第14話 覚悟を決めた!(なお、美桜は混乱しているもよう)

 休日も終わる日曜日の夕方。

 悠陽はベッドの上で枕に顔をうずめていた。


「ぜってー嫌われた……」


 美桜のことだ。

 土日のあいだ、彼女は一度も家に来なかった。悠陽の両親がいたため世話をする必要がなかったのだ。だから気にすることではないのかもしれない。

 しかしスマホでの反応も素っ気ない。


「あれが原因、だよな」


 嵐の日、風呂場で美桜と遭遇したことを思い出す。

 よりによってデッカくなったを見られてしまった。

 悠陽は寝転がったまま膝を抱える。

 傷ついたハートを守るようなポーズだった。


「終わりだ、もう」


 妹みたいに慕ってくれていた美桜でもあんなモノを見せられては顔をしかめずにはいられないだろう、と。 

 実際の美桜のたかぶりを悠陽は知る由もなく。


(ここから入れる保険があるなら教えてほしいわ……)


 15歳という難しい年齢。

 悠陽の心は折れまくりだった。

 気持ちとしては謝罪をするために立ち上がりたい。けれど今すぐ行動に移すには勇気が足りない。


「はぁ……きっかけがあればな……」


 悠陽は落ち込んでいた。




 一方の美桜はと言えば。

 

(き、気まずい……!)


 こちらはこちらで顔を真っ赤にしてベッドで悶えていた。


(どんな顔して会えばいいの!? ゆう兄ちゃんのを見ておいて!)


 なんでもお世話すると言っても、断じてそういう意味で言い出したことじゃない。


(てゆーか私の方が成人済みだから、状況的には私の方が犯罪者だよね!? 違うのゆう兄ちゃん……わざとじゃなくって……)


 故意ではないのは互いに承知。

 だがハプニングだとしても悠陽のを見てしまったことへの罪悪感があった。


(連絡も素っ気なくなっちゃうし……もう、私のバカ……) 


 なにせ、どんな対応をするのが正解なのか分からないのだ。

 美桜には男性経験がない。

 交際という意味でも、経験値は初期レベルなのだ。


(いっそ気にしてないくらいのノリがいいのかな?)


 過剰に意識してしまうからどう振る舞えばいいのか分からなくなるのなら、さっぱりと流してしまえばいい。

 そんな作戦だ。


(ええと、なるべく軽い感じで──)


「よっす、ゆう兄ちゃん! おち○ちん見えちゃったねえ、わはは! まぁこれからも変わらずお世話するから、気にしないでね♪」


 美桜は頭を掻きながら言ってみる。

 しかし。


「……」


 可否を判定した結果。


「いやダメでしょ! アウトでしょ!」


 ボフッとクマのぬいぐるみに顔をうずめた。

 ダメに決まっていた。

 当たり前すぎた。


(そもそも、ゆう兄ちゃんが気にしなくても私が気にするってば!)


