8

 それから時間はそんなにかからずに、燃えるものが無かったのか火は消えた。

 だけど車はもう動かないだろう。

 炭化してかろうじて人の形だけ残っているリッキーの姿は見ないようにした。

 

「倉庫に行くぞ。イカれた野郎に対抗する為には武器が必要だ。バーベキューの道具を片付けた時に何か使えるものがあった気がする」

「マイケル、少し冷静になれ。まずは車だ。マイケルの乗ってきた車が使えるか調べよう。明日町に行くのに必要だし、車を取られたらこっちの機動力は落ちる」

「ふざけんなよ、シリル。こっちは人が二人も死んでるんだ。明日まで俺達が無事で居られる保障もないんだぞ。それよりもこんな事してる奴を捕まえて殺した方が安全だろ」

 

 マイケルは血走った目で、ギラギラと僕達の事を見た。

 その姿に少し怯んでしまう。

 同じ気持ちなのか、クレアがぎゅっと僕の腕を掴む。

 

「来ないなら来ないでいい。俺は一人でも行く」

 

 そういって別荘に向かって、マイケルは歩きだしてしまう。

 

「マイケル、一人で動くな」

 

 シリルもマイケルを追いかけていってしまう。

 いつまでもここに残っていても仕方ないから、僕達も後をついていく。

 別荘の隣にひっそりと立てられた倉庫に、僕達は入った。

 薄暗く色々な物が雑多に置かれている。

 電気をつけると、剥き出しになった電球がついた。

 僕達が使ったバーベキューの道具が手前に置かれていて、ぶつからないように中に入る。

 マイケルはある物をひっくり返すような勢いで奥まで入っていく。

 辺りを見回してみたけど、普段は使わないような道具ばかりだった。

 というか、武器って言われても僕はケンカすらした事がないのに、何を選べばいいのかも分からない。

 シリルはつまらなそうに入り口でマイケルを眺めているだけで、何も探そうとすらしていなかった。

 とりあえず開けてみた段ボールには、クリスマスツリーと飾りが入っていただけだった。

 クレアは僕にしがみついて青い顔をしているから、わざと明るい声で言った。

 

「なんか大変な事になっちゃったね」

「私、怖いわ。二人も死んで。仲のいい友達だったのに、あんな無惨な姿に。次は私の番かもしれない」

 

 そんなの僕だって同じだ。

 だけど、怯えているクレアを見たら弱気な事は言えなかった。

 

「大丈夫だよ。僕が必ず守る。約束したじゃないか、戻ったらデートしようって」

「そうね」

 

 弱々しくはあるがクレアが笑顔を見せたから、僕は少しホッとした。

 誤魔化すように段ボールを開けるが、特に使えそうなものは入っていなかった。

 

「いいものを見つけたぞ」

 

 マイケルが笑顔で掲げたのは、大きな肉を切るような包丁だった。

 綺麗に手入れをしているのか、光に当たってギラギラと輝いていて、僕はゾッとした。

 

「ロイは何か見つけたか?」

 

 怖いから刃をこちらに向けないでほしい。

 

「ま、まだ何も」

 

 言いながらも声が小さくなってしまう。

 僕はマイケルみたいに戦える自信もない。

 

「は?少しは真面目に探せよ。クレアは?」

「私には無理よ」

「バカか。自分の身は自分で守れ。まあ、誰かが襲ってきても、俺がすぐに殺してやるけどな」


 自分の武器が見つかって安心したのか、さっきよりは余裕のある表情でマイケルが言う。

 そして、まだ開けていない段ボールを開け始める。

 

「マイケルは頼りになるね」

 

 クレアもマイケルの様子に、笑顔を向けた。

 

「お、良いもの見つけたぞ」

 

 段ボールの中に入っていたのは、小型のクロスボウで矢が十本ぐらい入っていた。

 

「これだったらクレアの力でも十分使えるだろう」

「使った事ないわ」

 

 クレアが困ったように僕を見るが、僕だって使った事ない。

 

「簡単だ。こうやって矢をセットして、ボタンを押すだけだ」

 

 マイケルが実演するように矢をセットして発射すると、矢は凄いスピードで飛び納屋の奥の壁に突き刺さった。

 

「遠くからでも威嚇になるだろうし、至近距離から撃てば場所によっては致命傷を与えられるだろう。重くもないし、常に矢をセットして持っておけ」

「わ、わかったわ」

 

 覚悟を決めたようにクレアは震える手でクロスボウを受けとり、一緒にあったベルトで体に固定した。

 

「あとはロイとシリルの分か」

「俺はいらない」

「ダメだ。女を守るのは男の役目だろ。お前も武器を持て」

 

 マイケルがまた段ボールをあけはじめると、納屋の電気がふっと消えた。

 シリルが入り口で扉が閉まらないようにしてくれていたから、真っ暗ではないが近い範囲しか見えない。

 

「なんだ!!」

「何、何?」

「とりあえず外に出るぞ!!」

 

 そうマイケルに言われても、開けた段ボールが邪魔をして、上手く前に進めない。

 その上、電気が消えて驚いたクレアに腕を掴まれていて余計に上手くいかない。

 

「きゃあああーーーー」

 

 出れずにモタモタしていると、別荘から悲鳴が聞こえてきた。

 別荘に残っているのは、部屋に閉じ籠ったシンディしかいない。

 

「シンディ!!」

 マイケルは動くのが遅い僕を突き飛ばしながら、倉庫の外に出た。

 シリルが手を貸してくれたから何とか立ち上がり、僕達もマイケルを追いかけて別荘へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る