人体模型 第四話

俺の不安はかき消されたが、人体模型の中身の正体が気になる。

俺がふとガラスの外へ目をやると、いた!

階下の2階の廊下を人体模型が歩いている。

俺は慌てて階段を降りて後を追いかける。


俺の足音に気づいたようで、目の前に見えた人体模型が早足で遠ざかっていく。

人体模型は校舎と連絡している通路を通り、クラブ活動の部室がある棟へ向かっているようだ。

後ろ姿だけだが、我が校の制服であるセーラー服を着用しているように見えた。

それに靴音からハイヒールを履いているように感じた。


俺も急いで後を追いかける。

俺は部室棟に入ったが人体模型の姿は見当たらない。

見失ってしまったようだ。

ゆっくりと歩き、部室から物音が聞こえないか耳を澄ます。


音は聞こえないが一つの違和感に気づいた。

それは新体操部の部室の扉だけが完全に閉まりきっていない事に。

他の部室は扉は閉められ施錠されている。

人体模型は慌てて、新体操部の部室に飛び込んだようだ。


ゆっくりと扉を開けて中へと入る。

静まり返った部室で耳を澄ます。

どこかで息を潜めているような気配がする。

縦長の細いロッカーの前を順番に歩いて、生きた人体模型を探す。

右奥のロッカーから人の気配とともに、俺から身を隠しているという緊張感のようなものが伝わってくる。


ロッカーの前で立ち止まった俺は突然大声を出してみた。

「わぁーー!」

ロッカーから『ガタン』と音がした。

静まり返った部屋でロッカーに隠れて、息を殺していたのだ。

急に声を出されて驚き思わず体を動かしてしまったのだろう。

音のしたロッカーの取手に手をかけて、一気に開く。

ロッカーの中はジャージやウインドブレーカーがかけられていて奥の方は暗くてよく見えない。

しかし、ロッカーの下の方に視線を落とすと、人の肌でない足と黒いハイヒールが見える。


俺は敢えて見て見ぬふりをして、ロッカーの扉を閉じた。

そして、ロッカーが開けないように、部室の中央にあった背もたれのない長椅子を静かに移動させて、俺はそこに腰掛けた。


ロッカーの中の彼女が自ら出てくる長期戦を選んだ。

俺は堂上先生にバレないようにイチモツを拾って持ち出していた。

それを弄りながら、ゆっくりと待つ事にした。

そして、今ロッカーに閉じ込めた人体模型の中の人が誰なのか推理する。


準備室にいた人体模型は、部屋にいない堂上先生だと身長からも安易に確信していたが、それはアッサリと裏切られた。

自分の推理の浅はかさに情けなくなる。


では、この人体模型の中身の人の事を改めて考えてみる。

身長は堂上先生と同じくらい、うちの高校の制服であるセーラー服を着ていたので、在校生または卒業生、それと先ほど見た黒いハイヒールにも見覚えがある。

そして、今いる新体操部の部室。

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