2
次の日ムスッとしたシリルに、まだ日が出ていない朝早く起こされ、車に乗せられた。
そのまま寝てしまって目が覚めたら、そこは海だった。
日は少し出ているが、まだ早いからかサーファーがまばらに居るだけだった。
「海」
「ああ、そうだな。」
シリルは眩しそうに外を見ている。
車はしばらく走ってから駐車場に止まった。
「水着は?」
「ある訳ないよ。何で海に行くんだったら教えてくれなかったの?」
何の説明もされないまま車に放り込まれたんだ。
何も持ってきている訳がない。
ベンさんは車からテキパキと荷物を下ろしている。
「じゃあ売店で買ってこい」
僕はシリルにお金を押し付けられてから車から降りた。仕方ないので、そのまま売店へと行く。
朝早いが、チラホラとあいてる売店の1つに入り、縞柄の水着を買う。
シンプルなのがこれしかないって、一体何なんだ。
戻ってくると大量の荷物を抱えたベンさんと、麦わら帽子を被りクーラーボックスを持ったシリルが居た。
そして、無言で歩き始める。
僕はついていくしかない。
「一体何をするの?」
「釣りだよ。父さんの唯一の趣味なんだ。時々連れていかれる」
へえ、ベンさんってあまり話した事ないし、いつも家に居るし良く分からないんだよね。
「ねえ、ベンさんって普段何してるの?」
「聞きたい?」
シリルがニヤリと笑う。
絶対ろくでもない。
一生懸命に首を振った。
残念とシリルが呟いたのが聞こえた。僕だって学習するのだ。無駄な事は聞かない。これがこの狂った町で平和に生きる為の一番の秘訣なのだ。
砂浜まで歩いていくと、ベンさんが持っていた荷物を下ろし、ゴムボートに空気を入れて膨らませ始める。
「え、沖に行くの?」
ゴムボート自体は五人も乗れそうな程大きいけど、少し不安だ。
何せ僕は泳げないのだから。
シリルは慣れたようにベンさんが膨らませたゴムボートに乗り、僕も不安を覚えながらも乗る。
ベンさんが何かを操作するとゴムボートは勢いよく発進し、砂浜がどんどん遠ざかっていく。
「凄い勢いで離れてくけど」
「離れないと、魚が居ないだろ」
「そうだけど……」
僕が泳ぐ事が出来ないと言いあぐねている間にも、ゴムボートはどんどん進んでいく。
「もしかして、お前泳げないの?」
図星をさされて、僕は思わず黙ってしまう。
シリルがクスクスとバカにするように笑った。
「お前、何も出来ないのな」
「そ、そんな事ないよ」
ゲームの腕だったら負けないのに。
それより、シリルは外に居るのにも関わらずあんまり不機嫌ではない。
むしろ上機嫌だ。
そっちの方が怖い。
また何か起こるんじゃないだろうか?
「ねえ、今回は何も起こらないよね?」
「お、やっと警戒し始めたか」
「茶化さないでよ」
この二週間で僕は何回も命の危険を感じた。
ギリギリの所で助かっているのは、シリルのおかげなんだろうが、シリルだった僕と同じ年の学生だ。
守るとは言ってくれたけど、不安なのは変わらない。
「父さんが居れば大抵どうにかなる」
シリルが年相応に笑うから、僕も何だか考えこんでいるのが馬鹿らしくなってきた。
友達と海に行くなんて初めてだし、やっとバケーションらしくなってきた気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます