幕間 美桜① 私のリベンジ

(ゆう兄ちゃんと遊ぶの、相変わらず楽しかった~)


 美桜は駅前を軽やかに歩く。


(これからはもっともっと遊べるってことだよねっ)


 考えるだけで嬉しくなり、スキップで駆けだそうとする。

 しかし、信号は目の前で赤に変わってしまった。


「おっとっと……」


(んま、おっけーおっけー、赤信号りょーかい)


 美桜は心の中で信号機に敬礼を送る。

 だが隣のサラリーマンは小刻みに足踏みをしていた。渡り損ねたらしく、早く青に変われと全身で願っているようだ。焦りが伝わってくる。

 それをみて、美桜は得意気な顔になる。


(はっはっは、私はぜんぜん待てるよ? ゆう兄ちゃんを10年も待ったからね、待つのは慣れてるんだ)


 美桜はそっと髪留め──ピンク色のシュシュに触れる。

 子供っぽいそれは、二十歳の美桜のコーデにはあまり似合わない。

 それでも美桜は外すつもりはなかった。

 悠陽がくれたものだから。


(半年後にはゆう兄ちゃんと旅行……楽しみすぎるっ!)


 もう会えないかもしれないと覚悟した『ゆう兄ちゃん』と再会できたことで、甘えたい欲求が爆発していた。


(ゆう兄ちゃんは青春リベンジって言ってたけど、それは私にとっても同じなんだから……!)


 一緒にゲームだってしたかったし、勉強だって教えて欲しかった。

 おでかけだってしたかったし、部活の応援にも来てほしかった。

 もっと甘えたかった。

 全部できなかった。

 でも。


 信号が青へと変わる。


(あの頃できなかったことも、ゆう兄ちゃんが目を覚ました今ならっ)


 美桜はスキップで駆け出す。


(覚悟してよね、ゆう兄ちゃん♪ たくさん甘えるし、たくさん遊んでもらうし、たくさんワガママ言ってやるんだからっ)


 跳ねる体に合わせて、ピンク色のシュシュが楽しげな軌跡を描いていく。


(私だって青春リベンジしたいんだもん!)


 彼女の頬は桜色の熱を帯びていた。

 そのことにまだ誰も気づいていない。

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