第13話 お風呂でポロリ

 ホラーゲームで突っ走った者がどうなるかといえば、末路は一つ。


「うう~、ゆう兄ちゃん助けてぇ……」

「はいはい、ちょっと待ってなー」


 意気込んでいた美桜はソッコーで半べそをかいていた。


(まぁ、こうなる気はしてた……美桜ちゃん、昔からホラー苦手だもんな)


 幼いころも怖がりながらこのゲームをやっていたのだ。

 私に任せて、と飛び出したものだから、美桜には勝算があるのかと悠陽は思っていたのだが。

 丸っきりの無策で暗闇に突撃し、案の定怖くなって動けなくなったというわけだ。


(可愛らしくていいんだけどね)


 悠陽はキャラクターをトテトテと歩かせ、部屋の隅でうずくまる美桜の元へと向かう。


「ゆう兄ちゃん、オバケオバケ! その辺にいるからぁ!」


 どこだろうと悠陽が探していると、暗闇からおどろおどろしい笑い声が聞こえる。


「そこか!」


 悠陽は声のする方へ懐中電灯を向ける。

 ライトが当てられた場所は丸く切り取られたように照らされる。

 オバケが光に驚いて硬直していた!


「今だっ」


 悠陽は一気に駆け寄り、持っていた虫取り網をオバケめがけて叩きつける。

 キュウ……と気の抜ける泣き声を発してオバケは捕獲された。


「美桜ちゃん、大丈夫だった?」

「ありがと……ううっ、私がゆう兄ちゃんの世話をするはずだったのに……!」

「ははは。いざというときは頼むよ」


 いざというときは訪れず、そのあとも悠陽が美桜を導く形でゲームは進み、二人は無事にクリアを果たした。

 呪いのアパートから脱出できた解放感から、悠陽も美桜も、そろって毛布を放り上げた。


「あ~面白かった~。リメイク版でもちゃんと怖かったな」

「絶対リベンジする! 今度は私がオバケ退治するんだから!」


 美桜は机の上に置いてあった懐中電灯を点け、ゲームさながらに部屋のあちこちを照らす。

 オバケを見つける練習のつもりなのだろう。

 シュッ、シュッと機敏な動きに合わせて明かりが右に左に動いて。

 その時だった。

 ピシャッと雷が一閃。

 真っ白な光がカーテンの隙間から部屋に斬りこんできた。


「び、ビビった……めちゃ近くないか?」

 

 調べてみると市内には雷注意報が発令されていた。停電の恐れもあるらしい。


「こりゃ本格的に嵐になってきたな。夜にかけてもっとひどくなるって」

「停電しちゃうかな」

「大丈夫だとは思うけど……今日は風呂やめとこうかな」

「お風呂?」

「ほら、入ってる最中に停電してパニックになってケガをした、なんて話はよくあるだろ」

「たしかに……今のゆう兄ちゃんには余計に危ないかも。筋肉痛だし」

「ま、今日は出かけてないし、入らなきゃいいだろ!」


 ガハハ、と笑った五分後。

 悠陽は風呂に入ることになる。

 頭から紅茶をかぶってしまったのだ。


「ごめんね、ゆう兄ちゃん……!」


 あわわわ、と狼狽える美桜。

 ティーポットを運んでいた美桜が毛布に足を取られてよろけてしまった結果だった。


「暗くしてたから仕方ないよ。ポットは無事だったし、気にしないで」

「ホントごめんね……火傷とかしてない?」

「ないない。むしろ濡れたままだと冷える方が怖いかな」


 悠陽はよっこらせと立ち上がる。

 筋肉痛の残る身体だと、15歳なのにおじいさん気分だった。


「着替えついでにシャワー浴びてくるよ。風邪引いたらヤダし」


 悠陽はそそくさと風呂場へ向かう。

 どういうわけか美桜も後ろからついてきた。

 無言で、しれっと。


「なんで!?」

 

 思わずツッコむ悠陽。

 美桜はけろっとしていた。


「だってほら、服も洗わなきゃでしょ?」

「ああ、うん。そゆことね」

「ほらほら脱いじゃって。シミは時間との勝負なんだよ」


 言いながら美桜は洗剤を取り出し、洗面台にお湯を張っていく。

 悠陽はシャツを引っ掴んでひと息で脱────ぎかけたところで、動きを止める。


(……ん?)


