3
二階に行ってしまった二人の事は心配だったけど、嫌われている僕が行ってもいいのか分からない上に、よく知らない人の家に身の置き場がなく、僕は恐る恐るソファに座った。
シリルは窓の開け閉めをしたり、カーテンの裏を見たりしている。
「ねえ、前に別荘での部屋でも同じ事をしてたけど、一体何をやってるの?」
「点検」
「点検?」
オウム返しのように返した僕を、シリルは立ち上がりつまらなそうに見た。
「知らない場所に来たら一通り誰か居ないか、妙な物がないか点検する。それだけで生存率は大分上がる。ロイが座ってるその下に誰か潜んでるかもしれないぞ」
「ひっ」
僕は慌てて立ち上がり、シリルは冗談じゃなく真剣な顔で、ソファの下をのぞきこんでいる。
「この町では知らない場所に行くっていうだけで危険は増すからな。注意は必要だ」
「そ、そうなんだ。でもここって普段オリヴィアさんとか生活してるんでしょ?他に誰か居たら僕たちに言うんじゃない?」
「そんなの分からないだろ。あの人が嘘をついてる可能性もあるんだから」
この町の事を少しはわかったような気で居たけど、それは勘違いだったのかもしれない。
僕は改めて気を引き締めた。
彼女も出来ないまま死にたくない。
「よし、この部屋は大丈夫だ。テレビでも見てろよ。俺は他の場所も見てくるから」
シリルは立ち上がり部屋を出ていく。
散々脅されたからついていこうかとも思ったけど、居てもどうすればいいのか分からないから、とりあえずテレビを見る事にした。
テレビを見ていると時計の音が3回鳴った。
3時になったようだ。
そういえばオリヴィアさんが、おやつを用意してるって言ってたな。
冷蔵庫を開けるとどこかのケーキ屋さんの箱が入っていた。
これは、もしやシリルが滅多に食べれないと言っていた、高級ケーキ屋の箱ではないか。
開けると中には、シュークリームが4つ入っていた。
これを使えばアイラとライラとも仲良くなれるかもしれない。
嫌われたままじゃ辛いし。
あ、飲み物も用意しよう。紅茶とコーヒーどっちがいいかな。
ウキウキと用意をしていると、上から何やら騒いでるような声が聞こえた。
心配になってお湯を沸かしたままだけど二階へと向かうと、部屋の前でシリルがドアを開けようとして、中からアイラが開けないように争っている。
「もう、出ていってよ!!」
「何だ、何か見られちゃまずいものでもあるのか?」
「ここは私達の部屋だから平気よ!」
「ふん、どうだか」
「シリル!!」
慌ててシリルの腕を掴み止める。
「いくら何でも、ダメって言ってる所を無理に入るのは良くないよ」
「関係ないね」
アイラの後ろでは、ライラも心配そうに見ている。
「シリル!」
絶対にひけないと僕も珍しく強く言うと、シリルはため息をついて諦めた。
僕は悪くない。
アイラは睨むように、僕とシリルを見ている。
余計に嫌われたかもしれない。
笑顔を浮かべ、なるべく優しく二人に話しかける。
「ねえ、下にシュークリームがあるんだけど、食べに来ない?」
「「シュークリーム」」
さっきまで言い争いをしていたシリルとアイラが、同じように目を輝かせた様子に思わず吹き出してしまった。
二人は顔を見合わせてから、フンとそっぽを向いた。
その時お湯が沸いた知らせがなった。
「わ、僕は先に下にいってるから」
慌ててキッチンへ行って火を止めると、アイラがライラの手を繋いで降りてきていた。
アイラは空いている手で人形を持っていた。
金色の髪に青い目をした人形を抱きしめている姿は、女の子らしくて可愛いと僕は微笑んだ。
そして、二人仲良くソファに座った。
僕は二人の前に、箱から出して皿の上に乗っけたシュークリームを置く。
「何か飲む?」
「オレンジジュースに決まってるじゃない」
アイラが言うと、ライラがアイラをとがめるようにワンピースの裾を引っ張る。
何か怒っているみたいだった。
するとアイラはばつの悪そうな顔をした。
「オレンジジュースをお願いします」
不貞腐れたようにアイラが頼み直すと、ライラは満足そうに笑った。
そして、お願いしますと言うように僕にペコリと頭を下げた。
どっちがお姉ちゃんか分からないけど、アイラはライラに弱いという事だけはわかった。
「あ、俺はコーヒー」
シリルはソファにどっかりと座って、目はシュークリームに釘付けで動く事はなさそうだった。
「わかった」
もう慣れたので、僕は一人で全員分の飲み物を用意した。
シリルの前には、もちろんシュガーポットを置いた。
シリルが大量に砂糖をいれていくのを、二人は同じように目を丸くしてみていた。
「びっくりするよね。二人は気にしないで食べなよ」
二人は顔を見合わせてからシュークリームを食べると、笑顔になった。
二人で内緒話をするかのように小声で何かを話しながら食べている。
微笑ましい。
僕も一口かじりつくと、とってもクリームが濃厚で美味しかった。
シリルはやっと満足したのか、コーヒーをかき混ぜている。
混ぜる度に溶けきれなかった砂糖がじゃりじゃり言ってるのは、気のせいだよね。
そして一口食べて一回止まって、そこからノンストップに食べ始めた。
甘い物はみんなを笑顔にするな。
シリルのはやりすぎだけど。
食べ終わったシリルが言う。
「なあ、その人形なんだ?ガキじゃないんだから人形ぐらい置いてこいよ」
シリルの言葉に、時間が止まったかのように静かになる。
ライラは助けを求めるように僕とアイラを交互に見ている。
アイラがテーブルをバンと叩いた。
「そんなのあんたに関係ないでしょ!ライラ行くよ」
ライラはまだ途中で食べ終わっていないシュークリームを、名残惜しそうに見ているが、アイラに引っ張られて二階へと行ってしまった。
ああ、せっかく仲良くなれそうだったのに。
「シリル、一体何を言ってるんだよ。失礼だろ。本人だって気にしてるかもしれないのに。それにまだ子供なんだから人形を持ってきたっていいじゃないか」
僕が怒ってもシリルは気にせず、コーヒーをすすっていた。
もう、最悪だよ。
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