第11話 淡々と進む日常

 翌日年齢順で二十四歳強撃女を大狐持ちにした。二十六歳刺突男と、子供が作れると言って抱き合って泣いた。やったね高志くん、また赤ん坊が増えるよ。

 二人とも孤狼を獲らせるので、ちょっと待つように言っておく。一身格までは子供は十五枡確定なのだけど、上にぶれる可能性が増える。

 二十一歳的中男は、こちらから言わなくても剣蜂と同じ吼猫を選ぶ。


 翌日はいよいよ、十九歳縮地女こと利爪の番である。

 結果として判ったのは、隠猫は見つけ難い。自分の時は一回、貴凰でも三回だったので、行けば見つかるみたいに考えていたのが甘かった。

 ここが良さそうの謎能力を持ってしても漸く八回目で見つかった猫に縮地で急接近して左前足の脇の下にぶっつり。


 その後翡翠の戦いを思い出させる攻撃が繰り出されて、哀れな猫は無駄に痛い思いをして死んだ。

 そして、貴凰に比べるとなぜか家猫っぽい利爪は、水平に跳ぶように縮地の速度で隠行を発動した。


「この動きを隠跳と名付けたい」

「勝手に名付けるな」

「隠跳でございますね」


 隠跳である。


 十七歳刺突女は、能力の振れ幅がある理由を聞かれて偉そうに話した「多様性の確保」をする、と言って、吼猫を選んだ。

 絶叫に刺突が乗るか、と言う事なのだけど、狙われた猫は射撃と言うより石をぶつけるような攻撃を浴びる破目になった。

 下手に距離を取らなければ、もう少し楽に刺し殺されただろうに。

 絶叫の威力は比較対象がないので判らないが、本人は二つ同時に発動していると言う。


 残りの十五歳的中女鋼棘こうきょくと十三歳縮地女蒼斑猫そうはんみょうはEカップ巡視隊預かりとなった。一撃の威力が思っていた以上に低い。

 半身格獲得組は懸河一門に加えられた。魔獣はリポップするので、中層用の戦力はいくらあっても良い。

 能力が低いので、製造責任者として十七歳刺突女こと投飛剣とうひけん(生まれた娘に投げナイフなんて名前を付ける親もいる)を閨に入れる。

 流石にベッドはもう無理なので、子守用の添え寝台に寝かせる。

 それでもとんでもない出世だと喜ぶ。出世なの? これ。


 特にやる事もなくなり斬蹴鳥獲りの修行に入った訳だが、ノウハウなどはない。

 勝てそうな魔獣見つけて倒し続けるだけ。ボス戦用のレベル上げ作業ですよ。

 親父様の魔窟殲滅は一緒に行く。侠剣が跳狼に挑むので二人で介添え。


 難なく勝てたので少佐に昇進。侠剣殿に逆戻り。佐官はこちらが偉くなっても呼び捨てにはしない。

 大丈夫なので付いて来た剣蜂が泣いて喜ぶ。生身で戦わなければいいんだって。

 臨月でも化身なら戦える。親が来れる場所なら胎児は平気。でも五ヶ月過ぎたら深層には来ないのが常識。


 戦力が増えたので剣蜂は安全の為にEカップ隊に一時合流。投飛剣と二人掛かりの絶叫で、ガナリガモを大量に獲って来る。

 元初子組は順調に育っている。

 親父様からゴーサインが出たので、投飛剣以外の元与力組半身持ちを双身持ちにした。


 まだ転身時間が短い強撃は、孕んだら討伐は戦力外通告なのだけど、浅層での採集の護衛は臨月までするそうだ。

 妊娠に憧れる女利爪は悪い虫が付くといけないので、親父様が閨に入れた。特定の男がまだいない紅ヤンマも親父様の背中に止まっている。


 川上に行って川原の石をぼこぼこ投げ込み、タカワニを誘き出して仕留めて帰ったら、呆れられた。褒めてよ。高志くんまだ七歳。

 こんな簡単に獲れるのにやらないのは危ないからだ。水面上は二身格の鷲も来る。


「やはり、まだ子供なのよね」


 と、お袋様に言われてしまう。

 異世界の大人の知識を持っているだけでこっちの世界の常識はない七歳と、ちやほや育てられたイイトコノムスメ十歳のバカップルである。

 二人だけだと何をするか判らないので、利爪と投飛剣をおもりとして付けられた。

 世間の双身持ちは毎日深層に行かない。


 投飛剣の孤狼獲りの仮想敵に縄張り根性ババの半身格鹿とやらせたら、刺突付き絶叫が真価を発揮した。

 頭に当てるとノックバックする。威力がないのでダウンを取れないのはご愛嬌。


 三匹一人で獲れてから、孤狼獲り決行。豪華三人介添え付き。

 ノックバックするから攻撃はされないんだけど、刺突付きの突きの威力が弱い。

 的中じゃないから急所にも当たらない。武技は達人級のはずなのに。

 負ける心配はないので見てるだけ。中々に厳しい戦いであった。


 与力組の十七歳が双身持ちになったので、懸河一門へのハニトラが激しさを増したらしい。