 脱衣所の鏡越しに美桜と目があっていた。

 美桜はものすごい勢いで顔を反らす。


(見られていたような気がするけど、気のせいか?)


 悠陽は再びシャツの裾を握り締めて脱ごうとする。

 入院生活ですっかりやせ細ってしまった胸板が晒されて。

 また美桜と目が合った。


「美桜ちゃん……?」

「っハイ!? ドウシタノ!?」


 美桜の声は全てが綺麗に裏返っていた。


「見られたままだとさすがに恥ずかしいなーと、思うんだけども」

「み、見てないよ!? 本当になんにも見てないから!」

「!? めっちゃ目ぇ合ってたよね!?」

「へ、へえー! 私は鏡の汚れが気になって見てただけなんだけどなー! ほら、このへんとかー」


 鏡面に息を吐きかけて、美桜はゴシゴシと磨く。


(なんか隠してるけど……まあ、いいや……)


 そもそも上裸じょうらくらいならそこまで恥ずかしがることもないかと悠陽はシャツを脱ぐ。

 次いでスウェットのズボンに指をかけたところで。

 また美桜と目が合った。

 しかも彼女は心なしか前のめりになっていて。


「あの、さすがに下はハズいっていうか……あの、その……」

「そうだよね! うん! いつ出ていこうかなーって思ってたから。シャツは手洗いするから置いといて!」


 美桜は風のようにピュウと脱衣所を出ていった。

 悠陽はすっぽんぽんになり風呂場へ。

 二月の空気はまだ冷たい。

 悠陽は冷えた体を抱えながらバスチェアにおしりを乗せる。ひんやりとしていて、思わず「ひんっ」と変な声が出てしまう。

 すると、脱衣所の方からバタバタと音がして。


「ゆう兄ちゃん、大丈夫!?」


 美桜が曇りガラス越しに心配してくる。


「だ、大丈夫。椅子が冷たくてビックリしただけだから」

「そう? でも、なんかあったらすぐ駆けつけるから言ってね? 懐中電灯も持ってきたし」

「お、おう。今は平気だぞー」


 シャワーレバーをあげて湯を浴びる。

 それから、ガラスの向こうに見える人影をチラリ。


(正直、さっきまでは停電の怖さもあったけど……。今は美桜ちゃんの気配のほうが心臓に悪くないか!?)


 自分は全裸で、一枚ドアを隔てて年上の美女──美桜がいる。

 そう考えると、とんでもない状況なんじゃないかと急に思えはじめてしまい。

 美桜の恵まれた身体が押し付けられたときのことを思い出してしまい。

 思わず前かがみになってしまう。

 悠陽のが、興奮時に特有のを発揮しはじめたのだ!

 要するに勃起していた。


(マズい! これじゃあすぐ上がれないじゃんか!)


 天候は不順で、いつ停電してもおかしくない。

 悠陽は不純で、いつ暴発してもおかしくない!


(落ち着け悠陽おれ、Be Cool……大丈夫、コールドスリープを思い出せ……になれば鎮まるはずだ……)


 そのときだった。

 突如、世界を闇が覆った。


「えっ」


 言ってしまえば停電だった。

 普段の悠陽であれば、落ち着いて行動ができたかもしれない。

 けれど今の悠陽にはそんな余裕はなく、パニックを起こして立ち上がろうとしてしまう。

 結果、悠陽は転げてしまった。

 激しい転倒音は、脱衣所でシミ取りをしていた美桜の耳にも届いており。


「ゆう兄ちゃん!?」


 美桜は慌てて懐中電灯を灯し、悠陽の無事を確かめようとドアを開ける。

 明るいライトが浴室の一点を丸く切り取る。

 そこには────



 悠陽のがポロリといて、元気にライトアップされていた!






_____

 逮捕待ったなし♪

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 互いの性癖が拗れていく幼馴染ラブコメ、今後もぜひお楽しみください( ˘ω˘ )

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