 せめて一言だけでも謝罪ができれば。

 けど、そのための勇気がない。


「はぁ……きっかけがあればなぁ……」


 美桜もまた、落ち込んでいた。




 状況を好転させたのは意外にも悠陽の母親だった。

 夕飯の席。

 ポチ袋がテーブルに置かれた。


「五千円入ってる」


 と言い出した。

 悠陽は箸をおいてポチ袋を受け取る。


「遅いお年玉……ってわけじゃないよな?」

「あんた、美桜ちゃんとデートしてきなさいな」

「で、でーと!? なに言いだすんだよ」


 実の母親からの妙な指令に悠陽は慌てる。

 よりによって、最も気まずいこのタイミングで。


「バレンタインのバザールがあるのよ。駅前で」

「は?」

「イベントだって。駅ビルの」

「それがどうしたっていうんだよ。なんでデートを……」

「別に呼び方は何でもいいけどさ、日頃のお礼でもしてあげてってこと」

「へ?」

「病院に連れてってくれたり、嵐のとき一緒に居てくれたりで助かったでしょう? だからそのお礼ってこと」

「あ、ああ……そーゆー……」


 曰く、チョコを使ったスイーツの屋台や雑貨の露店などが並び、お笑いや音楽のライブイベントなども行われるそうだ。

 母親は申し訳なさそうに言う。


「美桜ちゃんにはお世話になってるのになんにも返せてないじゃない? かといってお金を渡すのも……ちょっと直接的じゃない?」

「ああ、まあ確かに。そんなつもりないって言いそうだ」

「でしょう? もちろん、悠陽が嫌じゃないならで良いんだけど」

「イヤなもんか」


 悠陽は反射的に答えていた。


「俺だって美桜ちゃんには感謝してるんだから、絶対に誘う。このお金も……ありがたく受け取っておくよ」

「そう? じゃあしっかり楽しんでもらってね」

「ああ、任せて!」


 悠陽は力強く答えた。

 そしてご飯を食べ終わって部屋に戻り、床に寝転がって大の字になる。


「って、どうやって誘えばいいんだよっ」


 さっそく後悔していた。

 美桜をねぎらいたい気持ちに断じて偽りはない。

 それでも、なんだか避けられている気がするいま、美桜を誘うのは悠陽にとって難題だった。

 蔑んだ目で見下されたら泣いちゃう自信が、ある!

 それに。

 床に寝転がったまま腕組みをした。


「そもそも出かけるのが、なぁ……」


 先日の筋肉痛事件を経て、外出をすること自体が若干のトラウマになっていた。

 体の衰えを実感させられてしまうことが少し、怖い。

 風呂場の転倒事故アクシデントだって筋力が落ちていたことも原因のひとつなのだ。


(やっぱりこれ、母さんに返してこようかな)


 五千円の入った封筒に触れる。

 本当はそんなことしたくないけれど、あまりにも恥ずかしい。


(でもさ、どんな顔で会えばいいんだ!? 美桜ちゃんはどう思ってるんだ!? 怒ってる!? それとも悲しんでる!? 分かんねえっ……!)


 頭の中で色々な可能性がぐるぐると渦を巻く。

 けれど考えても答えは出ない。出るはずもない。


(あー、もう悩んでもしゃーねえっ! 嫌われてても謝るしかないっ! デートにだって誘ってやらあ!)


 悠陽はついに吹っ切れた。

「明日、家に来てほしい」とメッセージを送って布団をかぶる。

 覚悟は決まっていた。




 一方で、受け取った美桜も覚悟を決めていた。

 悠陽とは別の方向に。


「じ、示談に持ち込まなきゃ……! べ、弁護士、そうだ、弁護士っ!」


 スマホで必死に法律事務所を検索する美桜。

 成人の自分の方がいけないことをしたと思い込んでいる彼女は、あらぬ方向に思考の舵を切っていた。


「み、未成年との淫行未遂に強い事務所ってないの!? あってよ……お願いっ……!」


 悠陽が見たら思わずツッコみそうな暴走っぷり。


「ああっ、でもお金がないっ……! うう、宝くじで増やす……? それかギャンブルとか……」


 そこで美桜はハッとした。


(ゆう兄ちゃんと私は幼馴染。そこまでしなくても、いいよね? ちゃんと謝れば分かってくれるはず────よし!)


 美桜はついに吹っ切れた。

「土下座して示談金は幼馴染割引わりびきしてもらおっ!」と拳を握り締める。

 覚悟は決まっていた。

 絶対に覚悟の方向が違うって! と、ツッコむ人間はここには居らず。

 美桜はトンチキな覚悟を腹に据えて布団をかぶった。


(これでいいはずっ……! これで合ってるよねっ……!?)


 悠陽は美桜の誤解を解いて、デートに誘うことができるのか。

 果たして──






_____

 美桜さん??? 本当に合ってますか美桜さん???

 いつもフォロー、★評価、♥応援、💬コメントしていただきありがとうございます!

 幼馴染がだんだん痴女っていくお世話系ラブコメ、今後もぜひお楽しみください( ˘ω˘ )

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