 紅ヤンマには、最初に孤狼獲った孫の人から話が来ているそうだ。高志くんの添い寝役にはそのくらいの価値がある。


 翡翠のところには太守閣下の用人の息子が通って来ている。どうでもいい。

 太守一門の取り込めないなら入り込もうと言う謀略である。

 忘れていたけど、Eカップ佳鷹は太守家の傍流だった。すでに奥深くまで入り込まれていた。


 無茶をしないと約束させられて、深層通いを許可される。最初の予定では貴凰が十二歳で隠猫を獲れればよかったのだ。

 無難な一身格や一身半の魔獣狩って、果物と判る野菜採って帰る。魔窟殲滅には、化身獲り希望者がいてもいなくても付き合う。


 いない時に利爪にやらせてみたけど、最初の一撃が不意打ちでも倒し切れなかった。一身半の壁は厚い。

 ただ経験値を稼いで毎日を過ごすうちに、翡翠が妊娠したと報告される。名前を考えて欲しいそうだ。

 なんで吾なのか聞いたら、添い寝役だったから。

 もうね、添い寝役と言ったら紅ヤンマだとしか思わないんだけど、世間的にはあいつも名乗れるんだ。


 なぜか、食堂に主要メンバーが集まっている。女の子なので綺麗な鳥がいいそうだ。こちらにいなくてもいい、むしろ地球独自の、それも小鳥ではなくちょっと大き目の。


「大き目で綺麗な鳥と言えば、ヘビクイワシなのだけど」

蛇食鷲じゃしょくしゅう、で、しょうか」

「うん、髪飾りみたいな冠羽があって、顔も優雅なんだ。立ち姿は鷺っぽい。でも鷲」

「鷲は文人の子ではないな。武人なら親のどちらかが二身格持ち以上でなければならない」


 親父様から駄目だしが来る。


「住んでた国の代表的な鳥は雉なんだけど、雄は綺麗でも雌は藪鶉みたいなの」

「それは、なんとも」

「朱色の鷺と書くトキというのもいたんだけど」

「宜しいのでは御座いませんか」

「羽根が美しいので殺されまくって、絶滅しかけてた。絶滅しちゃったかも。縁起よくない」

「よくもそんなことを」

「だいたい鳥って、雄は綺麗だと雌は地味なんだよね」

「もうそれは気にしませんので、綺麗な鳥をおっしゃって下さい」

「あとは風鳥かな。ゴクラクチョウとも言われて、死後に綺麗で楽しい場所に行けると言う思想、願望かな。そんなのがあって、そこに棲んでるような綺麗な鳥、なんだけど」

「はい! 風鳥で御座いますね! 頂きました!」


 それ以上言わせたくないのがありありと判ってしまう。更に色を聞かれて何種類もあると言ってしまったので、子供の名前は虹風鳥こうふうちょうになった。無駄に豪華。

 蛇食鷲は、紅ヤンマが二身半格の色鷲持ちになってから産んだ娘の名になる。


 ちなみに、太守閣下の孫の人との話は消えた。会って話をする前に紅ヤンマが断った。

 生真面目でただひたすら努力する人だったそうな。

 お袋様は、紅ヤンマは甘えてくる男が好みなのよ、と言っていた。

 身近に二人いるけど、どっちも伴侶には向かない。あとお袋様、「は」じゃなくて「も」でしょ。


 化身持ちになって一年が過ぎ、その後に仕込まれた胎児達が、ハッチアウトの時期を迎えた。

 妊娠中もだけど出産もまったく苦痛は無く、ちょっと大き目のうんこ、程度なのだそうだ。

 剣蜂の息子は猛剣、紅ヤンマの妹は黒鵙。

 生後十日もすると、ふにゃふにゃした生き物が赤ん坊らしくなる。みんなでにぎにぎさせて遊ぶ。


 一門の子を回って、ちょちちょちあわわをしたのだけど、誰もしてくれない。

 腹癒せに、にぎにぎが好きでやっているのではなく、母親にしがみ付く反射に過ぎないのをばらそうと思ったら、何か良からぬ事をしようとしているのを察知した親父様に、肩を掴まれて睨まれた。

 むちゃくちゃ怖かった。


 ご大父様の子は画信の関係で見せてもらうのが少し遅くなった。名は剛祥ごうしょう

 貴凰と二人で姉と兄だと紹介されるが、赤ん坊はまったく興味を示さない。


「はい、ちょちちょち、あわわ」

「なんだそれは」

「異界の赤子芸です。剛祥、転生者なのは隠さなくてもいいんだよ、かいぐりかいぐりとっとのめ」

「前より難しいではないか。招かれ人はそうそう現れるものではない」

「そうでしょうか」

「日本人ではないようですね。地球人ではない可能性も当然あります」

「そうですね、異界の赤子芸が出来ないからと言って、招かれ人ではないとするのは早計ですね」


 この世界の女は基本的に諦めが悪い。

 

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