第2話クリスマスプレゼント
クリスマスが近づき、世間は浮かれたムードに
特に彼女持ちの男が出す浮かれた空気感は
「彼女にあげるクリスマスプレゼントどうすっかな……」
「ああ、全くだぜ。プレゼントだけじゃなく、デートでもお金が掛かるしそこら辺も考えないとだからな……」
「だよな……」
仲間内で昼食を摂っていると、自虐風の自慢を決め込んでくる彼女持ちの男たち。
彼女が居ない側からすると、イラつきしかない。
え? お前も彼女がいるだろって?
いや、ほら俺の彼女は金で手に入れた偽物だから……。
俺は幼馴染に彼女の振りを頼んだのがバレないようにと、浮足立つ奴らと足並みを揃えるようなことを言う。
「そういや、お前らって、彼女へのプレゼントにどのくらいお金を掛けるつもりなんだ?」
偽の恋人である雪菜にプレゼントをくれと言われていることもあり、他の人がどうするのかを参考にしようと思って聞いてみた。
まず初めに、俺の質問に答えたのは清楚系の女の子と付き合っている吉野だ。
「俺は3000円~5000円行かないくらいでマフラーか手袋でもあげようかなって感じで考えてる所だ」
次に口を開いたのは、アニメや漫画が大好きであまり自分の容姿にお金は使わないタイプなのに、彼女は可愛いギャルだという高倉だ。
「僕は化粧品かな……。自分で買うにはちょっと手が出しにくい値段のモノをプレゼントしたら喜ぶかなって。もちろん、そんなに高すぎるものはあげられないけどね」
なるほどな。確かにそういうのもありか。
と、頷いていると吉野が俺に聞いて来た。
「で、聞いて来た張本人である晴斗よ。お前は何をプレゼントする気なんだ?」
「あー、どうすっかな……」
「おいおい、付き合い始めたばかりなんだろ? なら、しっかりとプレゼントを選ばなきゃ嫌われるぞ」
と言われても、別に雪菜は本当に好きな相手でもあるまいし、選ぶのが雑になってもしょうがないだろ?
なんて言える訳もなく、俺は苦笑いで吉野の言うことに頷いた。
「それもそうだな」
まあ、せっかくお金を使ってまでプレゼントをするんだ。
相手に喜んで貰えた方が嬉しいか。
恋愛感情こそないけど、幼馴染である雪菜は俺にとって親しい友人なのには違いないしな。
※
スポーツ用品店でのバイト終わり、バックヤードでエプロンを脱いでいるときだ。
物腰柔らかな40代の店長が申し訳なさそうに俺に話しかけてきた。
「急で悪いんだけど、24日ってバイトのシフトをお願いできないかな?」
「クリスマスイブはバイトが足りてたんじゃ……」
「あははは。24日の昼からシフトに入ってた櫻井くんが急に用事ができたらしくてね……」
「あー、デートですかね」
「かもね。それで、どうかな?」
偽の彼女はいるが、別にデートはする約束もないしする気もない。
冬休みは稼ぎ時でもあるので、店長からの申し出を断る必要はないな。
「はい、大丈夫です」
「うん、助かるよ。それじゃあ、お礼としてこれあげるね」
店長は正社員に福利厚生の一環として、年に数枚配られているという40%割引券を俺にくれた。
ちなみに、俺の働いているスポーツ用品店は大型店であり、普段着に使えるような服を結構売っていることもあり、割引券の使い道は幾らでもある。
「ありがとうございます! ちょうど新しいパーカーでも買おうかなって思ってたんで助かります」
「喜んで貰えて何よりかな。それじゃあ、24日は14時~閉店までよろしくね」
俺の元からお店を閉めるための作業へと戻る店長を尻目に、貰ったばかりの割引券を俺は財布へと仕舞った。
さてと、バイトも終わったしさっさと家に帰るか。
さっきまで着ていたエプロンを畳みカバンに仕舞って俺はスポーツ用品店の裏口から外へ出るのであった。
で、家に帰る途中、暇な俺は雪菜へのクリスマスプレゼントのことを考えだした。
あいつが喜びそうなモノ……。
普段の生活で役立つようなモノをプレゼントした方が良いのか?
