昆虫標本 第三話
巨大アリを見失った2階の階段まで戻ると、角を曲がった部屋に灯りが点っていた。
学校の先生が数人残っている事があると聞いていたので、それほど驚く事はなかった。
『ガラガラ』
俺がその灯りの方を見ていると扉が開いて、1人の小柄な女性が出てきた。
俺を見つけると少しビクッとした後、話しかけてきた。
「あのー、どちら様ですか?」
「すみません、こんな夜遅くに、私こういうものです」
と言って名刺を差し出した。
名刺を見た女性は、何か納得した顔をして話す。
「聞いてますよ、教頭から怪奇現象の取材に来るというのは、あなただったんですね」
笑顔で話す女性はかなり可愛い。
「私、理科の教師をしています、穂高 幸恵といいます」
俺は理科の先生と聞いて、巨大アリについて何か知っているのではないかと思い聞いてみる事にした。
「さっき、巨大なアリを見たんですが、先生は見た事ないですか?」
興奮気味に話す俺とは対照的に、のんびりと「うーん、見た事ないですね」との回答。
「すみませんが、昆虫の標本を見せて頂けませんか?」とお願いしてみると二つ返事で見せて貰えることになった。
穂高先生は見た目は可愛いのだが、少し違和感を感じる。
それは服装、ハイネックの薄手のセーター、黒いストッキング、白い手袋、丈の長い白衣。
まあ、普通と言われれば普通かもしれないが、まだ暑さの残る9月には適さない服装に見える。
そう、まるで体を隠しているように見えた。
そしてラバーのような甘い香りが時々、穂高先生から漂っていた。
鍵のかかった備品を保管している部屋へ通される。
そこには昆虫の標本が多数あり、見せてもらう。
その中で俺の目が止まったのは、クロオオアリと書いた所の標本。
そこだけは抜き取られたように無くなっていた。
“俺があの時見たのは、クロオオアリだったのか?でもデカ過ぎる“心の中で呟く。
穂高先生にも標本が無くなっている事を伝えると、驚いた様子であった。
他にもヒグラシ(セミ科)とアゲハ蝶の幼虫も無くなっていた。
これらの標本が巨大し校内いるのではと俺の不安は大きくなった。
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