が迫っているものがある。
俺はそれを見ようと雪菜を誘った。
「映画は私の奢りでいいでしょ?」
クリスマスプレゼントとしてお高い化粧品をあげたということもあり、映画のお金は雪菜が出してくれるそうだ。
確かにいくら何でも彼女の振りをして貰ったお礼とはいえ、さすがにやり過ぎていた感じは
そう思って、俺は映画のチケット代を雪菜に支払って貰うことにした。
雪菜は俺に買ってくると言って、受付へ行く。
少し混んでいることもあり、時間がかかりそうだな……。
「飲み物とポップコーンでも買ってくるか」
チケットではなく、食べ物を販売しているレジへと向かう。
ポップコーン一つと飲み物を二つ買おうとしたら、店員さんにセットの方を勧められた。
「それぞれ単品でご注文いただくよりも、ペアセットの方がお値段が安くなりますが、ペアセットにしますか?」
「……あ、はい」
「ご注文を繰り返させていただきます。ポップコーンのペアセットがお一つ。お味は塩味、お飲み物がコーラとカフェラテのホットでお間違いないでしょうか?」
「大丈夫です。あと、カフェラテ用のガムシロップなんですけど……5つって貰っても大丈夫ですか?」
頼んだガムシロップの数は多めということもあり、俺は少し申し訳なさそうに店員さんに聞いた。
店員さんは別に大して嫌な顔をしないどころか、にこやかな顔で言う。
「ガムシロップ5つですね。もちろん大丈夫ですよ。かしこまりました。それでは、お会計の方が合計1650円でございます」
「これでお願いします。」
「1650円。ちょうど頂戴いたします。少々お待ちください」
お会計を済ませてちょっと経つとすぐに商品が俺の目の前に置かれた。
出された商品を手に持ち、雪菜が俺に気が付けるような場所で待つ。
数分後、チケットを買えた雪菜は俺の存在に気が付き、俺の方へと近づいてくる。
「私の分は頼んである?」
「もちろんあるぞ。ホットのカフェラテ。超甘党な雪菜が飲むから、もちろんガムシロップは5つでな」
「……私のこと良く分かってることで」
「そりゃあ、長年の付き合いがあるからな。俺ん家でコーヒー飲むときもドバドバ砂糖入れて飲んでるの見てるからな」
「キモ……」
雪菜に罵られて俺はホッとしてしまった。
そう、これだ。雪菜はこうなんだよ!
しおらしい雪菜なんて、雪菜じゃないと唸っていたら……。
「……別に本気で言ってるわけじゃないから」
本気に思わないでよ? と少し不安そうな顔で俺に言ってきた。
もうやめてくれ。
そんな可愛い所を俺に見せつけないでくれ。
マジで雪菜の顔を見れなくなっちゃうから……。
「……行くよ。上映時間まで後10分しかないし」
「あ、ああ……。そうだな」
俺達はポップコーンと飲み物を手にし、ここら辺の地域で一番大きなシアターの方へと向かうのであった。
※
シアター内に入り、どのあたりの席を買ったんだろうな~と思いながら、雪菜の後ろを歩いている。
前の方だろうか? それとも後ろの方か?
などと思っていた時だ。
雪菜が俺を案内した席はまさかの……
カップルシートだった。
「ほ、本当にこの席であってるのか?」
「なんか文句あるわけ?」
「いや、別に文句があるわけじゃ……」
俺は改めてカップルシートを見た。
周囲とは完全に区切られている。二人掛けの席だと言うのに、肘置きは右と左にそれぞれ一つ。よくどっちの席に座っている人が使うかで論争になりがちな真ん中にはついてない。
隣の席に座っている人と、身を寄せやすいような構造となっている。
映画の途中で手を握ったり、軽くつつき合ったりと恋人とイチャつくためにはうってつけな席だ。
俺は少しビビりながら席に座る。
そして、雪菜も俺の横に座った。
映画が始まる前ということもあり、シアター内で話をしても平気なはずだ。
俺は雪菜にカップルシートを選んだわけを恐る恐る聞いた。
「なんでこの席をチョイスしたんだ?」
「……この席しか空いてなかった」
「いや、結構周りは空いてるんですけど……」
シアター内はそんなに混んでおらず席は選び放題だ。
それなのに、雪菜がカップルシートを選んだという事実が俺の気持ちを揺さぶる。
雪菜は俺と恋人がするようにイチャイチャしたいのか? と。
すると、雪菜は恥ずかしそうに口元を手で覆い、やや下を向きながら俺に言った。
「……今日はデートなんでしょ?」
確かにデートと言って、今日はお出掛けしている。
雪菜はそれを律儀にも守ろうとしてくれたらしい。
いや、そうは言うけどさ……。
雪菜が俺とカップルシートに座っても別に平気という気持ちを持て合わせているという事実が俺をさらに惑わせる。
本当に雪菜は俺のことが好きなんじゃ……と。
俺は耐えきれずに雪菜に聞いてしまった。
「俺のことが好き……なのか?」
心臓がドクンドクンとうるさい。
手に汗を握りながら答えを待っていると、雪菜は俺の質問をそっくりそのまま返してきた。
「……そっちこそ、私のことが好きなの?」
「ど、どうしてそう思ったんだ?」
「クリスマスに安くもないコスメをプレゼントとしてくれるとか、明らかに好きな相手にすることでしょ……」
「あれはその……。別に雪菜が好きだからって渡したわけじゃ……」
互いにうだうだと言い淀んで、話が全く進展していかない。
そんなときだった。
シアター内に大きな音が鳴り響く。
「全米が泣いた! あの超感動作……。ついに、日本に上陸!!!!!」
上映前に挟まる映画の予告が始まってしまった。
周囲の人達は空気を読んで静かになっていく。
そして、俺達もそうならざるを得なかった。
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