いや、でも一応渡すのはクリスマスプレゼントなんだから、おしゃれな香水とか化粧品とかの方が……。
なんて考えていると、俺は店長から貰ったばかりの割引券について思い出した。
「雪菜はバスケ部に入ってるし、何か部活で使う物を買ってあげるのもアリか? いや、クリスマスプレゼントだし、さすがに部活で使う物を渡されても……」
このままじゃ埒が明かない。
いっそのこと、何が欲しいか面と向かって聞いちゃうべきか?
偽の恋人である雪菜へのクリスマスプレゼントをどうするべきか悩む。
少々の煩わしさこそ感じはする。
でも、相手を喜ばすために知恵を振り絞って悩むのは――
意外と悪くない。
そう思っていたときだった。
雪菜からスマホにメッセージが送られてくる。
内容を見て俺は笑ってしまった。
雪菜
『クリスマスプレゼントは部活で使うタオルとかテープとかがいいかも』
あまりにもドストレートに欲しいものを言われてしまった。
「ったく、さっきまで悩んでたのは何だったんだか」
俺の働いているスポーツ用品店から駅までは少し時間がかかる。
人通りも少ないこともあり、電話をしながら歩いても平気だろう。
俺は雪菜に電話を掛けた。
『もしもし?』
雪菜はすぐに電話に出た。
そんな彼女に俺は店長から貰ったばかりの割引券について話す。
「クリスマスプレゼントは部活で使えるようなモノが欲しいんだろ? 実はついさっき店長からお得な割引券を貰ってな」
『へー、どのくらいお得なの?』
「40%割引。しかも、適用金額に制限はなしだ」
『……本当に?』
電話越しにでも、雪菜のテンションが高くなったのがわかる。
それがすこし面白くて、俺はニヤついてしまう。
「にしても、クリスマスプレゼントに部活に使う用品をねだるって、それはそれでどうなんだ?」
『別にいいじゃん。晴斗の本当の恋人じゃないんだし』
「ま、それもそうだよな。で、何が欲しいんだ?」
『練習着とか、タイツとか……。いや、いっそのことバッシュでも……』
メッセージではタオルやらテープやらと要求は控えめであった。
だがしかし、俺が割引券を持ってると知ったからか、明らかに雪菜の要求はがめつくなった。
ったく、現金なやつめ。
「俺も割引券を使ってパーカー買うつもりだし、会計を一緒に済ませないとだから何が欲しいか決まったら連絡くれ」
『あー、私も晴斗と一緒に行って一緒に買えばよくない?』
「いいのか? 俺のバイト先で俺と一緒に買い物なんて」
『まあ、プレゼントして貰うんだし別に我慢はできなくは……』
中途半端なところで言い淀む雪菜。
うん、その気持ちよーくわかるぞ。
だって、俺も雪菜と二人で買い物はこう無理ってわけじゃないけど、何というか変な気分でイマイチ乗り気になれないし。
「さてと、そろそろ駅に着きそうだから電話切るな」
雪菜との電話を終わらせに掛かろうとしたときだ。
40%割引券があるし、この際に欲しいモノは手に入れたくてしょうがない雪菜がとんでもない事を口走りだした。
『色々欲しいし……。でも、欲しいの全部を晴斗に買わせるのはさすがに……。あ、お母さんに恋人できたって言えばお小遣い上げてくれるかも……』
「ぶっっ!!」
思いがけない発言に吹き出してしまった。
そして、吹き出したせいで、けほけほとむせ返る俺に雪菜は言う。
『じゃ、お母さんに恋人と遊びたいからお小遣い増やしてってお願いしてみる』
ブチッ。
ツー、ツー、ツー、と通話が終わったことを知らせる音が響く。
俺に何も言わせまいと言わんばかりに、そそくさと雪菜は電話を切ってしまった。
「最近、大人しくなったって思ってたけど、やっぱりアイツも根はまだまだ子供なんだよな……」
成長するにつれて薄れてきた雪菜の子供のような振舞い。
それを久しぶりに味わった俺はニヤつきながら、手に持っていたスマホをポケットにしまい、電車に乗るべく駅の構内へと足を踏み入れるのであった。
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