第15話 デートに誘おう! 示談金を払おう!
「ゆ、ゆう兄ちゃん、おはようっ」
「あ、ああ。おはよう美桜ちゃん」
腹を括った翌日。
ドアを開けると、悠陽と同じく緊張した美桜がいた。
互いにぎこちない笑みでよそよそしい挨拶を交わす。
他人行儀な口調で「あ、どうぞあがってください……」「どうも……」などとリビングへ移動する。
ソファへ並んで腰かける。
「な、なにか飲む?」
「だ、大丈夫かなっ」
二人はもじもじソワソワとしている。
互いに探り合うように目を向ける。視線がぶつかって。
「あ、、、」
「う、、、」
二人は顔を赤くして目を逸らした。
傍から見れば、ただの友達以上恋人未満な二人に見えたかもしれない。
だがそうではない。
ここにいるのは「おち○ちんを見せた者」と「おち○ちんを見てしまった者」だった!
互いの罪悪感と恥ずかしさは同量。
ゆえに悠陽と美桜は、申し訳なさそうでありながらも、ほっぺは真っ赤だった!
二人は揃ってもごもごと口ごもる。
先に口を開いたのは悠陽。
「その、今日は言っておきたいことがあったんだ」
悠陽の言葉を受けて、美桜もゆっくりと口を開く。
「う、うん……だと思った。分かってる、私、分かってるよ」
一見すると、愛の告白をしようとしているように見えるかもしれない。だが。
「えっと、この前のことだけどさ(←謝りたいと思っている。それからデートに誘いたい)」
「は、はいっ(←示談に持ち込もうと思っている。あわよくば幼馴染割引で示談金の値下げを目論んでいる)」
ドデカいすれ違い。
ここにはドデカいすれ違いが発生していた……!
だが二人はそれに気づかず。
悠陽は困ったように頭を掻く。
「つまり、その。美桜ちゃんとしては聞きたくない話かもしれないけど」
「う、うう……」
「俺があの、アレを見られてしまったじゃないですか」
思わず敬語になってしまう悠陽。
「俺としてはなあなあで済ませたくはないなと思ったから、今日は来てもらったんだ。ちゃんと落とし前をつける必要がある────だよね?」
その言葉で、美桜は限界を迎えた。
「あ、あの! 私、示談金を払うからっ! だから通報はしないでっ……!」
「はい!?!?!?」
驚いたのは悠陽だ。
自分が頭を下げる覚悟でいたのに予想だにしない単語が飛び出してきた。
示談? 通報?
悠陽にはさっぱりだった。
だが、美桜の喋りは止まらない。
「わ、私、見るつもりはなくって! でも見ちゃってごめんなさいっ!」
「ちょちょちょい、なんで謝るのさ!?」
「安心して、お金はちゃんと用意するから……! だから事件にはしないでっ、お願いっ」
「ぜんぜん聞いてねえな!?」
美桜は暴走していた。
おめめぐるぐるだった。
「ゆう兄ちゃん安心して、バイトしてるし貯金もあるの! それでもダメなら身体で支払うから!」
「か、身体で!?」
刺激的な単語に悠陽のピンクの脳は妄想を繰り広げる。
美桜の顔をまじまじと見つめ、そこから視線がつつーっと下がっていく。
胸元、それから太ももへと。
(あーん♪ とか、歯磨きもヤバかったけど……もしかしてその先も!? って、なんで美桜ちゃんが俺にそんな奉仕を!?)
