9
別荘には明かりがついていなかった。
ブレーカーでも落ちてしまったのか、暗闇で入ってくるのは外からの月の光のみだった。
飛び込んだリビングには異変は全くなかった。
だけど、上の階ではドタバタと人が行き交っている音がする。
僕は転ばないように。でも、急いでシンディの閉じ籠っている部屋の前にいるシリル達と合流する。
「くそ、開かないぞ」
マイケルがガチャガチャとドアノブを捻るが、鍵は開かない。
「あっち行ってよ、来ないでっ」
シンディの怒鳴るような声が聞こえる。
内側に誰か居るのだろうか?
「シンディ、鍵を開けろ!」
扉を叩きながらマイケルが言う。
「マイケル、マイケル助けて!!いやーっ」
「シンディ、今助ける!!」
マイケルが手に持っていた包丁を、メチャクチャに扉に叩きつける。
包丁が扉に当たる度に、木の破片が飛び散る。
危なくて僕は下がってしまった。
「マイケル、やめろ!」
「今、助けてやるからな」
シリルが言うが、全く聞こえていないのか、扉を殴り続ける。
扉は傷がつくだけで全く開く気配がない。
「マイケル、早く助けてっ」
「待ってろ、今すぐに」
たくさん叩きつけたからか、木の扉に亀裂が走る。
マイケルは廊下に包丁を放ると、亀裂を中心に素手で木の破片をむしりとる。すると小さな穴が開いた。
でも、人が通るのにも腕をいれるにも、まだ穴は小さすぎる。
その小さな穴の隙間からマイケルが「シンディ!!」と叫ぶ。
部屋の中ではシンディはドアに近づこうとしているが、真っ黒な服に紙袋を被った奴が行くのを遮ろうと腕を掴んでいる。
シンディはジタバタと手足を動かしているが、相手は全く意に介してないようだ。
そして、ドアの空いた隙間から僕らの方を見た。
が、すぐに興味を失くしたかのようにシンディを押さえつけようとする。
「マイケル、ドアを破るんだ!三人でぶつかれば破れるだろう」
「ああ、そうだな、シリル」
「合わせるんだ。三、二、一」
シリルの合図に合わせて、僕達はドアへとぶつかった。
ドアは軋んだが、一回では開く気配がなかった。
「もう一度だ」
シリルが冷静に言う。
「もうやだ、離してよ!」
「シンディ、大丈夫か!!」
シンディが中から叫ぶと、マイケルは体当たりをやめて穴をのぞきこんでしまう。
仕方なく二人でぶつかってみるが、さっきよりも開く気配はなかった。
「マイケル、早くしろ!」
シリルが言っても、マイケルは穴に目を近づけたまま動かない。
何が映っているのかと、僕も思わず見てしまった。
部屋の中にいるシンディは手を掴まれたままも暴れ、手にしたものを投げつけていた。
その内の一つが、たまたま腕を掴んでいた奴の頭に当たり、怯んだ奴の手がほどけた。
「シンディ、急げ!!鍵を開けろ!!」
「マイケル!!」
マイケルの声にシンディが慌てて扉へと駆け寄る。
「あ」
僕は見てしまった。
頭を振り、痛みを堪えていた奴がシンディの後ろで大きなサバイバルナイフを振り上げるのを。
あれでメイナードの首も切ったのだろうか?
外からの光にあたって、ナイフがドス黒く濡れているのが分かった。
シンディは気づかず鍵を開けようとしている。
「早くしろ、シンディ!」
「手が、震えて、上手く」
カチャンと金属の擦れる音と、振り上げたナイフがシンディの背中に吸い込まれていったのは同時だった。
「シンディ!!」
「マ…イケ…ル」
驚いたように大きく目を見開いたシンディの目から、涙が一筋零れる。
後ろに居た奴はシンディの背中から無造作にナイフを引き抜き、もう一度思いっきり突き刺した。
「ぐぅぅぅ」
シンディの口から赤い血が流れ落ち、瞳から光が消えたのがわかった。
そのままシンディは体ごとドアにもたれるように、ズルズルと崩れていった。
「シンディ!!」
マイケルがドアを押すと、シンディの体はそのまま内側に倒れこんだ。
背中から血が流れ続けている。
マイケルが倒れたシンディの体をかかえこみ、吠えるように慟哭する。
その間にシリルは部屋の中に入り、紙袋をかぶった奴を捕まえようと走る。
しかし、シリルの腕に捕まえられる前に紙袋をかぶった奴は両腕で頭をガードしたまま窓を突き破り、一階へと落ちそのまま走り去っていった。
「くそっ」
僕は一部始終を廊下で見ている事しか出来なかった。
人が、目の前で死んだ。
その事に立っていられなくなった。
フラフラと後ろに下がると壁にぶつかった。何とか倒れる事はしなかったが、一体何が起きたのかが理解できなかった。
何だ、何が起きた?
だって、ついさっきまで皆でバーベキューをしたりして楽しく話していたじゃないか。
なのに、今はもう……
僕はハッとして周りを見回す。
部屋の中ではマイケルが動かないシンディを抱き締め、泣き続けている。
シリルは窓から外を見ている。
「クレアは?」
名前を呼んだが返事が帰ってくる事はなかった。
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