「うん、身体で────腎臓ってたしか、二つも要らないんだよね?」
「そっち!?!?!? 臓器は大事にして!?!?!?」
「だ、大丈夫。ゆう兄ちゃんには迷惑かけないから……じ、事件になるとゆう兄ちゃんも困るよね……? だから、ここは穏便に示談で……ね?」
美桜が冷や汗をかきながら黒い笑みを浮かべる。
完全にワルい顔だった。
「ちょっ、取りあえず落ち着いて!? まず話を整理しよう!」
「事情聴取……ってこと?」
「いったん事件から離れよっか!」
悠陽がパシパシと柏手を打った。
美桜は「え? え?」と困惑する。
「う、訴えを取り下げてくれるってこと……?」
「そもそも訴えてないから!」
悠陽がツッコむ。
それから居住まいを正して。
「えと、むしろ謝りたいのは俺の方なんだよ……その……お見苦しいモノをお見せしてしまいまして……ごめん……」
悠陽が謝ると、美桜が驚いた顔をした。
「えっ。なんでゆう兄ちゃんが謝るの?」
「なんでってそりゃ……ねえ」
「だって見ちゃったのは私なんだよ?」
「それでいうなら俺だって見せちゃった側じゃん。でしょ?」
「うぐ」
「俺も悪いんだとしたら、俺も臓器を売ってお金払おうか」
「そ、そんなことしなくていいよ!」
「じゃあ、美桜ちゃんもしなくていいじゃん」
「むぅ」
屁理屈も良いところだったが、美桜は渋々といった感じながら納得を見せる。
「でもっ、ゆう兄ちゃんは悪くないよ。私が慌てて扉を開けちゃったから……」
「いやいや、そもそも俺が停電していきなり立ち上がらなければ……」
「いやいや俺が……」
「いやいや私が……」
悠陽はこの不毛な謝り合いを終わらせるべく、咳払いを一つ。
「とりあえず……雷が全部悪かったってことで」
「う、うん……私も忘れ──うん、忘れるから」
美桜の顔がみるみるうちに赤くなる。
ナニを思い出しているのかは明白だ。
その反応で、悠陽もだんだんと恥ずかしくなってくる。
「あっ……うん……えと、忘れてくれると助かる……」
最後の最後で二人してモジモジする羽目にはなったが、こうして『おち○ちんライトアップ事件』は幕を閉じた。
美桜がコーヒーを淹れてくれて、二人はひと息つく。
そこで悠陽は話を切り出した。
本日、もう一つの話題。
「あのさ美桜ちゃん、バレンタインの日って空いてるかな」
「え? 14日ってこと? バイトもないし空いてると思うな」
美桜はキョトンとした。
なにを聞かれているのかサッパリといった顔だ。
(全く意識されてなかったってことだよな……それはそれで寂しいぜ……)
けれど、予定は空いているらしい。
(今はその幸福を喜ぶとするか)
「じゃあさ、美桜ちゃん。その、バレンタインの日、外に出かけない?」
「おでかけ?」
「そう。行きたい場所があるんだ」
「ひょっとしてスーパー?
「いやいや、買い物じゃなくって」
悠陽は照れくさそうにそっぽを向いて言う。
「駅前でバレンタインのバザールがあるっていうからさ、日ごろの感謝を伝えたいなと思って。なんていうかその、デート的なやつができればなー、と」
「でーと………………」
美桜が首をかしげてフリーズし。
「デート!?」
ビクッと体を跳ねさせて再起動した。
「バレンタインにデートってこと???」
「言葉の綾ね!? 普通にお出かけって感じだから! 別に他意はなくって!」
「でもデートなんだよね!?」
「ほら、えっと、母さんから軍資金を渡されてるから、そう、つまりうちの家族みんなからの感謝ってことで」
「そっか、うん、デートってそういう意味でね……うんうん、知ってた知ってた」
やけに「知ってた」を強調する美桜。その頬は赤く染まっている。
そんなこんなで、デートの予定は決まったのだった。
悠陽としては内心でガッツポーズを取らざるを得ない。
(うおお! デート、美桜ちゃんとデート!)
ソファーの上で小躍りしたい気分だった。
昔、夏祭りに誘われたときとはわけが違う。
なんせ、美桜はあのころと違ってすっかり素敵なお姉さんになっている。
あの頃は妹を見守るつもりでいた悠陽も、年上美人とのデートとあればテンションが上がらざるを得ない。
(いや、落ち着け、俺。治ったばっかの心臓をビックリさせちゃいけねえよな、そう……落ち着いて…………いやっふゥ! デート!)
一方の美桜も、なんだか思うところのある顔をしていて。
互いがそれぞれ想いを胸に抱きながら時は過ぎていく。
そしてバレンタイン当日。
美桜にピンチが訪れる。
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